西川美和★永い言い訳

20170201

永い言い訳



「可愛いというか、まあねえ。とにかく居てやらないと、立ち行かないってだけなんだけど」

 津村ははじめて女の子に告白されたことを仲間に打ち明ける中学生みたいに頬を赤らめた。
 
 一体何だろうか。この突発的に現れた庇護欲と使命感と、そして充足感は。父性を飛び越して、母性に走ったか。

「色々やって分かったけど、育児の大変さに比べれば、仕事なんてたかが知れてると思ったね。とにかく彼らは生きてるんだもん」


 いかにも、冷房の効いた部屋の机の上でしか仕事をしてないやつの言いそうなことだ。せめて
「仕事」の前に「ぼくの」とつけるべきだ。



★永い言い訳|西川美和|文藝春秋|2015年2月|ISBNコード:9784163902142 |○


 『永い言い訳』は、西川美和の小説であり、著者自らが監督した映画(2016年公開)である。

 作家・津村啓(衣笠幸夫)の妻・夏子は友人とともにバス旅行に出かけ事故死する。作家は夏子の友人の夫・トラック運転手の陽一と出会い、その二人の子どもの世話をかってでる。上掲は編集者が見た作家の姿。

 小説の中の気になるフレーズをいくつか引用する。

――「でも、人間のこころだからさ。強いけど、弱いんだよ。ぼさっと折れるときもあるんだ。大人になっても、親になっても。君らのこと、抱きしめても足らないくらい大事でも」

――俺がいつ死のうが俺の勝手だと、本気でずっと思っていたんだ。後悔してる。俺はいったい何のために、君と一緒に居たのかね。

――死は、残された者たちの人生に影をさしこませる。その死の成り立ちようが、痛ましければ痛
ましいほど、人々は深く傷つき、自らを責め、生きる意欲を奪われ、その苦しみは、また別の死の呼び水にもなり得る。

――だけど、自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちやいけない。みくびったり、おとしめたりしちゃいけない。そうしないと、ぼくみたいになる。ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる。

――人間死んだら、それまでさ。俺たちはふたりとも、生きている時間というものを舐めてたね。

 『永い言い訳』は、突然家族を失った人たちはどのように人生を取り戻していくのか、という物語。映画はまだ見ていない。
 映画ではこれらのフレーズをどう表現しているのかを楽しみたい。



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Author:koberandom
1冊の本の中から気になるフレーズを紹介する。2004年から開始し、2015年1月からツイッター版も。全索引あり。

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