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2019. 04. 22  
2019.04.22-2019.02いのちとがん


 もう一つ、よくあるがん患者へのメッセージ、それが死を受容するということだ。心穏やかに死を受け入れる、そのことが結果的に最後の日々を心穏やかなものにして人生を豊かに閉じていくことができる。これも、がん患者のためを思ってのメッセージなのだと思う。

 だが、私は、私の友人や私の父の死を振り返り、そして、自分がこのような死を間近にした病状を迎えている今、死は別に受容しなくてもいいのではないかと思っている。〔…〕

 受け入れなければ穏やかになれないというものでもない。死はそこにある。そして、思わないでいいと、考えなくていいと言われても、考えてしまい、思ってしまう存在なのだと思う。

 だからこそ、怖くて、考えたくなくて、消えてほしい、その存在が消えてほしい。けれども、そこにあるまま、そして、受け入れることができないまま、それでもいいのではないかと思って、最後まで生きるしかないのではないだろうか。

 当たり前のことだけれど、人は死ぬまで生き続ける、
だから、死を受け入れてから死ぬのではなくて、

ただ死ぬまで生きればいいんだと思う。



◎〈いのち〉とがん――患者となって考えたこと|坂井律子|2019年2月|岩波新書|ISBN: 9784004317593|○

 特定の疾病名を検索し、その患者ブログの闘病の日々を読み、その最新ページへ移ると、そこに家族から「亡くなりました」というメッセージが記載されていることがある。なんともせつない。

 闘病本は読む人を励ますために書かれ、闘病ブログは読む人から励まされるために書かれる。と先に書いたことがある。本書は病気と直面する患者やプロとして闘う医療者の何かの力になればと、あとがきに記されている。

 ――闘病記はどれも尊い。しかし、それを読み終わったとき、「密度濃い人生を生きた」、「その人らしく生きた」、「病になったことでより深い境地に達した」と、読者が消費して終わってしまうことを避けたい――。 (本書)

 この“自戒”は、背筋を伸ばした著者の姿勢である。NHK番組制作者としてつちかった“知”を全面に出す。が、ときに……。 倦怠感、重苦しさ、やる気の喪失、自分が自分でなくなる感覚のなかで、家事も、読書も、メールも手につかない。「そんな日常に、もうヤスミタイ。できればヤメテンマイタイ。せんぶオシマイニシタイ。と、弱い私は時々思う」と、“情”も素直に告白する。
  
 ――いま、この文章を書いている2018年5月は手術から約2年後である。この「スタートライン」の日から、術後の激しい下痢生活、脱水での入院を経て、再発、抗がん剤治癒、再手術、再再発、再度の抗がん剤治療、と私は、「容赦なき膵臓がん」と生きてきた。決して根性があるわけでも我慢づよいわけでもない性格の私にとって、「勘弁してほしい」と切に願う日々の連続である。 (本書)

がんサバイバーは日本に700万人いるという。とすれば、どこかに「乗り切り方の傾向」のようなものがないか、と著者が探した「誰もが重要だと考えるが、これまで誰も実施しなかった調査」を紹介している。
静岡がんセンターが行った「がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査」である。がん患者として悩み、それを軽減させるために必要だと思うこと。
 そのなかで、「相談・心のケア」、「医療者との良好な関係」、「家族の協力・理解・支え」等を選ぶよりも群を抜いて多いのは「自身の努力による解決」である。
それは「もちろん、一人一人の心を支えられるのは、最終的には自分自身である。だが、この結果は『持っていく場がない』ということの現れとも取れるのではないか」と著者は書く。

 著者は10数年前に胸腺腫で71歳で亡くなった父親への思いをはせる。もし抗がん剤が効かなければ、残された時間は3か月と医師から聞き、もう新しい治療法を探すというよりは、とにかく苦しまずに最後の日々を過ごしてほしいと思う。しかし4年間の闘病のすえ治療法がないといわれ退院し、酸素ボンベを引きずった車いすの父は、実はさらに治療法を探していたのである。自らが闘病の身になって初めて父の姿が見えてくる。

当方がいちばん共感したのは、患者へのメセージに対する反論である。
 ひとつは、「がんになったからといって死ぬわけではない」に対して「死はイコールではないにしても、死はそこにあり続ける」と。
 もうひとつは、「心穏やかに死を受け入れる、そのことが結果的に人生を豊かに閉じていくことができる」という死の受容に対し、上掲のように「受け入れない」とする。

 なお本書のあとがきは2018年11月4日づけである。同月26日に58歳で死去。


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