野川 |長野まゆみ★発掘本・再会本100選 

20161202

20161202野川



 二学期最後の国語の授業のとき、河井は生徒たちにせがまれて、教科書を閉じて話をはじめた。

「誤解のないように去っておくが、私が話をするのは、きみたちに楽をさせようとするのでもないし、時間つぶしでもない。

人の話に耳をかたむけるのは、実際の風景や音や匂いや手ざわりを知るのとひとしく、心を養うものだと私が信じているからだよ。それは、書物を読むことでも培われる。〔…〕

 私が云いたいのは、たがいに関係がなさそうに思えたものがつながることの幸福なんだよ。そこから、あらたな要素も生まれる。

それが、難解な本を読んだり、年長者の話を聞いたり、日常生活には関係なさそうな数学を学んだりすることの意味だよ
。」


■野川 |長野まゆみ|河出書房新社|2010年7月|ISBN:9784309019956|◎=おすすめ

 相変わらずタイトルに「川・河」のある本を読んでいる。そのことによって初めての著者に出会う喜びがある。

 中学2年の2学期、少年は1級河川しかし川幅の狭い野川の近く、武蔵野台地の中学に転校する。両親の離婚、父の失業によって古いアパートで父と生活する。

 少年井上音和は、ここで国語の教師河井、そして何よりも野川の美しい自然に出会う。

 ――雨はこの土にしみこんで濾過され、長い月日のはてに、にごりのない水となって地面から湧きだしてくるんだ。〔…〕そこでは春も夏も秋も、なにかしらの実生(みしょう)が芽ぶく。踏みつけられ、じゃまにされ、ときには生徒たちの気まぐれで引きぬかれる。

 それでも、したたかに生きのびて、コナラやクヌギのそれぞれの固有の名前があきらかになるころには、もう素手で引きぬくことなどできない。もはや確実に、緑陰をなす大木の後継者なんだ。……この比喩がわかるか? 私はきみたちの話をしているんだよ。(
本書)

 少年は新聞部に入り鳩を飼育する。そういえばかつて新聞社が大量の伝書鳩を飼い、鳩が記事を届けていたことなど、読者の中学生は知らないだろう。

 父、教師、友人、鳩、川、木、自然、……。あとで課題図書だったと知るが、なるほど中学生に絶対のおすすめ本である。




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1冊の本の中から気になるフレーズを紹介する。2004年から開始し、2015年1月からツイッター版も。全索引あり。

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