柚木麻子★BUTTER …………☆みだらに悩ましく濃厚に綴られたグルメ小説

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「バター醤油ご飯を作りなさい」〔…〕

「炊きたでのご飯をバターと醤油でいただくものです。料理をしないあなたにもそれくらいは作れるでしょう。バターの素晴らしさが一番よくわかる食べ方よ」〔…〕

「バターは冷蔵庫から出したて、冷たいままよ。本当に美味しいバターは、冷たいまま硬いまま、その歯ごたえや香りを味わうべきなの。ご飯の熱ですぐに溶けるから、絶対に溶ける前に口に運ぶのよ。

冷たいバターと温かいご飯。まずはその違いを楽しむ。

そして、あなたの口の中で、その二つが溶けて、混じり合い、それは黄金色の泉になるわ。


ええ、見えなくても黄金だとわかる、そんを味なのよ。バターの絡まったお米の一粒一粒がはっきりとその存在を主張して、まるで炒めたような香ばしさがふっと喉から鼻に抜ける。濃いミルクの甘さが舌にからみついていく……」


★BUTTER |柚木麻子 |新潮社|2017年4月|ISBN:9784103355328 〇

  ――梶井真奈子はここ数年世間を騒がせている、首都圏連続不審死事件の被告人である。婚活サイトを介して次々に男達から金を奪い、三人を殺した罪に問われている。〔…〕現在、彼女は東京拘置所に勾留中だ。(本書)

  とあるから、これは2007年から2009年にかけての連続不審死事件木嶋佳苗をモデルにしたものであることは明らかだ(育った地を北海道から新潟に変えたり、細部は異なる)。2004年から2009年にかけての上田美由紀による鳥取連続不審死事件とともに、“肥満体の30代女による結婚詐欺連続殺人事件”である。

  木嶋佳苗事件では、佐野眞一『別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』(2012)が、また上田美由紀事件では、青木理『誘蛾灯――鳥取連続不審死事件』(2013)というノンフィクションがある。

 本書でモデルとして扱われた木嶋は、法廷で“セックス自慢”など、“性”で評判になった。本書でもこんな記述がある。

  ――私の体型が世間で揶揄されていることは知っています。男を喜ばすことが好きなくせに、外見だけは彼らのニーズに反しているなんておかしい、と指摘されたこともあります。私に言わせれば、そうした発言をする人間こそ、男が女に惚れるメカニズムをわかっていません。きっと貧しい性生活しか送っていないのでしょうね。同情します。
  男を赦し、包み、肯定し、安心させ、決して凌駕しないこと。
  たったこれだけのことでいいのです。
(本書)

 しかし本書では、“性”よりも“食”が、みだらに悩ましく濃厚に綴られる。

  某評論家が「文藝春秋」2017年10月号で「殺人事件を扱ったノンフィクション・ノベルの名著として歴史に名を残すことに間違いない」と書いていたので、当方はこれを手に取った。だが、これは木嶋をモデルにしているものの、犯罪小説でもなく、ノンフィクション・ノベルでもなかった。「グルメ本の名著」とすればよかった。
  いかにもグルメな評論家が舌舐めずりして読んだグルメ本であり、料理本である。書店の棚では料理本のコーナーに並べられても不思議ではない。

  ところで本書が刊行されてすぐ木嶋は自らのブログでこう書いている(「木嶋佳苗の拘置所日記」2017年05月13日)。

  ――私も家族も弁護士も知らないユズキアサコという人が書いた本「BUTTER」。
 この本の主人公は、木嶋佳苗ではありません。私は、柚木を知りませんが、柚木も私を知りません。
書籍広告に私の氏名を載せることはやめてください。迷惑だ!
〔…〕

 法律よりも表現の自由が保障されねばならないと言うのか?柚木。
北原みのりが創作した木嶋佳苗像をトレースしているだけだろ?柚木。
拘置所の面会室でレシピの話をする女がいると思ってるのか?柚木。


木嶋は事件の渦中にある2008年頃から「かなえキッチン」という“食”のブログを掲載していたという。本書の著者はここから多くのヒントを得ていたように思われる。

  ――私は本物がわかる人としかおつきあいしたくありません。それにあれはビーフシチューじゃない。フランス料理のブフ・ブルギニョンよ。法廷でも何度も訂正したはずです。あなた達が食に対して無知であきれかえります。(本書)

 本書の感想を書くには当方の手に余る。せいぜい上掲の「バター醤油ご飯」を食べてみたい。

 ――「バターはエシレというブランドの有塩タイプを使いなさい。〔…〕美味しいバターを食べると、私、なにかこう、落ちる感じがするの」
「落ちる?」
「そう。ふわりと、舞い上がるのではなく、落ちる。エレベーターですっと一階下に落ちる感じ。舌先から身体が深く沈んでいくの」
(本書)


佐野眞一■別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判
青木理■誘蛾灯――鳥取連続不審死事件




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