樋口尚文◆映画のキャッチコピー学 …………☆惹句は、映画という非日常に加わりたい「観る欲望」を煽動する

20180423

2018.04.23映画のキャッチコピー学


 映画のキャッチコピー、惹句というものは、一般商品の販促のために書かれたコピーとはいささか「匂い」が違うという気がする。

 それはたとえば通常の車や家電製品のコピーにように精緻なマーケティングに裏打ちされた、消費者の「熟考」にたえ、「吟味」に訴える文言とは肌ざわりが違う。

 言ってみれば、映画のコピーはもっと直観的で、勢いとともに潜在的な観客を煽る、一種野蛮な力をみなぎらせたものであることが多い。

 これはきっと映画の発祥以来、「小屋(劇場)に客を呼び込む」興行の言葉であることに由来しているだろう。


 どんなに一般商品のコピーの名手でも、この泥臭い「呼び込み」のDNAを継ぐ文言はなかなか書けないものである。


◆映画のキャッチコピー学 |樋口尚文 |2018年l月|洋泉社|ISBN:9784800314055|○

 映画を観る楽しみはいろいろあるが、その一つとして「広告で映画の情報を得て、楽しみに公開を待つまでの時間というのを忘れてはならないだろう」と著者は書く。

 その広告での映画情報、すなわち宣伝文句。コピーとかキャッチフレーズ、それはかつて惹句と呼ばれた。

 映画の100年、大正末期から現在までの、日本映画の広告コピー 、輸入配給された外国映画の日本公開時における広告コピーを、その手法や切り口で分類し、紹介したのが本書である。
 著者樋口尚文(1962年~)は映画評論家、映画監督(「インターミッション」2013)。

 ――日々忙しく財布の紐もかたい顧客たちをわざわざ映画館の暗闇に呼び込んで、しかも貴重な数時間を束縛するためには、もっといきのいい祝祭の詞が求められるのであり、そこでの要件は「説得」ならぬ「煽動」である。つまり、映画という非日常に是が非でも加わりたいという「観る欲望」を着火させる「煽り」「祭り」の言葉が、映画の惹句=コピーに欠くべからざるものなのだ。 (本書)

 映画コピーのアプローチとして、スケールと物量、スタアの魅力、上映方式、箔づけ、煽動と煽情、流行感とメジャー感、不明性と期待感、禁止と限定、仕掛けとパッケージ、組み替え、時事性、見世物性、便乗とパロディ、ドキュメント感に分類し、それぞれの代表的なキャッチコピーを紹介している。

 例えば思わせぶりな「不明性」の例として「母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?」の『人間の証明』の有名な惹句を掲げているが、これはもともと西條八十の詩「帽子」の最初の一行である。
 もう一つ、「スタアの魅力」の例として、「いつの間にか地獄が似合う男になって帰ってきたあなた」は、『チェイサー』のアラン・ドロンに捧げるコピーで、作詞家山口洋子の作。

 さて当方が実際に見た映画から、惹句がすばらしいもの、そのベスト5を選んでみた。

*
宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。

――『エイリアン』1979。リドリー・スコット監督、シガニー・ウィーバー主演
*
ふり返れば、人生を乗りかえた駅がある――

――『駅STATION』1981。降旗康男監督、高倉健、倍賞千恵子主演
*
凶暴な純愛映画。

――『ニキータ』1991。リュック・ベッソン監督、アンヌ・パリロー主演
*
生きているかぎり生きぬきたい笑って泣いて―― 心の深呼吸をしませんか?
人生の黄昏に輝く生の一瞬を避暑地の木もれ日のようにさわやかに描く――


――『午後の遺言状』1995。新藤兼人監督、杉村春子、乙羽信子主演
*
久しぶりに映画館であったまりませんか?
東京タワーが建設中だったあの頃、携帯もパソコンもTVもなかったのに、
どうしてあんなに楽しかったのだろう。


――『ALWAYS三丁目の夕日』2005。山崎貴監督、吉岡秀隆、堀北真希主演

スポンサーサイト
プロフィール

koberandom

Author:koberandom



http://koberandom.o.oo7.jp/a-kensaku/index-zen-sakuin.html

Azensakuin_3

最新記事
カテゴリ
平成引用句辞典2013.02~
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR

Pagetop