ロレッタ・ナポリオー二著/村井章子訳◆人質の経済学…………☆後藤健二と湯川遥菜は当初「助かる人質」だった。

20180129

2018.01.29人質の経済学


 湯川遥菜は2014年夏に、後藤健二は同年秋に誘拐され、当初は身代金と引き換えにするグループに分類されていた。

 安倍首相は、後藤が2014年11月に誘拐されたことを承知しており、後藤の妻によると、同月中にイスラム国から誘拐を通告するメールが届いたという。そして12月後半には20億円(およそ170万ユーロ) の身代金を要求するメールが届く。

 交渉はメディアに嘆ぎ付けられることなく極秘裏に進められたが、2015年1月の安倍首相の中東訪問ですべてが変わる。

 首相はカイロでの経済ミッションの会合で、イスラム国と戦う周辺各国に2億ドルの非軍事支援を約束したのである。

 安倍首相のこの約束は、イスラム国にしてみれば、有志連合を挑発し、日本に罰を加える願ってもないチャンスである。


〔…〕そこで湯川と後藤の解放交渉は突如として公にされ、ソーシャルメディアは大騒ぎになった。敵の弱点を突くべく、イスラム国はとうてい受け入れられないような条件を出してくる。


◆人質の経済学| ロレッタ・ナポリオー二著/村井章子訳|2016年12月|文藝春秋|ISBN: 9784163905808|○

 上掲にあるようにジャーナリスト後藤健二への身代金は20億円だったが、安倍首相が「イスラム国と戦う周辺各国に総額で2億ドル(200億円)程度の支援をお約束します」という発言したのち、後藤の身代金はその支援金と同額の2億ドルと10倍になった。こうして1月末に湯川と後藤は処刑され斬首の画像が全世界に発信された。

その10年前の2004年、日本人では劣化ウラン弾廃絶運動の一員18歳の今井、ホームレスの子ども支援の34歳の高遠、週刊誌取材のフォトジャーナリスト32歳の郡山の3名がイラク南部で武装集団に、またフリージャーナリスト30歳の安田純平と、市民団体に所属する元自衛官36歳の渡辺も誘拐された。

 かれらは、政府の渡航自粛勧告を無視して拉致されたのだから自業自得だと、政府やメディアから激しいバッシングを受けた。安田は2015年に再度拉致され、今も行方不明のままである。

 他方、同じ2004年に誘拐されたイタリア女性2人は、イラクへの先制攻撃を正当化する物語に仕立て上げられ、ヒロインのように扱われたという。

 すべては、2001年9月11日が発端だった。アメリカ同時多発テロ事件。
 第1に、その後、アメリカは報復として、対テロ戦争、イラク戦争を行い、これが大量の難民を生む根本原因となった。
 第2に、世界の麻薬取引の利益は大半がアメリカで洗浄され、クリーンな米ドルに替えられていたが、愛国者法(PATRIOT。正式名称は、テロリズムを阻止および防止するために必要な適切な手段を提供することによりアメリカを団結させ強化するための法律)によってドルのマネーロンダリングができなくなり、舞台はアフリカを経由しヨーロッパのユーロ決済ルートに移った。

 やがて犯罪組織や武装集団は誘拐によって資金調達をするようになる。当初誘拐の主たる対象は、紛争地に難民を救援するために赴いたNGOなど援助団体のメンバーや、紛争地の悲惨な状況を世界に伝えようと取材に入ったジャーナリストたちだった。

 ――誘拐の目的は三つあった。難民キャンプからNGOを追い払うこと。欧米に拘留されている仲間のジハーディストを解放させること。そしてもちろん、身代金をせしめることである。 (本書)

 アフリカに麻薬が持ち込まれ、それが誘拐ビジネスに発展した後、犯罪集団は人質から、難民の密入国斡旋という新しい“品目”を扱うようになる。

 ――2015年に中東で発生した大量の難民が雪崩を打ってヨーロッパをめざす難民危機が起きたとき、誘拐組織や密輸組織が密入国斡旋に手を拡げるのは造作もないことだった。彼らはすでに緻密な組織を持っていたし、人質の取引で得た潤沢な資金を新しい商売に投資することもできたからだ。 (本書)

 ヨーロッパに流入した難民の90%は、犯罪組織によって行われたという。東地中海ルート、すなわちシリアからトルコ、ギリシャを通り、バルカン諸国経由でドイツやスウェーデンをめざす。このほか、リビアからイタリアへ渡る中央地中海ルート、さらにモロッコからスペインへ渡る西地中海ルートである。密入国斡旋業者は、出航許可を得るために利益の半分をイスラム国に納めるという。

 こうして大量の難民の流入という圧力を受けて、英国のEU離脱などヨーロッパの内部崩壊が始まった。

 著者のロレッタ・ナポリオーニ(1955~)はローマ生まれ。『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』等の著書をもつマネーロンダリングとテロ組織のファイナンスに関する研究者だという。本書、誘拐ビジネスについて書いてはとヒントをくれたのは、日本の版元である文藝春秋の編集者だったという。

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井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作◆大人のための社会科――未来を語るために…………☆自己責任社会は、いまを生きる多くの大人たちに生きづらさを刻み込んでいる。

20180122

2018.01.22大人のための社会科


 日本国憲法では、その第27条1項に、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」ことが盛り込まれました。ちなみに、

いま現在主要先進国のなかで、「労働の義務」ではなく「勤労の義務」を定めた憲法をもつ国はありません。

それだけ日本人にとって勤労とは独特の価値をもつものだったのです。


 「勤労の義務」とは、まじめに労働にいそしむという「あるべき日本人の姿」を示しています。問題は、この考え方が、日本国憲法の第25条1項と結びついていた点です。

 ――第2章 勤労――生きづらさを加速させる自己責任の社会


◆大人のための社会科――未来を語るために|井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作|2017年9月|有斐閣|ISBN: 9784641149205|○

たまたま図書館で手に取った「中央公論」2018年1月号。作家の五木寛之(1932~)とそのご指名による慶大教授井手英策(1972~)との対談「85歳の作家が気鋭の財政学者に訊く 日本は本当に貧しくなったのか」があった。二人の世代の違いか、まったく話がかみ合わないが、消費税論など、その面白さに、井手英策に興味をもち、本書を手にした。以下、コメントを加えず、紹介のみ。

 本書は社会科学といっても財政学、政治学、経済学、歴史学と専門分野の違う4人によって書かれた「教科書」である。

 第1部ではGDP、勤労、時代という経済、第2部では多数決、運動、私という政治、第3部では公正、信頼、ニーズという社会、第4部では歴史認識、公、希望という未来を読みとくキーワードが用意される。

 上掲の「勤労」では、まず辞書に「賃金をもらって一定の仕事に従事すること」と同時に「心身を労して仕事に励むこと」と説明がある勤労の概念から始まる。現行憲法制定時にも「勤労の義務を果たさない者」には「国は生存権を保障する責任はない」という主張が公然と行われていたという。

「勤労国家は自己責任によって支えられ、これを家族や地域の助け合いが補完していた」という戦後の流れを概観する。

 ――袋だたきの対象のなかには、地方に住む人々、貧しい人々、高齢者や病気になった人など、多くの社会的な弱者が含まれていました。このように社会の優しさが失われた理由は何だったのでしょう。

 それは、中間層の生活水準が激しく劣化したことです。1990年代半ばをピークに、年収400万円から800万円くらいの所得階層の人たちが大きく所得を落としました。95年に34%だった年収400万円以下の世帯の割合は、47%に増えました。また、いまでは、非正規雇用の割合が全体の4割におよび、年収200万円以下の世帯割合も2割を超えています。
(本書)

 そしてこう結論づける。

 ――勤労国家という名の自己責任社会は、いまを生きる多くの大人たちに生きづらさを刻み込んでいます。 (本書)

 第4部では「人間と人間が価値を分かち合うときに、はじめて個の集合は社会に変転します。しかし、歴史認識問題に象徴されるように、過去の事実でさえ、価値の共有が難しいのかいまの状況です」とし、第10章「歴史認識――過去をひらき未来につなぐ」では、以下の記述が……。

 ――政治家は、歴史認識問題について「未来志向」という言葉を用いることがあります。これが、過去のことはきれいさっぱり忘れてしまおう、という意味ならば、それはむしろ問題を過去に押しやるだけで、そうして押しやられた過去は、いつか再び現代社会に噴出してきて、未来を作ることの妨げになってしまうでしょう。

 過去を、相互不信を生み出す源泉ではなく、認識の共有の場とすることは、人々が協力しあい、〈私たち〉として、未来を作っていくための必要条件なのです。
(本書)



畠山 理仁■黙殺――報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い…………☆全裸や候補者名のないポスター、放送禁止用語連発の政見放送の真意は……。

20180115

2018.01.15黙殺


 実際、後藤は20歳の頃から政治家を目指し、政治について考えてきたという。
 それなのに後藤は政見放送であえて政策を言わず、「放送禁止用語だらけの政見放送」にした。なぜなのか。
 後藤は私の問いかけに姿勢を正し、まっすぐこちらを見て答えた。

「『政治に関心を持たないのはなぜなんだ!』という怒りがある。もともと自分が立候補したのは、

『なんだこいつは』『なんでこんなやつが立候補しているんだ』と驚きを与えることで、みなさんに政治に関心を持ってほしいと思ったからです」
〔…〕

 しかし、都知事選の供託金は300万円だ。そんな大金を失うリスクを冒してまでやるべきことなのだろうか。

――第3章 東京都知事候補21人組手


■黙殺――報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い |畠山 理仁|2017年11月|集英社|ISBN: 9784087816518|○

 本書の帯に「落選また落選! 供託金没収! それでもくじけずに再挑戦!」とあるが、新聞・テレビなどのマスメディアからは「黙殺」されがちな立候補者たちを追ったもの。

 たとえば、2016年の東京都知事選には、小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎の“主要3候補”をはじめ21名が立候補した。

 ――この都知事選中に民放テレビ4社の看板ニュース番組が「主要3候補」と「それ以外の18候補」に割いた時間の比率は「97%対3%」だった。〔…〕公職選挙法に抵触しないよう、「主要3候補」の報道が終わった後に全候補者に触れている。たとえばテレビであれば、「今回の都知事選には、ご覧の18人も立候補しています」と申し訳程度に名前と年齢をまとめて表示し、数秒間だけ映す。 (本書)

 “泡沫候補”のなかでもっとも著名なのがマック赤坂(1948~)という人。著者に問われて、マック赤坂はいう。

 ――「私が壊したいのは、体制、常識、コメントばかりして行動できない人。〔…〕NHKは日本の保守的な部分、とんでもなく常識的な部分だ。しかも、NHKに出れば日本人はコロッと信用する。おれはNHKという権威に対する過度な信頼感も壊したい。何も考えずに信用してしまう日本人の無意識を壊したい。それを一旦壊したら、瓦礫の中から何かが生まれる。そこなんですよ、私の原点は」 (本書)

 当方がとりわけ興味を持った“泡沫”は、上掲の後藤輝樹(33歳=7,031票で21名中13位)という人である。

 後藤の都知事選でのポスターには、軍服姿の本人の写真はあるが、「候補者の名前」が書かれていない。また、それ以前の千代田区議選では「全裸ポスター」を使用したという。

 その後藤の「選挙公報」に掲載した公約は、以下のようなもの。

 ――「江戸城天守閣を再建」「築地市場移転を中止、見直し」「東京五輪中止または超低コストでや
ります」「横田基地を返還させ、横田空域を解放し、首都圏の空の主権を回復します」「排気ガス税導入」「超高層ビル群を建設」「日本の漫画アニメ特撮等の純国産テーマパーク」「無修正ポルノを合法化します」「パチンコ店を減らします」「独身税、肥満税、海外旅行税を一律10万円にします」「東京都心の最低時給を1200円以上にします」「1度だけ歯列矯正を無料にします」……
(本書)

 ユニークなものもあるが、東京をこうしたいという、しっかりとした政策である。だが、全裸や候補者名のないポスター、6分間放送禁止用語を連発する政見放送をしなければならないと、後藤が思うほど、若者たちは政治に無関心なのだ。

 本書ではこうした“泡沫=無頼系”候補に密着している。
 かつて朝日新聞は候補者を「一般候補」「準一般候補」「特殊候補」の3つに分け、報道に格差をつけるようにしていたという。
 準一般候補:当選の可能性は別にして、まじめなミニ政党などの候補者。
 特殊候補:選挙を売名や営利などに利用したり、自己のマニア的欲求を満足させるために数々の選挙に立候補、云々。

 当方は“泡沫候補”はただただ目立ちたいだけと思っていた。だがよく考えると、当方も“泡沫”ではないが、選挙地事情を見れば落選するだろうなと思いつつ“反安倍”であるが故に野党の候補に一票を投じることがある。当方からすれば“泡沫候補”も“野党候補”も“落選覚悟”に見える。

 そして“泡沫=無頼系”候補にとって最大の難関である供託金の確保に奔走する姿を知り、これは目立ちたいだけではないと思うに至った。

 衆・参の選挙区、300万円、比例で600万円。知事選も300万円の供託金が必要なのだ。衆院25歳以上、参院、知事30歳以上で、「誰でも出られる」といっても、経済的ハードルが厳しい。ちなみに供託金は、イギリスが7万5000円、カナダ、オーストラリアが9万円、韓国でも150万円程度だそうだ。フランス、ドイツ、イタリア、アメリカなどは供託金制度そのものがない。

 著者は20年にわたる選挙取材から本書を執筆し、“泡沫=無頼系”蔑視に異を唱え、メディアの扱いに疑問を呈し、供託金など選挙制度の改善を提唱する。



広原盛明★神戸百年の大計と未来 ……☆市役所一家の呪縛から逃れられない“残念な本”

20171107

20171107神戸百年の大計と未来


 人口縮小にともなう都市の様相や市民のライフスタイルの変化は、すでに神戸でも随所にあらわれている。〔…〕

 整然とした街並みを誇った都市景観が観光客の眼には画一的と映り、却って都市の魅力を失う引き金になっている。

 成長の時代には神戸を「輝ける都市」に押し上げた成功要因が、縮小の時代には逆にマイナス要因へと急速に転化しつつあるのである。〔…〕

問題なのは数々の政策が提案されてきたにもかかわらず、神戸市政にとってはそれらが単なる「アイデア」の段階に止まり、本格的な政策転換の課題として認識されてこなかったことである。

 云い換えれば従来からの成長型コンセプトを基本的に維持したまま、新しいアイデアを考えるという小手先の「改良レベル」の対応が、本格的な政策転換を阻んできたのである。

――序章 神戸開港150年を迎えて 広原盛明


★神戸百年の大計と未来  |広原盛明ほか|晃洋書房|2017年8月|ISBN:9784771029149 |△

 神戸は元気がない、と全国をツアーするミュージシャンが言う。「神戸へ行ったらこれを食べようというご当地グルメがない。仙台の牛タンや名古屋の味噌カツのように、和食の店でもレストランでも、“神戸ステーキ丼”をメニューに入れたらいいのに」。
そういえば灘の生一本の飲み比べをしながら、神戸牛のステーキやすきやきを食べられるという気楽な居酒屋を紹介したいが、当方もそんな店は知らない。

 さて、神戸は戦前・戦中・戦後を通して一貫して高度成長を目指した急進都市であった、という。その神戸が、元気がない。次の時代に立ち向かう「神戸百年の大計」が求められている、として本書が編まれた。まえがきに、「本書は、神戸市民や市関係者と共にいま神戸市政が直面する課題を分析し、その打開方策を見出そうとする1つのささやかな試みである」云々とある。

 著者広原盛明といえば、神戸市政批判の急先鋒の人というイメージがある。しかし本書は「神戸再生の書」であって「神戸批判の書」ではない、と繰り返し述べられている。

 第1部では、神戸が直面する3大プロジェクトの課題として、
1 神戸医療産業都市構想の推移、その背景(川島龍一)
2 神戸空港は再び離陸できるか(高田富三)
3 新長田南再開発に未来はあるか(出口俊一)
 が、俎上に載せられる。たしかにこの三つは1995年の大震災以降の最大の課題である。

 当方の率直な考えをいえば、医療産業都市への一点集中投資により、福祉、文化、その他の市民生活への意欲的な施策が組まれなかった。
 また理化学研究所のSTAP細胞騒動、医療産業都市構想全般にかかわった笹井芳樹氏の死去、国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)による生体肝移植事故など、医療産業都市戦略が一挙にイメージダウンした。
 神戸空港は、3空港の機能分担としてLCC格安航空専用に特化することによって飛躍すべきだった。
 新長田南再開発は、地域を平凡な高層住宅群にしてしまい、アジアの“職”と“食”を拠点としたまちづくりのチャンスをのがし、長田の下町気質も地下鉄海岸線も生かすことができなかった。

 さて、本書の眼目は最終章「人口縮小時代、神戸再生への視点」(広原盛明)にある。神戸が今なすべきことは、神戸再生のための新たな座標軸すなわち「ポストモダン都市=現代都市」の方向性を見極めることである、とする。

 「神戸らしさ」とは、神戸が発祥の地となった「ハイカラ文化=洋風の生活文化=都会文化」であり、「都会っ子=神戸っ子=生粋の神戸市民」によって体現されている都会風のライフスタイルのことだという。そして、
「グローバル時代の神戸文化=ハイカラ文化十郊外モダニズム」という図式の中に解決のヒントがある、とする。

 都市づくりの方向としては、郊外住宅地の良好な環境を維持しながら、中心市街地や既成市街地の多様な「まちなか文化」の再生を目指すというもの。
 もう一つは、都会の中にあっても郊外的なライフスタイルを可能にする「新まちなか住宅」を計画するとか、郊外であっても都会生活を楽しめる「新郊外モダニズム区域」を開発して都会と郊外の交流を活発化させるという方向。
これに加えてもう1つ、これまでの西欧型ハイカラ文化を発展させて、神戸が「多文化共生都市」をつくり出すというもの。

 この結論は大枠過ぎて、具体的なイメージもわかないし、何も提案していないのと同じある。

 ――思えば1989年11月に笹山市政がスタート以来、長らく「宮崎ロス=宮崎なき宮崎イズム」の時代が続いてきたが、いま漸く「ポスト宮崎」時代への動きが始まってきたように思える。(本書)

 海上都市ポートアイランドでのポートピア81博覧会は宮崎辰雄市政(1969~1989)の、いや神戸という都市の絶頂期であった。そして1995年の大震災。それから20年を経て、ようやく復興をなしとげた段階である。復興の息切れで、次なる明確な目標が見えてこない状態が続いている。
 本書では大阪がしばしば引用されているが、その大阪は考える前に暴走でもなんでもとにかく走るのに比べ、神戸は2017年久元市長の公約で分かるが、相変わらず市役所一家による市役所的発想から抜けでない。

 著者が書いているように本書で紹介された「これらの神戸再生のアイデアは、これまでも多くの識者から指摘されていたことであって特に目新しいものではない」し、また、結びの言葉が、「神戸の新しい潮流をになう(市役所の)中堅管理職員の台頭に期待したい」では……。なるほど「まえがき」のある「市民」はつけたしで、「市関係者」向けの本であったのか。

 市役所一家による役所的発想から抜けでよ、そして若い商工業者、企業家、NPO、学生を鼓舞する提言が「神戸再生の書」の役割ではないのか。市役所一家の呪縛から逃れきれないなんとも残念な本である。

 神戸は元気がない、と全国をツアーするミュージシャンが言う。「最近、BE KOBEという誰から誰へのメッセージかわからないキャッチコピーが使われ、港にBE KOBEという立体文字が据え付けらています。アムステルダム名物の「I am・sterdam」の立体文字のパクリじゃないでしょうね」。

発掘本・再会本100選★名君の碑 保科正之の生涯|中村彰彦…………☆評伝的小説で“発掘”された肥後さま

20170905

2017.09.05名君の碑


「かえりみまするに天守閣とは、織田信長公の築きたまいし安土城のものがはじまりだったのではござりますまいか」

 さらに、正之はことばをついだ。

さりながら豊臣家が大坂城に滅ぶまで、天守閣がいくさのおりに要害として役立った例は史書に見えませぬ。

すなわち天守閣とは、そこに登りさえすればただ遠くまで見えるというだけのしろもの。


 大火後の公儀の作事がさらに長引くならば下々の暮らしむきの障りになるやも知れず、いまはかようの儀に国家の財を費すべき時にあらず、とそれがしは愚考つかまつります」


★名君の碑 保科正之の生涯 |中村彰彦 |文藝春秋|」1998年10月/文庫版2001年10月|ISBN: 9784167567057|〇

 当方の東北ひとり旅シリーズは、福島県を残すのみとなったが、体調を崩し、断念したままである。そこで福島ゆかりの本書を手にした。

 将軍家光の異母弟にして、のちの会津藩中興の祖保科正之は、その輝かしい功績は知られることなく、歴史に埋もれていた。それはもちろん明治薩長史観による朝敵会津だからだろう。未読だが、中村彰彦には、『保科正之――徳川将軍家を支えた会津藩主』(1995)、『保科正之言行録――仁心無私の政治家』(1997)の著書があり、光をあて、歴史に再登場させた。

 保科正之が四代将軍家綱の輔弼役としての功績を、著者は列挙する。

1 家綱政権の「三大美事」の達成(末期養子の禁の緩和、大名証人〔人質〕制度の廃止、殉死の禁止)。
2 玉川上水開削の建議。
3 明暦の大火直後の江戸復興計画の立案と、迅速なる実行。


 このうち明暦の大火は、江戸時代最大の火事で、江戸の町の6割が焦土と化し、10万人が焼死した。このときの保科の判断。

1 火事が城に迫ったとき、天下のあるじ家綱を軽々しく城外へ非難させるのはもってのほか、と反対。
2 幕府の米蔵が焼けたとき、火を消して米を持ち出せ、すなわち窮民は火消しに、蔵米は救助米にと一石二鳥の案。
3 諸大名に帰国を命じ、米の需要を減じ、米価を安定。
4 主要路の道幅を6間(11m)から10間(18m)になど大胆な復興計画。

上掲の天守閣再建問題は、そのときのもの。この江戸城の天守閣はついに再建されなかった。明治以降、宮城、皇居と名を変えた。もし天守閣が復活していたら、天皇家はこれほど親しみをもって存在したか疑問である。

 保科は、高遠藩、山形藩、会津藩と国替えがあるのだが、住民たちも保科を慕いついてきた。

  ――今日も長野県高遠町と福島県会津若松市とに、共通する姓が多いことは知る人ぞ知る事実。会津若松市のそば屋にかならず「高遠そば」という品書きがあるのも、正之にはじまった両地方の歴史的むすびつきを示す事例のひとつだ。

 いずれにしても、去った土地では惜しまれて臼ひき唄に歌われ、あらたに統治した土地で善政をまた唄に歌われた大名というのも珍しい。
(本書)

 会津藩主としての業績は、飢饉の年にも餓死者がなくなった社倉制度の創設、また間引の禁止等がある。そして、「あんずの種をそっと土に埋めるように、生涯を閉じる前にわが会津藩に不変不動の精神を植えつけておきたい」と会津藩の憲法である家訓十五ヵ条の「会津藩家訓」の制定。

一、大君の儀、一心大切に忠勤を存ずべく、列国の例をもってみずから処(お)るべからず。
もし二心を懐(いだ)かば、すなわちわが子孫にあらず、面々決して従うべからず。


 「徳川将軍家に対しては一心に忠義に励み」云々というもの。歴史の恐ろしさは、保科正之から200年後、9代藩主松平容保が家訓にそって京都守護職を受け、戊辰戦争を経て、“賊徒首魁”会津藩は下北半島の斗南藩に移封(10/1に縮小)。石光真人編著『ある明治人の記録』の柴五郎のことばを使えば、「挙藩流罪という史上かつてなき極刑」となる。

 さて、当方、福島へは以前、猪苗代湖を見下ろす磐梯山の麓に宿泊、会津若松の県立博物館へ、また福島市へ出張の折は県立美術館を訪ねたことがある。

 そこで今回のひとり旅は、旧磐城平藩(保科正之の正室は磐城平藩主内藤政長の娘菊姫)であるいわき市、その3.11の傷跡のままの海岸線を塩屋岬まで車で走ること、大内宿を経由して只見川河畔に泊まり、会津柳津町の斎藤清美術館を訪ねることを考えていた。その木版画の会津の風景が今も車窓に残っているのを祈って……。

金 香清★朴槿恵 心を操られた大統領 …………☆“秘線”たちがつくった「朴槿恵システム」の崩壊

20170826

2017.08.26朴槿恵心を操られた大統領


 実は、朴槿恵も崔順実のように文章を区切らず、「これ」「それ」といったあいまいな言葉を乱用し、脈絡なく話すことで知られていた。

 2017年1月2日、彼女は弾劾訴追後に記者たちを集めて、懇談会を開いている。朴槿恵大統領にしては珍しいサービス精神に思えるが、国民から激しく糾弾されていたこともあり、記者たちに本音を聞いてほしかったのだろう。

 ところが、大統領の肉声を聞くため集まった多数の記者たちは戸惑った。

その日はいつもの会見と違って原稿がないからか、話に脈絡がない上に、「そこ」「これ」など代名詞が多くて、大統領が何を言いたいのか理解しにくかったからだ。


 <しかしこうやって、ほかのなんていうか、報道というか噂、話、どこかの放送に出たのを見ると、あまりに多くの歪曲、誤報、そこに虚偽がそのまま乱発されて、それで思い通りにならないように、どこからどこまでが事実なのか、

また見ると「それも事実でなかった」、少し経つと「いや、これも事実でなかった」という風に言って広報室で:、こうやっていては終わりがないと、それで青瓦台ホームページに誤報を正しますとしてやって、

やったのにそれも全部はできなくて、いまあることだけでも数十あるし、おそらくすべて合わせると数え切れないほど多いでしょう>


★朴槿恵 心を操られた大統領 |金香清 |文藝春秋|2017年4月|ISBN: 9784163906157|○

 朴槿恵(パク・クネ、1952~ )は、2013年2月、大統領に就任したが、セウォル号事件への対応不備や崔順実(チェ・スンシル、1956~)ゲート事件など一連の不祥事により、2017年3月大統領弾劾で罷免された。現在はソウル拘置所、12㎡の特別独房に収監されている。薄緑色の服を着、番号「503」で呼ばれている。

 さて、上掲は青瓦台の常春斎という建物内での大統領懇談会。日付が2017年1月2日となっているが、中央日報日本語版によれば1月1日。記者団にあいさつをした後、一人一人に握手をした。43分間続いた懇談会で、朴大統領は「徹底的な自己防御」をした。

 崔順実被告について「数十年来の知人だが、だからといって知人がすべてをするわけがない。大統領の責務と判断があるのに、どうやって知人がすべてを行うのか」と語った。自らを「操り人形」などと言われているのを念頭に置いた発言である。

 予告なしの「報道前提」の懇談会だった。にもかかわらず自由な取材は認めなかった。ノートを持って懇談会場に入ることも、音声を録音することも許可しなかった。

 それなのになぜ上掲の朴槿恵の発言の一部が一言一句まで紹介されているのか疑問だが……。

 当方つねづね疑問に思っていたことが二つある。

 第1は、大統領への報告はメールやファクスによる「書面報告」がほとんどだという。そして大統領は側近や閣僚らの多くとの意思疎通ができない“不通(プルトン)大統領”だと批判されたりする。
 では、対面で会話せず、表情、態度を見ず、「書面報告」のみで内政、外交の判断をする“朴槿恵政策決定システム”はなぜ生まれたのか。

 それはまず青瓦台(チョンワデ)の物理的条件。青瓦台本館は、15万枚の青い瓦の2階建て。大統領の接見室・執務室・会議室など執務機能が集中する建物。秘書棟は、3棟ありスタッフの執務室。官邸は、大統領とその家族の住まい。それぞれに大統領執務室がある。
 
 大統領は住まいである官邸から本館へ行き、会見、会議など公式日程をこなすが、そのほかはほとんど官邸にいて、食事も一人でとるという。

 部下からの報告には、必要に応じ電話で問い合わせたりした。政治は、大統領、官僚、秘書=参謀のトライアングルで行われる。王朝時代の宦官のような秘書は約700人いるが、朴槿恵の議員時代からの「ドアノブ3人組」という3人の秘書官のみが大統領と直接、対面できた。ほかの秘書らに情報を遮断するとともに、国会議員も直接大統領に面談できなかった。

 このシステムをつくったのが、鄭潤会(チョン・ユンフェ)である(後述)。

 第2に、“秘線”という密かな線路の向うにいる影の人物(本書では「黒幕」としている)は、なぜ朴槿恵を操ることができたのか。

 朴槿恵の自叙伝『絶望は私を鍛え、希望は私を動かす』(大統領就任以前の2007年刊行)を“秘線”崔一家の記述を探して、読み直してみた。 
 
 79年朴正煕大統領暗殺され、全斗煥政権になると、新しい権力に取り入ろうとする人びとによって朴正煕の名誉は、嘘や推測、非難一色で罵倒され歪曲され傷つけられる。側近たちさえ、冷たく心変わりしていく。その失意のどん底にいた朴槿恵に崔一家が入り込む。そして88年に父・朴正煕の追慕事業で旧セマウム奉仕団の崔一家のみが「冬に初めて松の青さを知る」という言葉のように協力してくれたとの記述がある。

 朴槿恵にとっての秘線とは、崔太敏という大韓救国宣教団(のちの「セマウム奉仕団」)を設立した牧師であり、その娘、崔順実であり、娘の夫であった鄭潤会である。

崔太敏(チェ・テミン、1912~1994)は、74年朴正煕大統領の夫人・陸英修が暗殺された後に娘・朴槿恵に接触し、陸の霊の話をして「洗脳」し、当時23歳の朴槿恵を教団の名誉総裁にする。そして朴正煕の青瓦台を自由に出入りしていた。朴正煕大統領が79年に暗殺された後、いずれ朴槿恵を大統領にするべく動くが、94年に死去。

 鄭潤会(チョン・ユンフェ、1955~)は、崔太敏の秘書であったが、95年、その娘・崔順実と結婚する。98年朴槿恵が国会議員に出馬時から秘書のトップとして07年まで仕え、14年セウォル号事件時もずっと“秘線”であり続けた。「あの方が最初に政治家になった時から一緒に働いてきた。あの方の精神的な苦痛を横で黙って見ながら『死んでもいい』という覚悟で仕えた」(本人)。

 崔順実(チェ・スンシル、1956~)は、「セマウム奉仕団」で朴槿恵と知りあう。06年朴槿恵がテロの遭ったとき、病院で家族のように看護した。朴政権発足時から大統領並みの待遇を受け、検問もなしに青瓦台に出入りした。文化・体育事業などのミル財団、Kスポーツ財団を設立し、財閥から金を吸い上げるシステムをつくるなど、さまざまな利権に介入し私腹を肥やす。

 この3人が朴槿恵を“洗脳”し、操縦していた。

 さて、14年4月に発生し295人が死亡した旅客船セウォル号の沈没事故で、当日の朴槿恵大統領の動静がはっきりしていない、いわゆる「空白の7時間」をめぐる疑惑が生じた。

 事故が起きたのは朝の9時頃。韓国中の国民がテレビの画面を固唾をのみながら見守っていた。10時頃、大統領は書面で初めて報告を受けてから、午後5時過ぎに対策本部に姿を現すまでの7時間、乗客を救出できず時間を追うごとに船が沈んでいく様子が生放送されていた。朴大統領はこの日、21回(国家安保室10回、秘書室11回)の報告を受けたが、書面と電話だけで、対面での報告も、大統領主宰の会議もなかったという。

 この空白の7時間に大統領は鄭潤会(チョン・ユンフェ)と密会していたと一部メディアが報じた(孫引きした産経ソウル支局長が名誉棄損で起訴された、のちに無罪)。この直後、鄭潤会と崔順実とは離婚する。 彼は自分が朴槿恵から信頼されていることに、妻の桂順実が嫉妬したからだと離婚の理由を話す。

 以後崔順実は金を吸い上げるだけでなく、鄭潤会という“司令塔”に代わり政治そのものに介入する。毎日、青瓦台から30センチほどの厚みのある大統領の演説草稿や閣議での発言、政府高官の人事案などの報告資料を受け取りチェックする。多くの政府関係者が訪れ、大統領のスケジュールや国の政策について話しあっていたという。崔順実のタブレットに大統領の演説文が保有されていたし、20もの借名携帯電話を使い分け、朴槿恵とのおびただしい通話記録も残されていた。

 ――果たして彼女には本当に黒幕たる能力があるのだろうか。脈絡のない話し方、緻密さに欠けた行動、リーダーシップの欠如、わがままで周囲を振り回し、組織を恐怖心でまとめようとする発想。どれをとっても稚拙としか言いようのない資質ばかりが目立つ。(本書)

 また、「ドアノブ3人組」は崔順実との通話記録を録音していた。「脈絡がなく話すので、一度では内容を聞き取れなかった」からである。上掲の朴槿恵大統領の会話と同様に二人は思っていることを、正確に伝わるように言語化できないのだ。こうして多くの“証拠”を残し墓穴を掘った。

 朴槿恵という最高権力を崔順実は離婚後「独り占め」した。鄭潤会という司令塔を失って、政策はブレ、場当たり的で迷走する。

 こうして16年10月末に発覚した「崔順実ゲート事件」は、TV朝鮮、ハンギョレ、JTBCなどのスクープ報道等により、朴槿恵大統領を追い込んだ。

著者金香清(キム・ヒャンチョン)はフリーランスのライター、翻訳者。著者の韓国への取材によってメディアでの騒がれ方がよく分かった。なおこの一文は本書と中央日報日本語版などを参考に“朴槿恵備忘録”としてまとめてみた。

朴槿恵★絶望は私を鍛え、希望は私を動かす


岸川真★亀井静香、天下御免!…………☆慰安婦像は、お地蔵さんのようにどんどん建てればいい。

20170802

2017.08.02亀井静香、天下御免


 終わりと始まりはいついかなる時も来る。

 ダメだという時に浮き上がりもすれば、イイ時に沈む日もある。これに右往左往していたんじゃ駄目なんだというね。死の宣告を逃れた後に、警察の上級の発表があるわけ。行ってみると、7番で合格だった。

 だから人生は振り返っちゃいかんのですよ。

愚かしいことをやったり、苦労をしても振り返ったら、かえってソレに足を取られて苦労するんじゃないかな。


 むしろ、いつも前だけを向いて進んでいけば、人生の岐路、難所なんか何ということもないのではないかな。


★亀井静香、天下御免!|岸川真|2017年6月|河出書房新社|ISBN: 9784309248028|○

 亀井静香(1936~)は、最高齢の衆議院議員、建設大臣など歴任。いかつい顔だが、どこか愛嬌があり、ブレのない言動に右から左まで多くのファンがいる。その波乱万丈の人生を語ったもの。

 広島県比婆郡山内北村(現・庄原市)という山間の貧村で育った子どものころから東大経済学部卒業までの前半は、青春小説を読むように痛快無比。

 就職活動は「生意気とこの顔は変えられない」で、つぎつぎ失敗し、先輩に当たる人に誘われ別府化学工業大阪本社(現・住友精化)に入社(この工場が当方の住む町にあり、多少の縁がある)。しかし60年安保騒動を間近に経験し、警察を立て直そうと一念発起、1962年警察庁に入る。

率直に語る亀井だが、具体的に話さない2か所がある。
 その一つは、警察庁警備局情報担当キャップの5年間。斃れる部下、「人格が破壊されて辞めていく」部下がいた過激派組織対策のとき。
 もう一つは、細川護熙首相時代、夜陰に紛れて殿さまの首を取る話。細川がわずか9か月で首相の座を下りたのは、佐川急便ヤミ献金や国民福祉税構想ではなく、亀井がつかんだ“抜き差しならぬ”倒閣情報のためだという。具体的に記述していないが、汚職という犯罪は、誰にでも当て嵌めることができる、「捜査して初めて明るみにでる犯罪」だと書いている。

 政治家としてもっとも活躍したのは、その後の自社さ連立政権構築に奔走したこと、そして村山富市首相を支え運輸大臣として阪神淡路大震災復旧復興など。
 
 小泉純一郎政権では、なんども政策協定違反で煮え湯を飲まされるが、“純ちゃん”は抗議しても女の話ばかりしてはぐらかしばかりだったと。小泉“改革”の嘘を徹底的に批判している。その“純ちゃん”に郵政民営化選挙で広島6区にホリエモン堀江貴文を刺客に送り込まれる。

自民党、国民新党、無所属と1979年以来連続当選で衆議院議員を続ける。政治家は安定した選挙区をもてば、安心して自由に政治活動ができる。

――俺の場合は党じゃないんですよ、党は関係ない。零細や草の根の血盟団みたいな感じになっているから、その後も政治活動を自由にやれたんです。党が怖いわけでもないから党を出たって関係ない。国民新党を辞めて無所属になっても変わらないんだ。良い人に巡り合って、それがずっと続いていってる。

 ――故郷の須川で隣に住んでいた、大迫さんの封書です(財布から古い封筒を取り出す)。94歳の時に私へこの封筒へ10万円を入れて下さった。政治に使ってくれと。ここに「谷間の美田は草原に/時の流れの悲しけり/美しい国とは昔の言葉/国の未来が思いやられる」そう書かれています。大迫さんは大金を託してくれた。これは私の心に突きさきったままです。
(本書)

 当方がもっとも賛同するのは慰安婦問題での亀井の考え方だ。

 ――慰安婦像について日本国内で大きな反発はあるけど、私はそうしたひどい目に遭ったと思っている人が、そうしたいと仰るんなら好きなようにおやりになったら良いと考えます。
 日本で道々に地蔵さんがあるでしょう。あれと同じように気が休まれるなら地蔵さんを建てるように、どんどんお建てになったらいい思うんです。国辱ではないかと言う輩もいるでしょうが、被害を受けた方はいつまでも覚えているものだ。占領された、植民地支配を受けたほうが忘れません。
(本書)

 当方は、慰安婦像は好きなだけ設置すればいいと思っている。それが地蔵像のように地域で親しまれ続けるか、二宮金次郎像のようにいずれ時代に合わず撤去されるか、韓国民に委ねればいい。ゴールポストをどこまで動かすのか、韓国民の心情は推し量れないが。

 ――主義でもないけど、見栄も張らない、恩も売らない、媚もしない。三ないだ。加えて可愛げもない議員だったんです(笑)。(本書)

「彼の人生から信念の在り処を窺い知れれば、先の読めない時代に生きる我々の,〈ひとつの処方箋〉に
なりうるのではないだろうか」と著者岸川真はいう。

 ――だからこうやってね、栄耀栄華で暮らしていて、エラそうにあなたに話していてさ。後ろめたさなんてねえと断言しなから、俺は偽善者だなと思うわけだよ。〔…〕ふーん何を言っているんだアイツは。そういう眼が、俺をじっと睨んでいるじゃないかと感じられてならないんだ。(本書)

 亀井静香。含羞の人である。
 

成毛眞★この自伝・評伝がすごい!  …………☆山口敬之『総理』や安倍を褒めようとしたが、できなかった(著者)

20170717

2017.07.17この自伝・評伝がすごい


安倍の返答を記している。

「総理大臣になることや総理大臣であり続けることが重要なのではなく、総理大臣になって何をするかが重要なんです」。

 ここで著者が強調したいのは「何をするかが」という部分だが、注意すべきは「総理大臣になって」の部分だ。つまり総理になってやらないと意味がないということである。

よって、安倍が「総理大臣になることや総理大臣であり続けることが重要なのではなく」の部分は嘘で、あくまで総理であることが重要なのだ。何故か、総理大臣の専権事項がたくさんあるからだ。

安倍以外、興味がない憲法改正など、総理でなければできるはずもないのである。

憲法改正が現実味を帯びるのは「いちばんやりたい安倍が総理大臣だから」なのだ。


――幸運力・安倍晋三(山口敬之『総理』)


★この自伝・評伝がすごい! |成毛眞|KADOKAWA|2017年4月|ISBN: 9784046019257|△

 HONZという書評サイトがあり、著者はその代表者。ブロガーと思われるメンバーがノンフィクションを書評する。以前、『紙つなげ!』という企業PR本を大々的にほめていたり、「今週のいただきもの」という出版社から送られてきた本を紹介したり、恣意的な書評サイトだと思っていた。したがって著者の本を手にするのは、初めて。だが、一味違っていた。

 パラパラとページを繰っていたら、山口敬之『総理』を扱っていた。準強姦罪容疑で逮捕状まで出ていたあの山口敏之の事件発覚前の著書である。いったん書棚に戻そうとしたが、どう安倍の“評伝がすごい!”と褒めているのか知りたくて、本書を手に取った。

 ――この推薦本(山口敬之『総理』)は、冷静さを欠くほどの安倍礼賛本である。著者は、安倍との出会いについて「当初からウマが合った」とし、2000年以来の関係を「時には政策を議論し、時には政局を語り合い、時には山に登ったり、ゴルフに興じたりしたと書いている。

 挙句の果てに出てくるのが「栄光と挫折を足掛け1 6年にわたって至近距離で見てきた」という一節だ。もちろん、時の宰相を描くときに自身が何ものであるかということをつまびらかにすることは重要である。ただ、シビリアン・コントロールを任せられている国民が、総理を捕まえて「栄光」とは、いかにもまずいのではないか。
(本書)

 そして著者成毛眞は、「批判的に読むのにちょうどいい、という理由で選定した」と書く。「また何とか、安倍晋三を、そして推薦本を褒めようとしたが、できなかった。申し訳なく思う次第である」とも。

 本書は一筋縄ではいかない本である。無謀力・小倉昌男、金策力・山中伸弥、貴族力・チャーチル、インパクト力・徳川綱吉など17人の自伝・評伝を取り上げている。自伝・評伝をダシに、○○力という表現が示すように、いわば逆張りの人物評を著者はやってのけた。タモリは絶望力であり、岡崎慎司はネガティブ力 であり、ニクソンは平和力なのだ。

 たとえばニクソンは(単独の自伝・評伝でなく、明石和康『大統領でたどるアメリカの歴史』をテキストにしている)、ウォーターゲート事件やドル・ショックで批判されるが、ベトナム戦争終結、中国との国交正常化、ソ連との冷戦の緊張緩和、この3点で評価されるべきで、「アメリカの大統領の中で誰が一番か、と問われれば、それはニクソンになる」と。すなわち「平和力・ニクソン」である。

 それにしても、安倍晋三は何をしたいのか。当方には、最初に憲法改正をした男という肩書だけがほしくて、唱えているだけに見える。別に9条でなくてもいいのだ。その程度のたくらみであればいいのだが。

 その安倍官邸がだんだん汚らしくなってきた。この『総理』で安倍を絶賛した山口敬之が準強姦罪容疑で逮捕寸前だったのを、捜査打ち切りにしたのが中村格警視庁刑事部長であり、“菅官房長官の片腕”である。さらに山口敏之は“安倍首相の右腕”北村滋内閣情報官に事後対応について相談していたという。官邸がレイプ事件を隠蔽したのだ。

 “もり・かけ”疑惑では、安倍アキレ夫人が首相と同じ厚顔・姑息な単細胞の似たもの夫婦であることが判明した。また菅義偉“名長官”の化けの皮がはがされ、警察官僚を駆使し私生活を暴いたり個人攻撃する下卑た“隠蔽長官”であり、最近では会見の場でもリスペクトされず、「そのような指摘は当たらない」などスガ語には失笑が漏れるようになった。

 元文科事務次官の“出会い系バーへの出入り”は、杉田和博官房副長官から読売新聞にリークされたのではないかとの疑惑があるし、加計学園で暗躍している萩生田光一官房副長官は落選時に加計に養ってもらっていた。安倍擁護のネットの書き込みは、官房機密費から金がでているのではないかと疑ってしまうほど、官邸は汚れている。

 安倍官邸のオモテの政策も、「地方創生」まではよかったが、「ニッポン1億総活躍プラン」、最近では「みんなにチャンス!構想会議」で「人づくり革命」だと。安倍官邸は、国民を舐めきったようなキャッチフレーズを多用し、だんだん恥ずかしくみじめたらしくなってきた。

 本書は「幸運力・安倍晋三」だが、当方は「姑息力・安倍晋三」がふさわしいと思う。

原田國男★裁判の非情と人情   ☆「信頼したい」という気持ちにさせてくれる一書

20170609

2017.06.09裁判の非情と人情


 裁判官をしている40年近くの間、最も心掛けたことは、被告人の人権の保障でも適正な裁判の実現でもない。

それは、記録を紛失しないことである。


 記録あっての裁判であり、人権の保障も適正な裁判もその前提に立っている。

 これを聞いて、何と情けない、志のない裁判官かと嘆かれよう。〔…〕
しかし、修習生時代から耳たこで聞かされ、私ども裁判官は、なり立てのころから、このことには最大限の注意を払ってきた。〔…〕

 大型事件(脱税事件や経済事件等)では、その量は半端ではない。ロッカー何棹にもなる。万丁事件といって、話録が1万丁を超える事件も少なくはない。丁数でいうから、頁数では、その倍である。10万丁事件もやったことがある。これを全部読んで手控えをとって判決を書くのだから大変である。

――「10万丁事件――裁判は記録あってこそ」


★裁判の非情と人情 |原田國男 |岩波新書|2017年2月|ISBN: 9784004316466|〇

 当方は図書館にあっても手にすることのない岩波書店『世界』。そこに連載された「裁判官の余白録」という短いコラムをまとめたもの。『世界』らしからぬやわらかい筆致と考えに驚いた。たとえば……。

――裁判員裁判における死刑第1号事件で裁判長が判決の言渡し後、被告人に控訴を勧めたことがマスコミ等で批判された。しかし、これもおそらく、裁判員のほうから、自分たちの判断が最後となって判決が確定するときついから、裁判長にお願いしたのではないかと思われる。(「死刑の話」)

――裁判官は、しょせん、社会経験が乏しい。よく学生に、裁判官がかかわらない人生の三大運動とは何かと聞く。労働運動と学生運動と選挙運動である。いずれも、それに関する民事・刑事の事件を扱うが、その経験がないのが普通である。裁判官の経験不足を補うという意味でも、裁判員裁判は、有益である。(「裁判官vs.新聞記者」)

――裁判官と刑事弁護人の本質的な違いは、被告人が本当に真犯人ではないという確信(心証)を持てるかどうかである。私は、控訴審の裁判官として8年間に20件以上の逆転無罪を出しているが、そのなかで真っ白だと思うに至った例は少ない、あるいは、かなり少ないといわざるをえない。多くは、灰色無罪なのである。それは、けしからんと思う人もいるかもしれないが、刑事裁判に求められているのは、白か黒かの判断ではなく、黒と断定できるかどうかの判断である。(「裁判官vs.弁護士」)

――勇気がいるというのは、無罪判決を続出すると、出世に影響して、場合によれば、転勤させられたり、刑事事件から外されたりするのではないかということであろう。これも、残念ながら事実である。その意味で、無罪判決をするには勇気がいるかもしれない。(「『合理的な疑い』とは何か?」)

 裁判制度の「負」の面はすこし顔を覗かせる程度で、やや楽天的に胸の内を語るのも好ましい。裁判本といえば、瀬木比呂志『絶望の裁判所』など、「負」の本ばかり。本書は、たまには何かを「信頼したい」という気持ちにさせてくれる。
 執筆の動機が、「裁判官も世間から見るより、ずっと人間的で素晴らしい人が多い。このことを少しでもわかってもらいたい」という思いからだと。

 それにしても現実に戻れば……。

 「記録あっての裁判であり、人権の保障も適正な裁判もその前提に立っている」とあるが、こう言い換えたい。「記録あっての行政であり、人権の保障も公正な行政もその前提に立っている。

 森友学園問題で、官邸を経産省に奪われた財務省の安倍首相へ“忖度”、佐川宣寿理財局長の国有地売却の交渉記録を記した文書や電子データを廃棄・消去したと「得意げな虚偽答弁」にはうんざりした。その財務省が当時使用していた情報システムを更新したという。

 財務省が更新したシステムは2013年1月から使用していたもの。森友学園が国有地取得要望書を提出した同年9月から、学園に国有地を売却した昨年6月までの全期間で使われていた。職員に貸与されていたパソコンも一斉に更新された。かつて日本を牽引した誇り高きトップ官庁は、いまや“隠蔽と忖度の財務省”となった。
 それにしてもペーパーレスの進行で、電子化された文書など、公文書館のあつかいはどうなっていくのだろう。

著者の「“ヒラメ裁判官”が多いともいわれる。だが、裁判官も職員も、知的にも人間的にもレベルが高く、信頼するに足りる」というフレーズが“虚偽答弁”でないことを祈るばかりである。


今野 敏★去就 隠蔽捜査6  ☆菅義偉“隠蔽”長官をモデルの次作を期待!

20170606

2017.06.06去就-隠蔽捜査



「方針をはっきり決めてくれないと困る。秘密樫に解決するなら、それなりの方法がある。また、世間に発表するなら、別のやり方もある」

「いずれにしろ、一社が嗅ぎつけたら、他社も気づく。
やつら、ゴキブリと同じだ。一匹いたら百匹、だ」


 刑事部長が、マスコミをゴキブリにたとえた、などということがどこかに洩れたら、けっこう大事になるだろう。

 発言者が、どういうニュアンスで言ったかなど、マスコミにとっては問題ではない。彼らは、言葉尻を捉え、前後関係を無視して、糾弾を始める。
 ヤクザの言いがかりや、クレーマーの苦情と同じだ。ジャーナリズムよりセンセーショナリズム。それが今の日本のマスコミの現状だ。

 竜崎は伊丹に言った。
「つまり、そのうちにマスコミが大挙して押し寄せてくるということだ。情報管理が必要だったが、それを怠ったということになる」



★去就 隠蔽捜査6 |今野 敏|新潮社|2016年7月|ISBN:9784103002581|○

 エド・マクベイ「87分署」シリーズやW.P.マッギヴァーン「悪徳警官」の昔から警察小説は大好きだが、今も佐々木譲の道警もの、今野敏「隠蔽捜査」シリーズは読んでいる。

 北方謙三があるインタビューで、小説の質が落ちている、テレビドラマみたいになっている、と発言していた記憶にある。「映画というのは、スクリーンに突如として息を飲むような映像が現れたりするわけよ。その非現実の美が瞬間的に現れるのが映画で、そのよさが小説にもあるべきだと思ってるんだけど、最近は物語を追った小説が多くて」云々。

 たしかに佐々木譲は冒険小説のころの文体と著しく変わり、セリフとト書きを読んでいるようなそっけなさがある。今野敏『去就 隠蔽捜査6』も同様で1時間もあれば読み終わる。季節の挨拶から始める当方のメールと、「り」という一語だけの孫の返信との差かなと思う。上掲の場面でも、地の文と主人公のセリフとの違いが分からない。

 それはともかく、隠蔽捜査シリーズは2005年以来、長短あわせ本書『去就』で8冊目である。今回はストーカーがテーマだが、竜崎伸也大森署長、伊丹俊太郎警視庁刑事部長に加え、新たにノンキャリアの弓削篤郎方面部長が登場したものの、ややマンネリか。

 そこで提案したいのが、次作は菅義偉“隠蔽”官房長官をモデルにしたらいかがかと。上掲の「やつら、ゴキブリと同じだ。一匹いたら百匹、だ」に似たセリフを菅“隠蔽”長官はオフレコでしゃべっているのでははないか。

 さて安倍晋三首相追及は、森友学園問題から加計学園問題に移行している。当方は、当初、園児たちの「安倍晋三内閣総理大臣を、一生懸命支えていらっしゃる昭恵夫人、本当にありがとうございます。安保法制国会通過よかったです」の唱和の映像に鳥肌が立った。

 が、森友問題は、①家庭内野党とかリベラルな考えをもつという安倍“アキレ”夫人の“印象操作”が剥がれ、卑しい似たもの夫婦、単なる晋三のコピーだったと分かったこと、②官邸を牛耳っている経産省出身の今井尚哉首相秘書官などに対し、失地回復に必死の財務省官僚の“忖度”右往左往を目の当たりにしたこと、が成果だった。

 加計学園問題では、①いまどき珍しく地盤、看板、鞄なき政治家として、ついには内閣官房長官最長記録を更新中という菅義偉官房長官が、馬脚を現わし下卑た男だと分かったこと。②安倍首相が“お友達ずぶずぶ隠蔽”論点ずらし答弁の醜態を万人の目にさらしたこと、が成果だった。

 菅“隠蔽”長官のセリフ。「その指摘は全くあたらない。粛々と進める方針は、いささかも揺らぐことはない」。二の句が継げない、対話を拒否する答弁である。しかも前川喜平前文部科学省事務次官への誹謗は、手を変え品を変え下品な個人攻撃に終始する。「教育行政のトップが出会い系バーに行き小遣いまで与えていたことに、国民のみなさんもそうでしょうが極めて違和感を感ずる」と下品な薄ら笑いを浮かべながらの発言。当方はかねがね安倍よりも菅を攻めよと思ってきたが、ここへきてメディアの一部は、菅“隠蔽”長官の卑しい品性に気づきはじめたようだ。

 その前川喜平前事務次官はどこか「隠蔽捜査」の竜崎伸也を思い起こさせるところがある。警察庁出身の杉田和博官房副長官は、前川前次官が現職の時に出会い系への出入りを注意したという。私生活まで監視していたらしい。また“官邸御用達”ジャーナリスト山口敬之が準強姦容疑で逮捕される寸前だったのを、菅義偉官房長官の右腕といわれるエリート警察官僚中村格刑事部長(現警察庁組織犯罪対策部長)が捜査にストップをかけていたというのも、サイドストリーとして盛り込んでもらいたい。ついでに読売新聞の卑しい品性の記者も登場させるのもいい。

 それにしても“姑息な安倍”は、野党の追及に“印象操作”だと反論しているが、みずからの“隠蔽操作”の間違いではないか。お友達は胡散臭い連中ばかり。落選中は加計学園に養ってもらっていた萩生田光一副長官。「総理は自分の口から言えないから、私が代わって」とねじ込んだ和泉洋人首相補佐官。文科省OB・加計学園理事・内閣官房参与の“三つ股”木曽功。それらが官邸内を闊歩している。

 今野敏さま。『隠蔽捜査』次回作は、ぜひ“卑しい”菅義偉“隠蔽”長官を敵役に、竜崎伸也署長が一矢報いる物語で、読者をすかっとさせてください。



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