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2013. 07. 31  
20130731図書館に通う

はじめて大活字本に出会った姉は、これだったら読めると喜んで、早速、拡大鏡をかざしながら読みはじめたという。〔…〕

いつもであったら、妄想やいじめを話すのに、一言もそれにかんする話は出ず、面白かったと感想を述べたという。

私はあらためて、想像の世界を膨らますことができる活字の魅力、ほかの力を借りずともひとりで楽しめる読書の素晴らしさを確認した。

習字や折り紙では止めることができなかった老化を、読書はいっときかもしれないが遅らせた。


私は早く大活字本を読ませるべきであったと、臍をかんだものである。街の図書館の書架での出会いがあったからこそで、知らなければ彼女に読書のチャンスをあたえなかったろう。


□図書館に通う――当世「公立無料貸本屋」事情 │宮田昇│みすず書房│ISBN:9784622077626│2013年05月│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
長く出版界とともに生きてきた著者が、本好きの一市民として発見した街の図書館の魅力と変貌。本と人を繋ぐ数々の逸話とともに、ネット時代の可能性を探る。

〈ノート〉
上掲は、特別養護老人ホームに入っている著者の姉の話。入所1年後あたりから、著者や著者の娘に頻繁に電話がかかってくる。いじめを受けている。夜中、彼女の部屋に入り込んで襲ってくるという。考えられない訴えである。

姉は足を悪くしたこともあり、CATVで映画も見るのが好きだった。しかし特養にCATVはなく、習字、生け花、折り紙、図画、料理、手芸、時には大正琴、ハンドベル、ステンドグラス制作、フラダンス、カラオケなどの活動が用意されていた。どれも趣味に合わなかった。

そこで黒澤映画の原作である山本周五郎の大活字本を図書館で借りて届ける。上掲のように本を読み始めてから、SOSの電話はなくなったという。著者はいう。「老人介護の関係者は、読書も多くの人の趣味で老いても変わらないことや、それに応じる大活字本が出ているのを知っているのだろうか」。

当方は、これからの特養には入所者が自由に使えるインターネットの必要だと感じた。輪になって童謡なぞ歌いたくない。

著者は、永年出版界で生きてきた人。まったく縁のなかった街の図書館(藤沢市だと思われる)を利用するようになる。老後の趣味としての読書に「公立無料貸本屋」を利用し、本にまつわるいろんなものが見えてくる。

「広辞苑」に荒正人がない。「未刊行初期短篇」刊行の是非。「アメリカの出版界」裏話。『図書館に通う』というタイトルを超える興味深いエッセイ集である。同時に、街の図書館の運営実態を憂い、図書館も書店も出版社も、ともに活躍できる道を探る提案もしている。

〈読後の一言〉
――私は、書籍の売上げ低下は、若年層の本離れゆえで、最近の図書館利用の増加は団塊世代の退職がおもな理由だと思っている。その辺を見誤って図書館を公立無料貸本屋とし、その充実の足を引っぱってはならないのではないか。(本書)

〈キーワード〉
特養 大活字本 公立無料貸本屋

〈リンク〉
宮田昇■ 新編戦後翻訳風雲録


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