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2018. 06. 04  
2018.06.04失権


 ところで、おもろいもんで、大事なこと言うてくれる人の言葉は、ようわからんでも、

騙そうとしたり、ハメようとしたりするもんの言うことは、えらいわかりやすい。

なんでやろなぁ……。それも、甘い言葉で言うてくれる。


甘い言葉はええなぁ……。けど、そやから人は、ついつい、わかりにくい本当より、わかりやすい嘘を取ってしまうのかもしれへんなあ、悲しいほどに。


◆失権 |島田文六 |2017年12月|幻冬舎メディアコンサルティング|ISBN:97843449945609|〇

著者島田文六は、1932年、江戸時代から続く島田本家の長男として神戸に生まれる。神戸製鋼所の構内作業や製鉄原料納入を請け負う協力会社「島文工業(現シマブンコーポレーション)」のオーナー社長を40年にわたり務めるが、リーマンショックによる海外巨額投資損失事件で解任される。紅白歌合戦でも歌われた『島田のブンブン』のモデル。

 阪神灘駅、JR灘駅、阪急王子公園駅から、北へ上れば原田の森ギャラリー、横尾忠則現代美術館へ続き、南へ下ればBBプラザ美術館、兵庫県立美術館があり、“ミュージアムロード”と称されている。当方は、年2、3度訪れる。

 県立美術館以西の海岸沿いはHAT神戸と呼ばれている。もともと神鋼工場の敷地で、用途地域を変更したい神鋼が、兵庫県が進めるWHO神戸センター誘致のスポンサーとなって動いていた。1995年の大震災で、復興事業として一挙に進んだ。WHO、美術館、人と防災未来センター 等、兵庫県の“陣地”となり、神鋼も風格ある古い本社の建物が巨大な本社ビルになった。

 BBプラザ美術館のある南への坂道は、国道2号線の横断など難点が多かったが、著者の長男文吾が島文の敷地の一部を無償提供し、陸橋やスロープを建設することを市に提案し、のちにできた高層住宅群の住民に歓迎された。

 その息子は、大震災を機に海外から戻り、震災で倒壊したシマブン本社ビルの再建を担っていた。のちに父との軋轢で「僕を失えばお父さんはやってはいけない」と告げ父のもとを去る。(「人生最大の後悔や」と著者が気づくは10年後である)。

 ところで著者が計画した「BBプラザ美術館」のBBの意味をはかりかねていたが、本書で島田のブンブン(BB)であると知って納得した(もっともHPによれば、BBプラザの「BB」は、「“B”eyond Steel,SHIMA“B”UN」と苦しい説明)。ついでに「島田のブンブン」というヒット曲の歌詞。

 夜のとばりが パラリと降りりゃ
 祭りごころが 騒ぎ出す
 今日は祇園か 先斗町
 三味に太鼓に 鳴物ばやし
 ぬる燗ふくんで ひと節はア

 誰が呼んだか 島田のブンブン
 今夜もちょいと ご機嫌さん
 〔…〕

「シマブンの島田文六だから、島田のブンブン。もとは私の宴席での余興の歌。この『島田のブンブン』をメジャー発売しないかという冗談のような話があったのは」云々と本書にある。
 
 神戸の貿易商社鈴木商店が、神戸製鋼所を設立し、脇浜に工場を建てるために島田本家に海上権を買いにきて、それを三代目当主である島田文三郎が無償譲渡したこと、神鋼と協力会社島文の関係が始まる。

 そのうち著者は、神鋼幹部に気に入られ、「B勘」と言われる裏金づくりに係わる。それは神鋼工場での不良品の発生品が110なら、伝票は100とし、残り10を外で換金し、裏金とするもの。やがて総会屋に対する利益供与及び神鋼の加古川製鉄所の裏金捻出事件が発覚し、著者の「B勘」への協力も終わる。

 それで思い出すのは安倍晋三首相である。ここから少し本書からそれる。安倍は地元山口県に神鋼の工場があったことから、1979年に“コネ入社”し、3年半のうちにニューヨークの事業所、加古川製鉄所、東京本社に勤務する。安倍は加古川時代に、ラインパイプの長さを間違って入力し、間違った製品が大量にできあがり、しかしギリギリ誤差の範囲内だった、と後に回顧している。

 神鋼による製品の検査データ改ざん問題で、東京地検特捜部と警視庁は2018年にも加古川など複数の製造拠点を一斉捜索する。この加古川工場は2006年に大気汚染防止法の基準値を超える窒素酸化物、硫黄酸化物を排出しながら、地元自治体に提出するデータを改ざんしていた前歴がある。

 また本書では、神戸灘浜で、2002年、神鋼の火力発電所が営業運転を開始したが、「原料の石炭をビレットという石炭片にして燃やすから、大気汚染は心配ないですよ」と地元説得に著者は借り出された。だが、石炭をビレット化しての発電には成功せず、生石炭を燃やしているのだと知る。しかも神鋼は地元に説明していないという。

 2017年神鋼製品改ざん発覚後、安倍首相は「誠実な責任感をぜひ取り戻してもらいたい」とテレビで語り、かつての勤務時代を振り返り、「工場では品質を高めていくために、職場で皆、忙しい中で知恵を出し合い、汗を流していた。それが日本のモノづくりの強さだった」と語った。その白々さよ。神鋼の虚偽、改ざん、そして姑息さは、安倍官邸のモリカケ問題と同じであり、安倍は新入社員時代にこの“体質”に染まったようだ。

 本書のあとがきに代えてかつて交遊のあった『芸者論』の著者岩下尚史が書簡を寄せている。

 ――御本の後半になるにしたがって、愈々烈しくなる痛罵の言のありどころは、悪を憎む正義の念に他ならないと拝察は致しますが、しかし、対手方に言わせたならば、すべては公益を優先する社会正義に基づいての行動だったと言うに違いありません。

 ――盛あれば必ず衰あり、隆あれば必ず替あり、是れ皆、事物自然の理であります。ですから、恨み悶えの妄執に駆られ、折角の御功績を此れ以上失墜する様な事になりましては、御当家のために甚だ悲しむべき事と存じます。必ず御心煩し給うことなく、超然たる態度を以て、静観遊ばさる様祈り上げます。
 (本書)

著者島田文六略歴に「親族を含む経営幹部らに名義株の返還を否認され、オーナー権も喪失」とあり、「まさに人生は、一瞬にすべてが凝縮する」が座右の銘とある。だが、……。

 ――誰が呼んだか 島田のブンブン 今夜もちょいと ご機嫌さん。
 自分だけの利に走らず、一族や地域のために尽くせという「利他の精神」に生きた島田のブンブン、いいではないか。





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