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郷原宏□物語日本推理小説史

20130821物語日本推理小説史

「これは単なる推理小説ではない」という決まり文句がある。ただ面白いだけの推理小説ではなく、立派な文学になっている、といったニュアンスで使われることが多い。〔…〕

たとえば平成20年(2008)8月、江戸川乱歩の短篇集が初めて岩波文庫に収録されたとき、ある全国紙は「乱歩の探偵小説がようやく文学的な市民権を獲得した」という記事を載せた。

冗談じゃない。乱歩は80年前にすでに文学的な市民権を得ている。それをご存知ないのは頭の固い文化人や新聞記者だけで、普通の推理小説ファンなら誰でも知っていることだ。

だから『江戸川乱歩短篇集』が岩波文庫に入ったのは、乱歩の探偵小説が文学として認められたのではなく、

岩波文庫の文学的な水準がようやく市民レベルに達したことを意味しているにすぎないのである。

――第16章 乱歩登場


□物語日本推理小説史 │郷原宏│講談社│ISBN:9784062166218│2010年11月│評価=○

〈キャッチコピー〉
文士は探偵がお好き! 推理小説を論じない日本文学史などありえない。涙香から乱歩、清張を経て21世紀まで。登場する面々、作品は豪華絢爛。「謎」をめぐる明晰な通史【年表つき】。

〈ノート〉
全24章のうち、江戸川乱歩が登場するのは上掲のように第16章。中興の祖は乱歩だと思っていたが、谷崎潤一郎だという。ふだん知ることの少ない明治、大正に詳しいのは、貴重。

「夏日漱石は探偵が嫌いだった。『吾輩は猫である』を読むと、探偵の悪口がいっぱい出てくる」の一文から本書は始まる。

――不用意の際に人の懐中を抜くのがスリで、不用意の際に人の胸中を釣るのが探偵だ。知らぬ間に雨戸をはづして人の所有品を偸むのが泥棒で、知らぬ問に口を滑らして人の心を読むのが探偵だ。〔…〕だから探偵と云ふ奴はスリ、泥棒、強盗の一族で到底人の風上に置けるものではない。

という一節が『吾輩は猫である』にあるという。
「ホトトギス」に連載された明治38年(1905)ごろには、すでに私立探偵という職業とその《賎しい》イメージが定着していたことになる。明治20年代に流行した翻訳探偵小説が、そのイメージ形成に一役買ったことはいうまでもない」(本書)

この「猫」から昭和の「猫」まで推理小説史は続く。昭和の「猫」とはもちろん赤川次郎の三毛猫ホームズ・シリーズ。第1作『三毛猫ホームズの推理』(1978)から今も延々と続いている。読者の多くは、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズという探偵を知らないという。

〈読後の一言〉
最終章「昭和から平成へ」で、推理小説は時代と社会を映す「紙の鏡」だとして、10年ごとに見事に変化を区切ってみせる。

〈キーワード〉
乱歩 岩波文庫 吾輩は猫である 三毛猫ホームズ

〈リンク
郷原宏□清張とその時代
佐野洋◆ミステリ-との半世紀



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