常盤新平□明日の友を数えれば
10/オンリー・イエスタディ - 2013年04月09日 (火)

足が衰えて、最近はとくに家に引きこもりからだ。親しくつきあっていた人たちも一人減り二人減りしている。老いとは哀しいものだ。〔…〕
冬のあいだはどうしても外に出なくなる。寒がりの私にはやむをえないことで、どうしても出かけなければいけないとき以外は、自分の部屋で以前に読んだ本を読み返している。それがけっこう面白いのだ。
それを言うと、たちまち「惚けたのよ」と言われそうだが、友人は笑いながら言った。「本を読むのかなんといっても安上がりだからね」と。
気に入ったものがどんどん減っていき、気に入らないものがつぎつぎに増えている。
この世に暮らすとは、そんな感じにつきまとわれることではなかろうか。
――「小さな幸せのとき」
□明日の友を数えれば│常盤新平│幻戯書房│ISBN:9784864880091│2012年12月│評価=△
〈キャッチコピー〉
望みはなるべくささやかなほうがいい。町を歩き、本と親しみ、コーヒーを味わう。81歳…老いとつき合う日々を綴った最新エッセイ集。
〈ノート〉
先日、片岡義男『洋食屋から歩いて5分』(2012)を読んだが、本書もやたらに喫茶店や古本屋、そして食べ物の話が登場する。片岡義男、1940年生まれ、常盤新平、1931年生まれ。年齢は10歳近く違うが、ともにアメリカナイズされたイメージで1960年代に登場したという共通点がある。
そして共に喫茶店が好き。ジャズ喫茶、歌声喫茶、名曲喫茶などが流行したのは1960年代前半、その後「純喫茶」とよぶ喫茶店の時代が1970年代まで続いたように思う。
あるインタビューで喫茶店について、こう語っている。
――昔は、打ち合わせとか人と会ったりするのに使うことが多かったのですが、最近は一人ぼっちという感じでねえ……(笑)。一人でぼーっとしたり、あるいは文庫本読んだり、競馬新聞を読んだり、30分くらいのんびりしますかね。
神田神保町にもあるし、新宿にもあるし、銀座にも……、そこに行けば必ず寄る店ってのがありますね。珈琲はだいたい500円以下って決めてるんですよ。
常盤新平といえば、大原寿人という筆名で早川書房時代に書いた『狂乱の1920年代――禁酒法とジャズ・エイジ』(1964)が好読物だった。これにより1920年代のアメリカやヨーロッパにはまってしまったので、いまだに強い印象を残している。
本業の翻訳書では、ゲイ・タリーズ『汝の父を敬え』(1973)、バーンスタイン、ウッドワード『大統領の陰謀』(1974)などを愛読した。
本書には著者が畏敬する山口瞳について書いた「国立の恩師」が収録されている。そういえば『遠いアメリカ』(1986)で直木賞を受賞したが、小説家としては代表作といえるものを残していない。山口瞳が直木賞選考委員として強烈に推して、成功したのが向田邦子、失敗したのが常盤新平ではなかったか。
いま手元に常盤新平『山の上ホテル物語』(2002年、新書版2007年)があるが、これはノンフィクションを集中的に読んでいたときに買ったもの。解説で坪内祐三が本書を長編エッセイと分類している。読後の感想を一言でいえば、「山の上ホテルが大量買い上げをするPR本」であった。
著者は、2013年1月に81歳で死去。本書『明日の友を数えれば』(2012)が遺作となった。
〈読後の一言〉
多彩な著作リストを見ると、作家というよりアイデアあふれる編集者という肩書がふさわしい。
〈キーワード〉
気に入ったもの 高齢の暮らし 喫茶店
〈リンク〉
片岡義男□洋食屋から歩いて5分
立川昭二◆年をとって、初めてわかること
黒井千次●老いのかたち
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