2013年□傑作ノンフィクション★ベスト10

20131228

2013年に読んだ本(2012~13年刊行)のなかから、傑作ノンフィクションを選んだ。2013年刊行5作、2012年刊行5作である。昨年はおびただしい2011.3.11関連本から5作を選んだが、今年はノンフィクション史に輝く3.11本の傑作がでた。


★2013ベスト10


船橋洋一 □カウントダウン・メルトダウン

11日以降4日間、風が海の方向に吹いたのは「神風」だったとの声さえ聞かれた。
しかし、菅直人という政治リーダーを持ったことの「運」をどう考えればよいのか。


わが国のトップジャーナリスト船橋洋一が、3.11福島第一原発事故の一部始終を追ったもの。船橋は仲間たちと“民間事故調”を立ち上げたが、闘った人々の個々のストーリーに興味を抱き、一記者に戻って取材したのが本書。特定の個人への思い入れがなく、冷静に客観的に、淡々と、しかし人々の熱き思いや行動をスリリングに記述した。第1級のノンフィクションである。数ある3.11フクシマ本のなかの最大の収穫。新刊にして、すでに古典、といっていい。


小倉和夫□秘録・日韓1兆円資金

これは、政府間の法律的約束ではない。あくまで、政治的なご祝儀だ。
それを、政府間の法的合意にしようなどとは、絶対に許せぬ。金大中事件の収拾だって、政治的にやったではないか。


約30年前の1981年、韓国から防衛、経済協力の額を10倍に増やし合計100億ドルの資金を提供願いたい、との依頼がある。この2年間の“外交戦争”をのちに韓国大使だった著者がドキュメンタリー手法でまとめたもの。両国の外交のかけひきだけでここまでスリリングに読ませる筆力は相当なもの。


古市憲寿◎誰も戦争を教えてくれなかった

これから戦争の無人化が進めば、戦死者の発生しない「平和で人道的な戦争」が増えていくだろう。
その時、平和主義者たちはどんな言葉で「戦争反対」を叫べばいいのだろう。


「ショッピングだけで終わる観光旅行よりも、よっぽど楽しい」と世界の戦争記念館、平和祈念館を訪ねた。宇宙空間が第4の戦場、そしてサイバー空間が第5の戦場として注目を集めている。とすると、陸海空で行われた戦争から70年近くが過ぎ、それを「大きな記憶」として再構築していくのには、「もはや古すぎる」と。


奥野修司□看取り先生の遺言――がんで安らかな最期を迎えるために

私が在宅を始めた頃だったが、認知症で徘徊している人を見て、
あるお母さんが「神様に近くなった人だからね」と、子供に諭していた。


治らないがん患者のために在宅緩和ケアを立ち上げたが、自身もがんで昨年9月に逝去した岡部医師。「人間には、誰でも夢見がちに旅立てるようなメカニズムが備わっているとしか思えない」。「お迎え」再考を説く。岡部医師の遺書のつもりで著者が医師に密着したノンフィクション。


本間健彦□60年代新宿アナザー・ストーリー

〈街のPR誌〉を〈タウン誌〉と呼び替えることで、ジャーナリズムの未開拓領域のニューメディアとして世間にアピールしようという魂胆だった。


元編集長が『新宿プレイマップ』の創刊から廃刊までを、バックナンバーの文章やイラストや写真を引用するというコラージュの手法により、ミニコミ誌全盛時代の同誌、そして60年代末から70年代初頭という時代を記録した。雑誌とその時代の雰囲気をみごとに再現したもの。


★2013ベスト10-2



大崎善生□赦す人

鬼六にとって、いくら観察しても考察しても興味がつきない人間という愚かでそして愛おしい生き物、
それをより際立たせずにおかないのは、生殖以外を目的とした性行為という行いだった――。


団鬼六には、小説、エッセイ、闘病記という多彩な“自伝”群がある。「たとえ自伝を書いたとしても3分の1はウソを混ぜないとおもろくならん」と語る。その上での「異端の文豪」の評伝であり、みごとに無限のやさしさで全てを受け入れる“赦す人”を浮かび上がらせた。

門田隆将□死の淵を見た男――吉田昌郎と福島第一原発の500日

私は心の中で本当に若い人には、復興でやるべきことをやって欲しいと思ったんです。
幹部の方たちは、もう死ぬのは仕方ないと思いました。


遠くから望遠レンズでとらえた福島第1原子力発電所。その内部で吉田所長とその“仲間たち”による原発暴発との闘いは、どのようになされていたのか。本書はその時の内部を描いたノンフィクション。「あの時、私は自分と一緒に“死んでくれる”人間の顔を思い浮かべていました」。一国の総理に翻弄された現場の記録でもある。


角幡唯介□アグルーカの行方――129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極

自分はあの時たしかに残酷であり、私は自分が残酷であることを知った。
他の誰も知らないことを私たちは知ったのだ。


『空白の五マイル』(2010)と同様の手法で、160年前の探検隊の行動と並行して今を記述する北極探検。著者のノンフィクションに対するストイックな姿勢から、講談社ノンフィクション賞全員一致で受賞間違いなし、その予想通りに。それにしても角幡唯介の探検を読むには、活字での追体験ではあるが、恐ろしく体力が必要だ。

日下部五朗□シネマの極道――映画プロデューサー一代

わたしの賭けの相手は日本中の大衆である。
わたしが勝てば、全国津々浦々の映画館に、千何百円かを持って、無名の、多種多様な老若男女がつめかけるのだ


映画が産業であった時代の東映プロデューサーの自伝である。『仁義なき戦い』の裏話から内田吐夢の晩年のエピソードまで、東映映画を語りつくし、一気に読ませる。そして「現在の日本映画の状況で、映画を作ろうと金を集めるのは、もはや詐欺師の仕事である」という。


岡野雄一□ペコロスの母に会いに行く

母が80歳を超え、認知症の症状が出始めた頃から、亡くなった父が訪ねてやってくるようになった。
半日、母がいなくなるのだ。〔…〕「父さんが来(き)なったけんね、二人で街ば見に上に行っとったと」。


施設に暮らす認知症の母との切ない日々を漫画と少しのエッセイで綴ったもの。読後、モット父ヤ母ノ世話ヲスレバヨカッタ、と。自省にあらず、人恋しくなる本である。以前、吾妻ひでおの漫画『失踪日記』をノンフィクション100選に選んだが、それ以来の漫画によるノンフィクション。


**
2013年のノンフィクションは、これ以外はあまり気に入ったものが無く、当方のアンテナが不具合なのか不作だった。また高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』が講談社ノンフィクション賞を受賞し、高橋秀実『弱くても勝てます』が評判を呼ぶなど、脱力系というか「私が私が」系というか恐妻系というか、従来のストイック系と違う方向にノンフィクションの期待が向けられた年だった。

なお当方のブログは、本年11月に島倉千代子が亡くなったことで、田勢康弘『島倉千代子という人生』(1999)が群を抜くアクセス数だった。

2014年■傑作ノンフィクション★ベスト10

2012年傑作ノンフィクション★ベスト10
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