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清武英利■しんがり――山一證券最後の12人

2014.01.24しんがり

世間の同情や関心が去ったあとのことを考えていた。

――怒りが鎮まった後で、彼らは辛い人生を迎えるのだろう。
仕事を失い、自社株の形で残してきた老後の資金を失い、さらに会社に踏みとどまった分だけ、第二の人生は遅れて始まっていたからである。

私の予感通り、「しんがり」の人々は転職を繰り返した。

調査委員の七人のうち、山一から転じた再就職先で第二の人生を全うしたものは一人もいない。


彼らは行く先々でリストラやいじめに近い行為や不正に直面した。
だが、会社崩壊から15年後、たまたま会った彼らの中から、私は不思議な声を聞いた。「自分たちが引いたのは貧乏くじではない」というのである。


■しんがり――山一證券最後の12人 │清武英利│講談社│ISBN:9784062186445│2013年11月│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
1997年山一証券が破たんし自主廃業した。幹部たちまで我先にと沈没船から逃げ出すなか、最後まで会社に踏みとどまり、真相究明と顧客への清算業務を続けた社員たちがいた。「場末」と呼ばれた部署の社員だった。筋を貫いた彼らの人生を描く

〈ノート〉
負債3兆円といわれた山一証券は、じつは2,600億円の帳簿外債務があったゆえに会社更生法による救済を得られず、100年の歴史を閉じた。社長は会見で、「社員は悪くありませんから! 悪いのはわれわれなんですから!」と号泣しながら叫んだ。

3つの仕事があった。
第1に、営業を停止し、本支店を閉鎖し、資産を売却し、社員7,700人の再就職を斡旋すること。
第2に、顧客から預かった24兆円の株券や資産を早急かつ正確に返還すること。
第3に、債務隠しの真相を暴く社内調査。

――2,600億円にも上る債務隠しの真相究明であった。山一という大企業を滅亡に追いやった「簿外債務」。それはいつ、どのように、誰の決断で生まれ、どのような人間によって隠し続けられたのか――。社員自らの手で疑問を解き、去っていく同僚や家嬢に明らかにする作業である。(本書)

その社内調査という会社を看取る“後軍(しんがり)”は、業務監理本部(通称ギョーカン)の常務以下12人の社員たちである。

著者は、元読売新聞記者で、読売巨人軍球団代表として活躍途上、渡辺会長の逆鱗に触れ解任されたあの“清武の乱”の清武英利である。したがって12人の人生を追いながら、会社とは何かを問うのは、自らの人生と重ね合わせているようで迫力がある。

――会社は人間を排除する組織である。抵抗する者を中枢から追い出し、同調する人間を出世させていく。この「同調圧力」という社内の空気のなかで、時には平然と嘘をつくイエスマンを再生していく巨大なマシンでもある。

――会社という組織をどうしようもない怪物に喩える人は多い。しかし、会社を怪物にしてしまうのは、トップであると同時に、そのトップに抵抗しない役員たちなのである。

――たぶん、会社という組織には馬鹿な人間も必要なのだ。いまさら調査しても、会社は生き返るわけではない。訴えられそうなその時に、一文の得にもならない事実解明と公表を土日返上、無制限残業で続けるなど、賢い人間から見れば、馬鹿の見本だろう。しかし、そうした馬鹿がいなければ、会社の最期は締まらないのだ。

〈読後の一言〉
当方が最も気になったのは、上掲の“しんがり”たちが、再就職先でも何らかの理由で辞めざるを得ず、さらなる転職をしていることだ。決意の社内調査報告書をまとめる高揚感と充実感の中で燃え尽きた部分もあるのではないか。

〈キーワード〉
倒産 再就職 会社組織

〈リンク〉
清武英利▼巨魁



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