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2019. 08. 28  
2019.08.28吃音



 だがそれでもなお、どもることは苦しい。当事者に、重く、執拗に、のしかかる。
 70代で吃音のある男性が、ある日羽佐田竜二のもとを訪ねてきた。吃音を治すための 訓練をしたいと言ったという。

 羽佐田は答えた。
 年齢を考えれば、これからの人生の時間を訓練に使うより、吃音があるままでもご自分のしたいことに使う方がいいのではないですか、と。
 するとその男性はこう言った。

「残り、時間が……、少ないから、こそ、私は、訓練をしたいんです。

死ぬ、までに、どうしても、思うように、話すという経験、を、してみたいの、です」


 おそらくこの言葉にこそ、100万人の人たちの思いが詰まっているのではないかと思う。



◎吃音――伝えられないもどかしさ │近藤雄生│2019年1月│新潮社│ISBN:9784103522614│◎=おすすめ

 著者近藤雄生(1976~)は、高校時代から吃音に悩まされ、大学卒業後の職業の選択に関しても、そのことが大きく左右した経験をもつ。

 たしかにちょっと前の時代までは、「どもり・赤面、治します」といった広告看板を見かけたものだが(当方は赤面で悩んでいた)、著者によれば、これらの“矯正所”は、自ら吃音を克服した人が独自の理論や矯正方法を掲げ行っていたもので、科学的根拠がはっきりしなかったという。

 当方の身近に吃音に悩まされている人がいなかったためか、ここには当方の知らないことばかりが書かれている。そのいくつか、……。

 本書によれば、現在、吃音の治療や改善のための方法としては、
・流暢性形成法(吃音の症状が出にくい話し方を習得する)
・吃音緩和法(楽にどもる方法を身に付ける)
・認知行動療法(心理的・情緒的な側面から症状を緩和する)
・環境調整(職場や学校といった生活の場面での問題が軽減されるように、周囲に働きかけたりする)
 がある。それらを組み合わせ、その人に効果的な方法を探るという。

 吃音は精神面だけに起因する問題ではない。吃音には、二つの特徴的な点がある。
 その一つは、「曖昧さ」。
 原因も治療法もわからない。精神障害に入るのか身体障害に入るのかもはっきりせず、症状も出るときと出ないときがある。
そうした曖昧さを抱えるため、当事者は吃音とどう向き合えばいいかが難しい。

 そしてもう一つの特徴は、「他者が介在する障害」であること。
 一人でいるときには障害にはならない。常に他者とのコミュニケーションに関連して生じる障害である。すなわち吃音は、100万人の障害ではなく、コミュニケーションの相手方、すべての人の問題であることだ。

 ――吃音のある人に対してどう接するべきかについても、ここで自分なりの考えを話したい。
 相手がどもって言葉が出ずにいるとき、急かすのはよくないというのは一般的に正しいが、そのままじっと待っているのがいいか、それとも言おうとしている言葉を推測して先に言うのがいいかといった点について正解はない。

 本当にケースバイケースなのだ。
 そのため、「このようにすればよい」というマニュアルはない。大切なのは、相手の気持ちを理解しようとする姿勢であると私は思う。
 いずれにしても、双方が、柏手に対して想像力を働かせるしかないのだ。そしてこれは、吃音に限らず、他人と相対するあらゆる場面において同様にいえることなのであろう。
 (本書)

 伝達コミュニケーションがうまくいかないことで、ときに自殺にまで追い込まれることさえある。知られていない“吃音のすべて”を自らも悩んだ著者が丹念に記した貴重な一書である。

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