2019年★傑作ノンフィクション ベスト10 ……☆ベスト10ごっこ、やめるつもりが、ことしも傑作が揃ったので……
12/そこに本があるから - 2019年12月02日 (月)

★傑作ノンフィクション 2019年ベスト10 ……☆ベスト10ごっこ、やめるつもりが、ことしも傑作が揃ったので……
昨2018年のノンフィクションは“豊作”だったため、30点をノミネートした。ところがまだまだ面白い本が残っていた。そこで本年は、2018年11月~2019年10月に刊行されたものに、2018年10月以前の5点を加えノミネートした。
ベスト10ごっこ、やめるつもりと昨年書いたが、傑作が揃ったので第1~5位以外は順不同で、20点を掲げた。

❶吉田篤弘◎チョコレート・ガール探偵譚
☆“ノンフィクション活劇”という聞きなれない惹句だが、これはノンフィクションなのかノンフィクション・ノベルなのか、映画でよくある“based on a true story”なのか。
2019年5月|平凡社
*
そもそも文章を書くことの極意のひとつは、いかに知らぬふりを継続できるかである。
とりわけ、探偵が謎を解くような話を書くときは、
いかに謎の核心となる物や人や事をそれとなく迂回し、結末や答えについては「まったく知らない」という態度を装わなくてはならない。

❷中村淳彦◎東京貧困女子。――彼女たちはなぜ躓いたのか
☆図書館は官製ワーキングプアである司書たちによって成り立っている
2019年4月│東洋経済新報社
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計算したかのように生活保護とほぼ同程度の金額であり、とても平均的な生活はできない。
家賃5万円のアパートでひとり暮らし。手取り給与から家賃を差し引くと、月8万3000円しか残らない。本当に誰が決めたのか、ほぼぴったり生活保護の最低生活費と重なる。

❸尾崎孝史◎未和 NHK記者はなぜ過労死したのか
☆企業や役所の組織へ鋭く切り込んだ記者たちは、部下の女性記者の過労死に直面し、管理職として組織防衛に立つ“リーマン・ジャーナリスト”としての貌をあらわにする
2019年5月|岩波書店
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特に報道部門では。NHKというところで番組を作りニュースを出したら、まるで世の中を動かせているかのような。
『だから、長時間労働して当たり前だろ』って。

❹村上篤直◎評伝 小室直樹
☆猫好き小室の“猫名索引”まである破天荒な傑作評伝
2018年9月|ミネルヴァ書房
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小室直樹の奇蹟が始まった。
古今東西の知識、30年にわたって研鎖し、彫琢した社会科学方法論、そして霊感、直観をもって、複雑で混迷にみちた現実世界を見事に捌いていった。

❺荻田泰永◎考える脚――北極冒険家が考える、リスクとカネと歩くこと
☆退くのに勇気は要らない。勇気が必要なのは、前進する時だ
2019年3月|KADOKAWA
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しかし、旅に出た価値が生まれるのは、行った先が日常となり、本来自分がいた場所が非日常に感じられる瞬間だ。
その時、自分が知っていた世界、当たり前だと思っていた日常を別の見方で捉える視点を持つ。
今、そこにある問題”、❷❸を含め5冊――

河合香織◎選べなかった命 ――出生前診断の誤診で生まれた子
☆産めないと思う人を責めない。産みたいと思う人も受け入れる。
2018年7月/文藝春秋
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人間にとって『正しい』選択というのはないのです。
しかしあのとき自分自身が、あるいは自分たちがあれほど考え、決めたのだという思いがありさえすれば、どんなことも乗りこえられるのではないでしょうか。

内澤旬子◎ストーカーとの七〇〇日戦争
☆うかつな行動にひやひやしながら、ストーカーの恐怖を共有する
2019年5月|文藝春秋
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「それは偽名です」
気が遠くなってくるのを必死に堪えた。ぎ・め・い?
そ、それで、あの、本名は?
「個人情報保護法により、お教えすることはできません」

河北新報社報道部◎止まった刻――検証・大川小事故
☆石巻の廃校2小学校の2人の校長の言動を風化させてはならない
2019年7月│岩波書店
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市教委は、教務主任や生存児童に聞き取った重要証言のメモを廃棄し、校長も教務主任のメールを消去した。
7年近くたつ今も、遺族がわが子の最期に迫れないでいる理由がここにある。
、“国境”をまたぐノンフィクション5冊
竹中明洋◎殺しの柳川 日韓戦後秘史

☆最強の在日ヤクザ、日韓の架け橋となった知られざる後半生
2019年7月/小学館
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泥田を這うような暮らしをしていた私らを守護神のように守ってくれたのが、柳川さんが持つ暴力でした。あの時代を乗り切るには柳川さんの暴力が必要やったんです。
在日の知識人のペンの力だけではどうにも弱かった。

川内有緒◎空をゆく巨人
☆いわき市の気のいいおっちゃんたちとアーティスト蔡國強の30年の友情ストーリー
2018年11月|集英社
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「蔡さん、やっぱり『芸術は難しい』と思われてしまってはダメだあ。何かわかりやすい言葉で説明でぎねえかな」
蔡はすぐにその意図を汲み、翌日には短い言葉を紙に書きつけてきた。
この土地で作品を育てる
ここから宇宙と対話する
ここの人々と一緒に時代の物語をつくる

山川徹◎国境を越えたスクラム――ラグビー日本代表なった外国人選手たち
☆君が代をうたう選手に外国人も日本人もない
2019年8月/中央公論新社
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「ラグビーファン以外に外国人選手に関心を持つ人はいるんですか。その前に日本人選手すら誰も知らないのに、外国人選手と言われてもねえ」とにべもなく断る編集者もいた。
それが2015年以前の日本ラグビーを取りまく現実だったのだろう。そんな空気をがらりと変えたのは、2015年W杯の南アフリカからの勝利である。

プレイディみかこ◎ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
☆「ちょっとブルー」の12歳の少年は中学生活でどんなカラーに変わるのか
2019年6月│新潮社
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仕事を探している移民の母親たちのために履歴書の書き方講座を開いた教員や、移民局との間に立って移民の家族の代わりに手紙を書いたり、電話で抗議したりしている教員もいるという。
貧困地域にある中学校の教員は、いまやこんな仕事までしているのだ。
この国の緊縮財政は教育者をソーシャルワーカーにしてしまった。
ベテラン作家たちの今年の逸品5冊

後藤正治◎拗ね者たらん 本田靖春 人と作品
☆同世代、弟、息子の世代の編集者たちが最も畏敬した男
2018年11月|講談社
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「藤田君なぁ、作家と編集者ってどんな関係だと思う」
「……?」
「二人して一緒に人の家にドロボウに入るようなものじゃないのかな。そう思ってきたよ」

清武英利◎トッカイ――バブルの怪人を追いつめた男たち
☆整理回収機構は破綻した住専社員を“奪り駒使い”として悪質債務者に向けて打ち込む
講談社|2019年4月
*
「将棋は相手から取った駒を使って攻めるでしょう。潰れた住専の人を期限付きで採用して、相手を攻める、不動産業者などからカネを取り立てさせる。〔…〕
入社した実働の社員は、住専という会社が倒産したことで雇われる身になった人で、いわば取られた駒なんだよ」

森功◎官邸官僚――安倍一強を支えた側近政治の罪
“姑息・安倍、隠蔽・菅、野卑・麻生”、これを支え、権力をむしゃぶっているのが官邸官僚たちだ
文藝春秋│2019年5月
*
いまや名実ともに政権を動かしているその官邸官僚たちは、決して古巣の役所のトップを走ってきたわけではない。
ある種のコンプレックスをバネにここまで昇りつめてきたといえる。
そんなある意味異質な官僚たちが宰相の絶大な信を得て、思いのまま権勢を振るっている。

三浦英之◎牙――アフリカゾウの「密輸組織」を追って
☆そして人口爆発のアフリカはゾウと共生できるか
2019年5月|小学館
*
私たちはきっとアフリカゾウを守り抜けない。
彼らはやがて――あるいはそう遠くない未来に――ほぼ100%の確率でこの地球上から消滅してゆく。
そう確信できるだけの事実が私にはあった。

藤井誠二◆沖縄アンダーグラウンド――売春街を生きた者たち
☆沖縄の歴史の中でまぼろしとなっていく街を佐木隆三が語る
2018年09月|講談社
*
「あと何年生きることができるかわかりませんが、
少なからず沖縄に関わってきた者として、普天間問題も含めて沖縄の問題がまったく進んでいないのを見ると、辛いです」
そして唐突に「沖縄を返せ」を歌い出した。「沖縄を返せ、沖縄へ返せ」と、佐木はサビの同じ箇所を繰り返し、拳を握り腕を前後に振りながら声を張り上げる。
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稲垣えみ子◎人生はどこでもドア――リヨンの14日間
☆“実用記事”満載の海外民宿「旅」の本であるが、ひとり暮らしの若者や老人に“生活”のヒントを与えてくれる本でもある
2018年11月|東洋経済新報社
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必要なのは語学力でも情報でもコネでもお金でもなく「自分」だったのだ。
いつもやっていないことが旅行したからといってできるわけじゃない。それを認めればよかっただけのことなんだ。
ほんとうは1位に推したいが、昨年本なので――

牧野邦昭◎経済学者たちの日米開戦――秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く
☆「確実な敗北」よりも「万一の僥倖」、だからこそ低い確率に賭けてリスクを取っても開戦しなければならない
2018年5月|新潮社
*
昭和天皇は『昭和天皇独白録』において
「戦争に反対する者の意見は抽象的であるが、内閣の方は数字を挙げて戦争を主張するのだから、遺憾乍ら戦争論を抑える力がなかった」と述懐している。

ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田裕之:訳◎ホモ・デウス――テクノロジーとサピエンスの未来
「サピエンス全史」の未来編
河出書房新社│2018年9月
*
飢餓と疾病と暴力による死を減らすことができたので、今度は老化と死そのものさえ克服することに狙いを定めるだろう。人々を絶望的な苦境から救い出せたので、今度ははっきり幸せにすることを目標とするだろう。
そして、人類を残忍な生存競争の次元より上まで引き上げることができたので、今度は人間を神にアップグレードし、ホモ・サピエンスをホモ・デウスに変えることを目指すだろう。
2018年■傑作ノンフィクション★ベスト10
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