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許永中◎海峡に立つ――泥と血の我が半生     …………☆“悪人”の誰もが自伝を上梓し、“悪名”を消そうとする

2019.11.25海峡に立つ



 炎を纏い、剣と縄で煩悩を砕き、厄災を除く不動明王。あらゆる難から助けて下さる優しい観音菩薩。毎日毎日、真言やお経を唱えるうちに、荒れ狂う心が不思議と鎮まっていくのだ。

 罪状には絶対に納得できない。しかし、半生を静かに振り返ったとき、若き頃より数多の悪事に手を染めてきた自分自身の過去を、見つめざるを得なくなる。

 与えられた時間の中で、私は繰り返し繰り返し懺悔し続けた。


 就寝する9時までの間、座して書籍を読むことも忘れなかった。
 私にとって、停滞は後退であり、決して容認できない。獄中で自分を前進させる術は、お経、写経、そして読書だった。

◎海峡に立つ――泥と血の我が半生/許永中/2019年9月/小学館/ISBN:9784093886253/〇


 許永中(ホ・ヨンジュン、1947~)。イトマン事件、石原産業事件で名をはせ、「裏経済界の帝王」「稀代の詐欺師」と呼ばれた男。本書の帯には「戦後最大の黒幕」と。

 許永中については、伊藤博敏『許永中「追跡15年」全データ』(2000)、森功『許永中 日本の闇を背負い続けた男』(2008)によって、その半生と犯罪は明らかにされている。

 すでに過去の人である。ところが2019年、突如自伝を著し、テレビのインタビューに登場した。

 上掲の“懺悔”とともに、こうも書いている。許は、国際条約の「母国での服役」を希望し、韓国に移送された。これにより日本における特別永住者の立場は喪失し、今後日本に入国することはできなくなった。「日本に入れなくなるくらいなら、韓国に移送されずに日本で服役すればよかったじゃないか」と言う人もいた。

 ――日本の刑務所では、仮出所時には反省文を書かなければいけない。私にすればイトマンも石橋も、納得するわけにはいかない冤罪である。
 その私がどうして、一体何の反省文を書けるというのか。己の都合だけしか考えない者達の嘘で私は貶められたが、私は嘘などつけない。 
(本書)

 “悪人”の誰もが自伝を上梓する。半生をふりかえる年齢になったとき、過去の“悪名”を否定し、イメージを大幅修正しようとするのだろうか。

 本書に登場する“悪の盟友”、政治家の亀井静香も『亀井静香、天下御免!』(2017)のなかで、善人ぶりを誇示し自慢気に人生を振り返りながら、さすがに気が引けたのか、

 ――後ろめたさなんてねえと断言しなから、俺は偽善者だなと思うわけだよ。ふーん何を言っているんだアイツは。そういう眼が、俺をじっと睨んでいるじゃないかと感じられてならないんだ。 (同書)

 同じく“悪の盟友”、弁護士の田中森一は『遺言――闇社会の守護神と呼ばれた男、その懺悔と雪辱』(2014)の中で、 
「懲役を背負ってもいいから、もう一回同じ田中森一の人生を歩みたい、そう神様にお願いするわ。わしはこれまで自分の思うように生きてきた。悪といわれるなら悪でいい。自分の人生に悔いはない」
と言いつつ、貧しかった生い立ち、特捜部のエースといわれた検事時代、刑務所内での「論語」の勉強を自慢気に語る。

2019.11.25許永中日本の闇を背負い続けた男


 当方が許永中に興味を持ったのは、竹中明洋『殺しの柳川――日韓戦後秘史』(2019)の中でインタビューに答え、次のように語っているからだ。

 ――「私、在日は根なし草やと言うとるんです。在日韓国・朝鮮人、少なくともわれわれ韓国籍の者は30年ほど前に日韓条約で切り捨てられたんやと。

 朴大統領は立派な、私も大尊敬する政治家ですが、あの時点では国造りのためとはいえ、祖国造りのため、国体護持せんがため、在日については手が回らんから、そっちはそっちでやってくれと、われわれ在日を一種の棄民に近い立場にしてしまった。

 棄民いう言葉がきつければ、横へやった。今もその延長線上にわれわれはいるわけです」
 (同書)

 たしかに1965年の日韓基本条約が、今もさまざまな問題を引き起こしているが、それはともかく「日本から差別され、韓国からは切り捨てられた」という在日の鬱屈した思いが、許永中の“栄光と挫折”の人生の底にあったと思わせる。

 かつて力道山のプロレス興行の際、食事会に招かれた父に付いて許も参加した際、力道山の何倍ものオーラを放つ柳川次郎(梁元鍚)の姿を見、許の身近なヒーローとなった。その柳川が暴力団を離れた後、全斗換大統領直属の平和統一政策諮問委員会のメンバーとなって日韓の“架け橋”という役割を務めたように、二回り年下の許ものちに同様に同委員会のメンバーとなった。

 さて、2013年に仮釈放された許永中の現在は……。
 医療、介護、食品事業、そして都市開発。とりわけ仁川空港周辺の都市開発という大きなプロジェクトにかかわっている。また、北朝鮮に通じる表と裏の人脈を持っているので、北朝鮮との事業の門戸を開きたいと訪ねてくる日韓双方の要人が増えた、と書いている。

 晩年の柳川が暴力の世界に復帰を企てていたように、許も“フィクサー”として再びうごめき始めているのか。

 ――そしてもうひとつ、私には成し遂げたいことがある。退位された上皇の訪韓の実現である。 (本書)

 巻末に「日韓外交の怪物」と呼ばれる歴史学者、崔書勉(チエ・ソミヨン、1926~)との対談を収録。崔は、上皇(当時、天皇)の韓国がらみのエピソードを紹介している。
これに許は、「陛下ご自身も、その気持ちゆえの生前退位ではないでしょうか。陛下のお立場で訪韓することは政治的にも難しいですが、退位なさったら、真っ先に韓国に来て頂きたい」

 当方も、じつは生前退位の“隠れた理由”に「韓国訪問」があるのではないかと思っていたが、安倍が政権に固執している限り実現はないだろう。

 安倍首相と文在寅大統領とは互いにメンツのため張り合っているが、以前、日韓関係の修復について、崔書勉はこう言った。
 
 ――(日韓の)どちらかが譲歩するのではなく、『一緒に負ける』ということが、翻って両国の結びつきを強めるのだと思います。 (本書)

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