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正津勉■脱力の人

2014.06.26脱力の人

 これぞ久太郎の真骨頂である。『獄窓から』に収める旧作「久太句屑」に、

みずからあまりの駄句ぶりに

「淋しい苦笑が湧いて来る」ほかないという、

このころの作としてある。

  金魚掴み殺したる性欲の悩み

 いやはやまあこの生臭いのといったら。ちょっとまたこんな噴飯ものときたらどうだ。

  馬は暖かに尿す銀座の柳かな

 さらにつぎの句の男をみられたい。まさにズボ久その人らしくあるかな、だ。

  浴衣褪せて日中を夢のよな男

 てんでとぼけた「夢のよな男」にときに、あらたな目ざめの槌となることがある。

――「もろもろの 和田久太郎」


■脱力の人│正津勉│河出書房新社│ISBN:9784309017273│2005年08月│評価=○

〈キャッチコピー〉
 詩人、俳人、マンガ家…。圧倒的な問題に立ち向かうには、脱力の境地に行き着くしかなかった7人の表現者たちの人生観を、自らもその作品で人間の存在を見つめ直し続ける異色の詩人が探る。

〈ノート〉
 正津勉(しょうづ べん)は、1945年生まれの詩人。

 ――大学入学前後。そのころから当方はことあるごとに躁鬱スパイラルに見舞われはじめる。そんなときどき難破するそのたびごと避難ブイのようにあった面々。そうそれが脱力の人であった。(本書)

 その7人、みんな訳ありの人たちである。

天野忠……あーあ どうして わしは 生れてきたか? 
和田久太郎……もろもろの キュウ、キュウ、ネズミ
尾形亀之助……ぺろぺんとたるるて それからその次へ
淵上毛銭……まあいいや 生きた、臥た、書いた
鈴木しづ子……まぐはひの こころの疵からだの疵
辻まこと……ワッハッハッ アダモは過ぎていった
つげ義春……そういうわけで シリツをして下さい

 ところが、当方、上掲の和田久太郎という俳人だけ知らない。本書によれば、といっても秋山清『日本近代文学大事典』の孫引きだが……。

和田久太郎 (1893~1928)無政府主義者。兵庫県明石生れ。大阪で株屋の丁稚から店員となり、年少俳句に輿ず。20歳のとき生活に失敗して放浪、漂泊から社会主義者となり、上京して大杉栄らのアナキズム運動に加わった。大正13年9月、前年殺された大杉夫妻の復讐として陸軍大将福田雅太郎を狙撃して果たさず、無期囚として秋田監獄に縊死した。獄中の俳句、短歌、書簡を集めた『獄窓から』がある。

 『獄窓から』を読んだ芥川龍之介は、「和田久太郎君は恐らくは君の俳句の巧拙など念頭に置いてはゐないであらう。〔…〕僕は或は和田君のかういふ俳句を作ることも排悶のためかと思ってゐる。しかし君の才力や修練は『排悶のため』を超越してゐる」と書いた。

 それから4か月もたたずに、芥川は自殺する。久太郎の「悼芥川君」と詞書のある句。

  地の下で虫の鳴く音をきかるゝか 

〈読後の一言〉
 これぞ脱力といえる和田久太郎の歌。「先輩達は尾行を俺は淋病をもてあまし居る大阪の冬」。そして生真面目な辞世の句。「もろもろの悩みも消ゆる雪の風」。

〈キーワード〉
和田久太郎 「獄窓から」 無政府主義者 俳人

〈リンク〉
正津勉□詩人の愛――百年の恋、五〇人の詩
山田稔■ 北園町九十三番地――天野忠さんのこと
川村蘭太□しづ子――娼婦と呼ばれた俳人を追って




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