長谷川晶一■夏を赦す

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2014.07.15夏を許す

「ガンちゃんは、これまでに《在日差別》を受けたことがあるの?」〔…〕

「ないですね。僕、ずっとオープンにしてきたから。僕らの世代でもいまだに隠しているヤツもいますよ。

でも、親父は僕に“胸を張れ”ってずっと教えてくれましたから。“それでごちゃごちゃ言ってるヤツはしばいてしまえ”って。

 何でもいいからどこか秀でているところがあれば、誰もが認めてくれるでしょう。それで僕は野球を頑張れたんです」〔…〕

 岩本の同級生たちに「岩本さんが在日韓国人三世だということを知っていましたか?」と尋ねると、誰もが「知ってましたよ」と平然と答えた。

「知っているも何も、アイツ、自分から言ってましたよ。

“オレ、あっち(韓国)やけど、メイド・イン・ジャパンやねん”って」


■夏を赦す│長谷川晶一│廣済堂出版│ISBN:9784331517482│2013年10月│評価=○

〈キャッチコピー〉
 元号が平成に変わった最初の夏、後輩の不祥事で阪南大高野球部の甲子園へ続く道は突然に閉ざされた。彼らは、自分たちの夢をドラフト2位で日本ハムに指名された岩本勉に託した。奪われた夏。挫けなかった球児たちの再生の実話。四半世紀を経て、明らかになる事実と秘密。

〈ノート〉
 岩本勉(1971~)は、1989年、阪南大高校から日ハム・ファイターズに入団。プロ入り6年日の1995年に初勝利。以降2005年に引退するまで、通算63勝。ヒーローインタビューの際の決め台詞「まいど!」で人気者に。

 といっても当方、まったく知らない。初めて耳にする選手名。この年、ドラフト会議は大豊作だったという。8球団が指名した野茂英雄、ハマの大魔神佐々木主浩、西武潮崎哲也、中日与田剛、広島佐々岡真司、前田智徳、ヤクルト古田敦也、ダイエー指名を拒否した元木大介など。そのなかで日ハム2位に指名されたという。逸材だったのだろう。

 本書は、その岩本勉の阪南大高校野球部時代のできごと、そして20数年後の野球部員たちを追ったドキュメントである。

 水も飲めない根性野球、つらい練習に耐えぬいてきて、いざという時に、後輩部員の不祥事で、大阪府予選出場辞退に追い込まれる。部員たちは、大学、社会人のセレクションでも、「技能満点、実績ゼロ」で落とされ、野球の道を閉ざされる。

 岩本と同学年の野球部員20人。「野球に未練はない。あまり思い出したくない3年間」という人もいれば、「人生でもベストの3年間」という人もいる。そして取材に応じない人も。

 岩本をスカウトした宮本好宣。
「在日の人は日本人と同じじゃダメなんです。日本人よりもちょっと上ぐらいでもダメです。勉強にしても、スポーツにしても、日本人よりもうんと差をつけて初めて対等の立場なんです」。
  
  上掲の「メイド・イン・ジャパン」は、母が帰化していたので、生まれたときから日本国籍という意味。

〈読後の一言〉
 そして一人突出し、プロに入った岩本。縫製業を営む両親の壮絶な半生。「まいど!」と明るくファンに応えるガンちゃん岩本。そして何より出場辞退の不祥事を起こし失踪した男の心情……。著者は、善意あふれる物語を紡ぐ。

〈キーワード〉
岩本勉 阪南大高野球部 在日

〈リンク〉
高橋秀実□弱くても勝てます――開成高校野球部のセオリー


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