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伊藤彰彦■映画の奈落――北陸代理戦争事件

2014.08.22映画の奈落

 『北陸代理戦争』は、映画と現実が連動し、フィクションが進行中のやくざの抗争に影響をあたえ、モデルである組長が射殺される事件を誘発した希有の映画である。〔…〕

 高田宏治に映画と事件の関連についての率直な感想を訊ねると、「あの時は本当につらかった……」と前置きしてこう語った。

 「創作意欲をかきたてるネタを掴むと、貪欲に食いつくし、前後分別を忘れる……それが活動屋の本能や。奈落を招いたのは活動屋の業や。

 もちろん、川内さんの今ある立場や状況について甘く見ていた部分はあった……けれど、あぶないと思っていても、映画はつくったと思うね。

 生きている人、生きている事件をネタにするのはこわい。しかし、奈落に堕ちる覚悟でつくらなければ、観客はついて来えへん、見物がのぞきたがるような奈落に突き進み、それをすくいとって見せなければ映画は当たらへん、奈落の淵に足をかけた映画だけが現実社会の常識や道義を吹っ飛ばすんや」〔…〕

 笠原和夫という先輩脚本家に挑むため、時代をつくった『仁義なき戦い』を乗り越えるため、暗部もふくめ川内弘というモデルのすべてを描き切るため、

 高田宏治は「奈落に堕ちる覚悟で」脚本を書いた。しかし、それは「見物がのぞきたがるような奈落」にならず、興行的に惨敗し、

「奈落の淵に足をかけた」やくざの足下の薄氷を割った……。 


■映画の奈落――北陸代理戦争事件 │伊藤彰彦│国書刊行会│ISBN:9784336058102│2014年05月│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
 《その人を倒さんと、男になれん》――公開後モデルとなった組長が映画と同じシチュエーションで殺害された実録やくざ映画の極北『北陸代理戦争』をめぐる男たちの戦い。関係者への直接取材と緻密な脚本分析によって浮き彫りにする、映画という魔の奈落に迫るドキュメント!

〈ノート〉
 映画『北陸代理戦争』(1977、深作欣二監督)をネットで続けて2回見た。さむざむとした北陸の地を背景に殺伐としたヤクザの抗争を描いたもの。新仁義なき戦いシリーズの一作として企画されたが、菅原文太が出演を辞退したため松方弘樹が主演し、シリーズからはずされた実録映画である。

 それにしても37年前の映画である。出演しているハナ肇、西村晃、成田三樹夫、遠藤太津朗、地井武男、天津敏、中谷一郎、みんな亡くなった。監督の深作欣二も亡くなった。

 本書は、この映画の脚本を書いた高田宏治の脚本が仕上がるまでの紆余曲折、深作監督たちによる映画づくりの実際、主人公のモデルとなった“北陸の帝王”と呼ばれた福井の川内組組長川内弘の言動、そして映画の喫茶店で襲われた場面と同じ場所で、映画公開後に川内は襲撃され殺害されるという驚愕の事実を描く。それにとどまらずその後の川内組若衆たちの秘めたる動き、さらに37年後の映画関係者、組関係者の今を追う。

 実録ものといっても過去の抗争を描くならともかく、現在進行中の抗争をモデルにし、映画の最終場面で……(本書のシナリオと若干違う)。

川田「カシラ、飢えた狼は親兄弟だって、食い殺しますよ」
岡野「すると、なにか、わりゃ、浅田が相手でも、かまえるというのか」
川田「そっちの出方次第ではね。勝てないまでも、差し違えることはできます。虫けらも、五分の意地って言いますからね」
岡野「川田、わりゃ、よう言うた。あらためて出直してくる。今の言葉忘れんようにせえよ」

 川田が主人公の川内弘、岡野は山口組若頭補佐菅谷政雄がモデルとされる。そして“あらためて出直してくる”の台詞どおり、川内は実際に襲撃され惨殺されるのである。世のいう“三国事件”である。誰がどう言い訳しようと、映画が殺人を犯したのである。

 ――取材した(組)関係者は一様に口が重く、ほとんどが『北陸代理戦争』を快く思っておらず、35年経ってなお、三国の人々にとって『北陸代理戦争』がある種タブーであることに気付かされた。(本書)

 かつて映画華やかなりし頃、松竹は監督主義、東宝はプロデューサー主義、東映はスター主義といわれた。

 しかし今の時点で考えると、社長の岡田茂『悔いなきわが映画人生』、高岩淡『銀幕おもいで話』、監督のマキノ雅弘『映画渡世』、深作欣二『映画監督深作欣二』、 プロデューサーの俊藤浩滋『任侠映画伝』、日下部五朗『シネマの極道』、脚本家の笠原和夫『昭和の劇』、高田宏治『東映のアルチザン』等々、それぞれ映画づくりのすぐれた証言を残している。東映こそ俳優だけでなくスタッフも人材豊富なスター主義の映画会社だった。
 

そして、『北陸代理戦争』の面々は……。監督、深作欣二はその後実録映画をやめ、『柳生一族の陰謀』、『蒲田行進曲』、『火宅の人』など名作をつくる。プロデューサーの日下部五朗は今村昌平監督の『楢山節考』を企画し、カンヌ国際映画祭で大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』を差し置いてグランプリを獲得する。脚本の高田宏治は、五社英雄監督『鬼龍院花子の生涯』や『極道の妻たち』シリーズで新たな女性像を描き快進撃する。まことにすさまじい活動屋の“業”である。

〈読後の一言〉
 著者伊藤彰彦は1960年生まれ。本書が初の著作。映画を題材にして映画より面白い。2014年ベストノンフィクションである。

〈キーワード〉
東映実録映画 脚本家高田宏治 川内組対山口組 

〈リンク〉
笠原和夫/スガ秀実/荒井 晴彦★昭和の劇


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