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2014. 10. 16  
2014.10.16縁もたけなわ

 面と向かって「敵」呼ばわりする人がいる。呉智英さんだ。

 彼は、一時期、「編集者から『書きたいものは何ですか』と聞かれるので、『日本をダメにした松田哲夫』という本を書きたい、と言うんだが、どこも『お願いします』と言ってこない」と不服そうに話していた。〔…〕

 呉さんの近著『吉本隆明という「共同幻想」』(筑摩書房)にも「松田」は登場する。〔…〕

 「『逃走論』を編集した……松田は『逃走論』を私に向かって得意気に振りかざし、どうだ、おまえなんかには分かんないだろう、と、しきりに自慢した」とある。〔…〕

 呉さんは、やれ吉本だ、やれニューアカだと流行に飛びついたり、あおり立てたりするジャーナリズムや編集者の姿勢を問うているのだろう。

 面と向かって、そう言われたら、編集という仕事は、確固とした思想信条に基づいているものではなく、

時代の流れや自分の気分に従って、好奇心のおもむくままに食いついてみるもの
なので、「軽薄ですみません」と謝るしかない。

――呉智英さん


■縁もたけなわ――ぼくが編集者人生で出会った愉快な人たち│松田哲夫│小学館│ISBN:9784093798648│2014年08月│評価=○

〈キャッチコピー〉
天性の編集者に縁あった多士済々、綺羅星の如き大宴会。

〈ノート〉
 松田哲夫、1947年生まれ。筑摩書房編集者として『ちくま文学の森』などヒット本を多発。

 本書は安野光雅、赤瀬川原平、南伸坊、鶴見俊輔など“ちくま文化人”をはじめ編集者、漫画家、哲学者、独文学者、作家、絵本作家、イラストレーター、ノンフィクションライター、デザイナー、画家、詩人、タレント、女優、装丁家、写真家、評論家、56人の人々の人物スケッチ。「ニッポン元気印時代――松田哲夫の愉快痛快人名録」として「週刊ポスト」に連載されたもの。

 本書のタイトル「縁もたけなわ」は連載時に提案されたが、この言葉(縁・宴)は「そろそろお開きに」という言葉が続くことが多く、寂しい感じがすると著者は反対したという。単行本化にあたり再度「縁もたけなわ」を提案される。

 ――考えてみれば、ぼくも66歳、そろそろ「お開き」の時間なのかもしれない。この本は、この世にいる人、あの世にいる人が、こぞって集まってくれた「生前葬」なのだという気分にもなってきた。そういう風に考えると、「縁もたけなわ」は、この本のタイトルとしては最適のような気もしてきた。(あとがき)

 タイトルに逡巡するほど“老人力”がついてきたらしい。松田哲夫といえば『編集狂時代』(1994)という“自伝”がある。その文庫版に「編集者ってどういう仕事?」という一文が収録されている。

 編集者とは……。読者である。コレクターである。雑用係りである。サービス業である。校正者である。製作担当者である。デザイナーである。営業担当者である。批評家である。ライター(作家)である。学者である。企画者である。プロデューサーである。と13項目が掲げられているが、上掲にあるように「好奇心のおもむくままに食いついてみる」企画者としてまことに優れた編集者だと思う。


〈読後の一言〉
 本書は『編集狂時代』を、その20年後に人物中心にスケッチ風にリライトしたもの。若くして亡くなった永沢光雄を「永沢光雄というジャンル」という言葉で紹介しており、ぜひ読んでみたい。というのが本書での当方の一番の収穫。

〈キーワード〉
編集という仕事 呉智英 筑摩文化人 

〈リンク〉
松田哲夫●「王様のブランチ」のブックガイド200


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