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小泉武夫■猟師の肉は腐らない

20141017

2014.10.17猟師の肉は腐らない

 次に野兎の処理に移った。

 先ず、一羽の野兎を左腕に抱えて持つと、先ほど作った先端がY字型をした枝を兎の肛門に巧みに深く挿入し、内臓の奥にある食道の辺りにまで差し込んだ。

 そして、その枝をぐるぐると振り廻し、同時に腕に抱えた野兎も器用に回転させたかと思うと、えいっとばかりに、力を入れて一気にその枝を引き抜いた。

すると何と何と。食道から下の全ての内臓が、その一本の枝に巻き付いて、肛門からズボッと外に引き出されたのであった。
〔…〕

 食道、心臓、胃袋、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、大腸、膀胱といった内臓の全てが整然と一本の枝に絡まり付いている。その上、傷や裂け目などがどこにも見当たらないのも驚きであった。


■猟師の肉は腐らない│小泉武夫│新潮社│ISBN:9784104548040│2014年07月│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
 猟師の知恵に思わず脱帽! こんな豊かな暮らしが山ン中にあるなんて。猟師の義っしゃん。愛犬をお供に猪を狩り、岩魚を釣り、灰や煙を使って保存食を作り、冬に備える。蜂も蝮もなんだってご馳走になる。自然と生きる猟師の暮らしは、先達から受け継がれた様々な知恵と工夫がてんこ盛り。命の連鎖も身をもって学んだ、驚きの体験記。

〈ノート〉
 福島県、茨城県、栃木県の三県に跨った八溝山地、といっても水郡線矢祭山駅に下車すれば、そこは奥久慈県立自然公園という風光明媚な観光地。矢祭町といえばたしか全国から募った本の寄贈で「もったいない図書館」をつくった町。

 もっともそこからタクシーで町道、脇道、山道、あとは猪や穴熊の出る道を歩くしかない。住所でいえば福島県東白川郡矢祭町大字小高林字滝の口丙。

 その電気水道なき地に住む猟師義っしゃんを訪ねるのは食文化や発酵学を中心とした農学者である“先生”。登場人物二人だけの山の生活。

野兎の灰燻し……。
 シャベルで土を掘り、直径約40センチ、深さ50センチほどの穴をつくる。檪の木の枝を35センチくらい、付け根がY字型。そして上掲の罠にかかった野兎の処理……。そして野兎の毛皮を剥ぎ、集めてきた大量の枯れ葉と生っ葉を混ぜ合わせ、穴の底にぶ厚く敷き、その上に丸裸になった野兎を二羽横たえ、さらに葉を被せる。火をつける。火のついた乾燥葉っぱが生の葉を燻しながらくすぶるようにして燃えていく。最後の作業は、穴から掻きだした灰を軍手をはめた手に取り、木の枝を使って野兎の肛門から突っつくようにして詰め込んでいく。こうして腐らない、味も変わらない野兎の灰燻しができあがる。

水音焼き……。
 掘った穴に蕗の葉を何枚も敷きつめ、塩を岩魚と山女にたっぷりと擦りつける。魚を蕗の葉で被い、更にその上に砂を4センチほどの厚さにかける。枯れた笹の葉に火をつけ、薪をくべ燃やし続ける。そして川に流れる水の音を聞きながら食う。

 以下、作り方は省略するが、赤蝮の味噌汁、地蜂の甘煮、蜂飯、どくだみと柿の葉っぱと甘草の根を干してつくったお茶、ごぼうと韮の泥鰌汁など多彩な食が登場する。

 合間に酒のうんちくが入る。室町時代の「酒の十徳」。一徳は独居の友。二徳は万人和合す。三徳は推参に便あり。四徳は旅に慈あり。五徳は労をいとう。六徳は憂をわすれ鬱を開く。七徳は縁を結ぶ。八徳は寒気の衣となる。九徳は延命に効あり。そして十徳は百薬の長。

 こうして“先生”は「長閑なること宇宙のごとし」の4泊5日、そして2年5か月後に3泊4日の「八溝の冬」を、義っしゃんと過ごす。

〈読後の一言〉
 小泉武夫、1943年福島県生まれ。著者の本は初めて読むが、学者というより「食の冒険家」、単著百数十冊の著述業であるらしい。もちろんフィクションの部分もあるだろうが、丹念な記述で細部はまことにリアル。いやーっ、ほんとに面白かった。


〈キーワード〉
野兎の灰燻し 岩魚山女の水音焼き 八溝山地 酒十徳





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