2014年■傑作ノンフィクション★ベスト10

20141201

 2014年に読んだ本(2013~14年刊行)のなかから、傑作ノンフィクションを選んだ。2014年刊行4作、2013年刊行6作である。本年はノンフィクション作家によるノンフィクションに関する本が多く出て、若き書き手いでよと鼓舞したことを特記したい。なお掲載は、発売日が新しい順である。

2014.12.01-2014ノンフィクションベスト10-1

小泉武夫■猟師の肉は腐らない
 その枝をぐるぐると振り廻し、同時に腕に抱えた野兎も器用に回転させたかと思うと、えいっとばかりに、力を入れて一気にその枝を引き抜いた。

 すると何と何と。食道から下の全ての内臓が、その一本の枝に巻き付いて、肛門からズボッと外に引き出されたのであった。


 福島県の山奥、電気水道なき地に住む猟師を訪ね、野兎の灰燻し、水音焼き、赤蝮の味噌汁、地蜂の甘煮、蜂飯など多彩な食の知恵を知る。細部がまことにリアル。“先生”は「長閑なること宇宙のごとし」の4泊5日、そしてまた3泊4日の「八溝の冬」を、猟師義っしゃんと過ごす。学者というより「食の冒険家」、単著百数十冊の著述業であるらしい。

伊藤彰彦■映画の奈落――北陸代理戦争事件
 高田宏治は「奈落に堕ちる覚悟で」脚本を書いた。しかし、それは「見物がのぞきたがるような奈落」にならず、興行的に惨敗し、

「奈落の淵に足をかけた」やくざの足下の薄氷を割った……。

 
 映画『北陸代理戦争』(1977)。高田宏治の脚本が仕上がるまでの紆余曲折、深作監督たちによる映画づくりの実際、主人公のモデルとなった“北陸の帝王”と呼ばれた福井の川内組組長川内弘の言動、そして映画の喫茶店で襲われた場面と同じ場所で、映画公開後に川内は襲撃され殺害されるという驚愕の事実を描く。それにとどまらずその後の川内組若衆たちの秘めたる動き、さらに37年後の映画関係者、組関係者の今を追う。東映こそ俳優だけでなくスタッフも人材豊富な“スター主義”の映画会社だった。

松井今朝子■師父の遺言
 ところが芝居に惑溺すると、平穏無事な実人生に退屈するあまり、〔…〕時に自ら事を起こして人生をドラマチックにしたがるのではないか。
 43歳で妻子と全財産を捨てて家出をした武智鉄二は、その最たる例のように思われた。


 武智鉄二といえば、扇鶴ブーム」を巻き起こした「武智歌舞伎」、監督した映画『黒い雪』のわいせつ性で裁判になった「黒い雪事件」で知られている。生涯の師と仰いだ武智鉄二の「あくまで私の心に留まる師の想い出に過ぎない」と遠慮しつつも、これは見事な第1級の評伝である。武智は言う。「僕は文学って、これは権力の象徴だと思ってます。文学は非常に時代遅れな芸術です。いまはもう、女性の才能で十分なんです」。

佐々木健一■辞書になった男 ――ケンボー先生と山田先生
ケンボー先生は、「ことばは、音もなく変わる」と言った。

山田先生は、「ことばは、不自由な伝達手段である」と言った。


 辞書『明解国語辞典』をともに作ってきた東大同級生の二人はなぜ決別したのか?一冊の辞書がなぜ、見坊豪紀『三省堂国語辞典』と山田忠雄『新明解国語辞典』とに分かれたのか?
 それぞれの人物像が二転、三転するのが、本書の醍醐味。辞書づくりは家内工業的な仕事と思っていたが、それにしてもその用例が“私的”なのに驚く。「どうやらことばは、コミュニケーションの道具でありながら、集団における情報や技術の流出を防ぐため、コミュニケーションを妨げるものとしても進化した」。

2014.12.01-2.2014ノンフィクションベスト10-2

黒川祥子■誕生日を知らない女の子――虐待ーその後の子どもたち
 親を攻撃すれば、もつと激しく親を怒らせてしまい、仕返しをされるのがわかっているので怖くてできない。

 そして、そのやり場のない怒りは、優しく保護してくれる人たちに向かってしまうのです。


 親による子どもへの虐待が絶えない。「殺されずにすんで」救出された後、小規模住居型児童発育事業である「ファミリーホーム」で育つ子どもたちに著者は密着する。それで一件落着なのか。そうではなかった。「虐待の後遺症」である。
 今も親からの虐待の後遺症に苦しんでいる大人になった被虐待児が、娘への虐待が止まらない「連鎖」を抱えながら生きている。その姿に戦慄する。

清武英利■しんがり――山一證券最後の12人
 しんがり」の人々は転職を繰り返した。

 調査委員の七人のうち、山一から転じた再就職先で第二の人生を全うしたものは一人もいない。


 負債3兆円といわれた山一証券は、じつは2,600億円の帳簿外債務があったゆえに会社更生法による救済を得られず、100年の歴史を閉じた。我先にと沈没船から逃げ出すなか、最後まで会社に踏みとどまり、真相究明と顧客への清算業務を続けた社員たち。「場末」と呼ばれた部署の社員だった。
 その“しんがり”たちが、再就職先でも何らかの理由で辞めざるを得ず、さらなる転職をしていることだ。決意の社内調査報告書をまとめる高揚感と充実感の中で燃え尽きた部分もあるのではないか。

青木理■誘蛾灯――鳥取連続不審死事件
 判決は美由紀の訴えを一顧だにせず、検察の主張をほぼ丸呑みする内容だった。しかも、死刑である。

 なのに、それを言い渡した裁判官や裁判員に向けて「ありがとう」と言って礼を尽くす被告人。


 鳥取連続不審死事件は、鳥取市内のカラオケスナックに勤めていた上田美由紀に係わりのある6名の男が不審な死をとげていたという事件である。当時35歳だった美由紀は逮捕され、一審二審とも死刑判決。
 地方の中心街の寂れ。ジャンクフードにより肥満した女たち、ゴミ屋敷、女のいいなりになる弛緩した男たち、生活保護をうける高齢者……。警察官、検察官、弁護士、裁判官の恐るべき“劣化”。著者は犯罪ではなく、“地方消滅”という恐るべき近未来を描いたのではないか。

柏木隆法■千本組始末記――アナキストやくざ笹井末三郎の映画渡世
 千本組がやくざだったのか、侠客であったのか、それとも荒陶社の面々がいったように極道であったのか、その評価は別としても

昔、この地域に千本組という集団があり、京都の経済に大きく貢献していたことは動かしがたい事実なのである。


 日本映画史の揺籃期から全盛期を駆け抜けた侠客・笹井末三郎の生涯。本書は1992年海燕書房版を加筆、修正した“復刻版”である。
 「自信をもって断言するが、本書を映像化するのは不可能である。笹井末三郎という人物が任侠路線で映像化されれば大きな誤解を後世に残すことになる。本書で述べたかったのは、教科書に載るような偉人の伝記ではない。近代を“負”の領域で生きた人々の歴史である」と著者は書く。

佐々木実■市場と権力――「改革」に憑かれた経済学者の肖像
 竹中はすでに森首相のブレーンだ。鳩山由紀夫は森政権と対時する最大野党の党首である。

 鳩山ブレーンを竹中の手で組織するということは、政権側と野党側、竹中が両方の知恵袋になることを意味する。そんなことがありえるのだろうか。


 経済学者、国会議員、企業経営者の顔を使い分け、小渕政権から安倍政権まで、つねに政治の裏にいた男。その半生を著者は綿密にたどる。小泉純一郎の郵政民営化の先頭に立ったのが竹中平蔵である。
なんとうさんくさい男だろう。本書で竹中嫌いの10の理由を見つけた。家族で金儲け、住民税を払わない、トラの威を借りる、過去を消す、他人の言葉を盗む、などなど。

川内有緒■バウルを探して――地球の片隅に伝わる秘密の歌
 そう、バウルの話は、いつでも同じところに帰結する。

 自分のココロを採れと。自分の中にある聖なる場所を探し求めよと。すべての偏見や束縛から自由であれと。自由になって、自分自身を見つけろと。


 バウルは、バングラデシュとインドの西ベンガルの農村部に暮らす神秘的な吟遊詩人たち、村から村へと放浪する。シンプルな一弦琴のエククーラと、ドゥブキと呼ばれる太鼓を従えた歌を歌うことで生計を立てている。
著者は、国際機関に勤めていただけあって、事前の調査、その手順の見事なこと。バングラデシュ内のアクセスなど細部がきっちり書かれており、旅行記として一級品。


 あえて第1位はといえば、青木理『誘蛾灯――鳥取連続不審死事件』である。大きな新聞社の組織的取材と違い、ライターとして事件を取材するにはおのずと限界がある。スナックにたむろして“聞き耳”をたてる“私小説”的な書き方に賛同を得られず、講談社ノンフィクション賞をのがした。しかし当方は“地方の劣化”が町の中心部の衰退やコミュニティの消滅、低所得者層の増加などにとどまらず、本書によって警察、検察、裁判などの人材の“劣化”、まともな捜査も弁護もできない地方の司法をあぶり出したところにあるのではないかと思う。

2014年■傑作ノンフィクション★ベスト10=補遺・ノンフィクションの話題
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2011年おすすめ本=傑作ノンフィクション・ベスト10
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