須田桃子★捏造の科学者――STAP細胞事件
05/ビジネスという甘きもの - 2015年06月12日 (金)

小保方氏への遺書にあったという「絶対にSTAP細胞を再現してください」という言葉も謎を残した。この言葉が本当なら、笹井氏は最後まで、STAP細胞の存在を確信していたということになる。〔…〕
私は、あまりにも多くの矛盾が噴出し、小保方氏とSTAP現象を信じ続けることが難しくなったことこそが、笹井氏を苦しめた最大の要因ではないか――と推測していた。でも、それでは遺言の説明がつかない。
一方、ある研究者は、小保方氏への遺言について、メールにこう記した。
「足かせを一生かけたとしか思えません。はいたら踊り続けなくてはならない『赤い靴』ですね」
*
2014年1月29日の衝撃的な“世紀の大発見”STAP細胞の記者会見以降、本書が書かれた11月半ばまでに、毎日新聞の一面に掲載された関連記事は35回に及ぶという。論文関連記事でこの多さは恐らく例がないだろう。
本書は毎日新聞東京本社科学環境部記者によって、同社のチームによる取材をもとに、その一部始終を丁寧に記述したもの。科学記者として正確さと分かりやすさを心がけ、決してセンセーショナルなとらえ方はしない。
当方は、しかしゴシップ的にしか興味を示さない。山中伸弥教授のiPS細胞に比べより簡単につくれるという記者会見の言葉になぜか胡散臭さを感じていた。小保方晴子という国立大学では准教授に相当する「研究ユニットリーダー」という魅惑的な女性。“研究馬鹿”のように誠実そのものの若山照彦教授、多芸多才の印象の理化学研究所CDB(発生・再生科学総合研究センター)笹井芳樹副センター長など、最初から“役者”が揃っていた。
2014年8月笹井氏の自死によって事件は収束に向かう。小保方氏は「踊り続けなくてはならない『赤い靴』」にはならず、失脚した。著者は笹井氏を「科学の醍醐味、奥深さを感じさせてくれる、魅力的な研究者の一人だった」と敬愛をこめて書く。
理化学研究所のこの事件に続き、同年11月開設の神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)による生体肝移植の死亡例の多発など、神戸ポートアイランドの医療産業都市は“功名争い”の結果のような災難が続く。医療産業都市構想全般にかかわっていた笹井氏の死によって、神戸の都市戦略に暗雲が立ち込めているようだ。
★捏造の科学者――STAP細胞事件│須田桃子│文藝春秋│ISBN│9784163901916│2015年01月│評価=◎おすすめ│
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