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中山千夏★芸能人の帽子――アナログTV時代のタレントと芸能記事

2015.09.04芸能人の帽子

 最近とみに思うことがある。私はずいぶん彼女のおかげでトクをしている、と。

 ひとびとは芸能人が好きだ。今や私もひとびとと同じなのでよくわかるのだが、それは、単なる有名人に対する気持ちとは違う。

 それよりもっと純粋で、単純で、原始的な感情だ。映像とはいえ、自分らの居間や寝室にしょっちゅう現れるせいだろうか。

 とにかく、ひとびとは、よく知る芸能人を思わぬ場所で見かけると、

幸運のザシキワラシに出会ったような、はたまたお気に入りのオモチャを見つけた子どものような、喜ばしさを感じる。



★芸能人の帽子――アナログTV時代のタレントと芸能記事│中山千夏│講談社│ISBN:9784062192224│2014年11月│評価=◎おすすめ│70年代に芸能記事の餌食となった千夏が今自ら当時の記事を検証する。

 マルチタレントとして大活躍した中山千夏は、テレビ芸能人時代は「不快を伴う空虚な時間」であり「もっとも戻りたくない時代」だという。ところが芸能人でなくなった今、地元の商店街で、ダイビングをしにいく島で、反原発集会で、“特別な好意”で声をかけられおおいに“トク”をしていると。

 そこで、
――彼女はどんな芸能人だったのか。なぜ彼女は流行ったのか。彼女をもてはやしたのは、いったいどんな時代だったのか。それを知るには、彼女について書かれた芸能記事を見るのが一番ではないか。
 と、母親がスクラップしていた古い芸能記事と対面する。

 つまり本書は、“ひとりオーラルヒストリー”である。他人が書いた自分の記事を今の自分が検証をする。例えば、当時書かれた恋愛記事がいかにねつ造されたかを詳細に本人がコメントする。週刊誌記事は、当時の雰囲気はよく分かるが、史料的には二次的データである。

 また1970年大阪万博のDVDをみて、当時のテレビがいかに真面目だったかを振り返り、「テレビに限らず、文化の進歩とは、人間がどんどん不真面目になっていくこと、なのかもしれない」と書く。

万博初日に敦賀原子炉が運転を始め「原子力の灯がこの万博会場へ届いた」と報道される。多くの知識人、芸術家、芸能人が浮かれるなか、作家佐藤愛子だけが原子力発電について懸念を表明する。また北海道稚内市から中継に「出稼ぎで会場建設に携わった作業員が登場するなど、テレビの画面でそれらが全く違和感を感じさせない。

 「もし今だったら、国家規模のイベントも、芸能人を駆使した安上がりの構成で、番組は批判も期待もない馬鹿騒ぎに終わってしまうだろう」とテレビの劣化を指摘し、東京五輪報道を予言する。

 ワイドーショーの司会などで一緒の仕事が多かった青島幸男について多くのページを割いている。直木賞を目的に小説を書き、第1作で受賞すると、小説をほとんど書かなくなってしまったり、世界都市博を阻止すると、それ以外の知事の仕事に興味をなくしたりという、“青島は青島しか関心がなかった”男についての出色の人物論だ。

  “ひとりオーラルヒストリー”と評したが、自分以外の資料をネットに頼っているので、正確性に欠ける部分がある。だが70年代を振り返る読み物としては十分楽しく、さすが元マルチタレントである。なお、当方は、声優としての中山千夏、『じゃりン子チエ』のファンだった。


中山千夏◎蝶々にエノケン──私が出会った巨星たち
中山千夏■ ぼくらが子役だったとき
青島幸男■ ちょっとまった!青島だァ



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