浦田憲治★未完の平成文学史
02/作家という病気 - 2015年09月14日 (月)

教養主義が衰退し、ポスト・モダンが台頭するなかで「なんでもあり」の風潮が強まり「何が本物か」を見極めることが難しくなった。
難解で高級なのが純文学で、面白いが通俗的なのがエンターテインメントだとはいえなくなった。〔…〕
しかし、私は文学とエンターテインメントには本質的な違いがあると考える。
作家の志や姿勢、文体や表現、方法や構造などを精緻に見ていけば明らかな違いがあるからだ。
「小説には文学もエンターテインメントもない。高級なものと低級なものがあるだけだ」という俗論を耳にするが、これは間違っていると思う。
「小説には文学とエンターテインメントがあり、それぞれに高級なものと低級なものがある」というのが正しい。
★未完の平成文学史――文芸記者が見た文壇30年│浦田憲治│早川書房│ISBN:9784152095282│2015年03月│評価=◎おすすめ│平成文学を俯瞰する魅力的なガイドブック。
元日経記者による平成文学の記録であり回想記。大江健三郎のノーベル文学賞受賞、村上春樹の本がベストセラーとなるのが話題で、大きな文学的事件はない平成時代の文学を見事に俯瞰したまことに便利で魅力的なガイドブックである。
ポスト・モダニズム思想から大きな影響を受けたとされる島田雅彦、高橋源一郎、よしもとばなな、村上春樹らを冒頭に取り上げて、平成文学の魅力を綴る。芥川賞選考委員の昭和の重鎮作家が選ばなかった作家たちである。
平成文学の特色のもう一つは上掲の純文学とエンターテイメントの接近である。
――どんなに本が売れようとも書評欄ではミステリーや時代小説などのベストセラーを取り上げることはなかった。そうしたエンターテインメントは、書評ではなく、「売れている本」、「話題の本」などのコーナーや、著者インタビューで取り上げられた。(本書)
しかし平成の作家たちは、純文学とエンターテインメントを書き分けているとして、次の名をあげる。
芥川賞作家の辻原登、高樹のぶ子、小川洋子、奥泉光、川上弘美、町田康、吉田修一、直木賞作家の高村薫、車谷長吉、桐野夏生。
著者が新聞記者でニュースを追うことから文学賞受賞に話題が偏りがちだが、しかし同時に授賞時のインタビューなど旬の作家の肉声が多く収録されており、功成り遂げて評価の定まった作家を並べた文学史とは趣きを異にする。なぜこの作家が平成と疑問符も多くあるものの……。
また著者は記者として連載小説やエッセイの執筆を依頼する立場にある。そこに個性が現れて、その文学観、作家観も秀逸である。
長い間忘れていた丸山健二を読みたくなって『千日の瑠璃』を注文した。
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