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船橋洋一 □カウントダウン・メルトダウン

20130703カウントダウン・メルトダウン

福島第一原発事故について、危機の間、菅を支えた首相秘書官の一人は後に述懐した。
「この国にはやっぱり神様がついていると心から思った」

菅自身は、「4号機の原子炉が水で満たされており、衝撃など何かの理由でその水が核燃料プールに流れ込んだ」ことを例に取り、「もしプールの水が沸騰してなくなっていれば、最悪のシナリオは避けられなかった」とした上で、「まさに神の御加護があったのだ」と述べている。

政治家だけではない。実務家、技術者の中からも似たような感想が聞かれる。
例えば、水位計が変だと最初に声を上げた専門家の一人であるINESの阿部清治は「どこかで神様がコントロールしてくれた事故だった」と振り返った。

11日以降4日間、風が海の方向に吹いたのは「神風」だったとの声さえ聞かれた。

しかし、菅直人という政治リーダーを持ったことの「運」をどう考えればよいのか。

――終章 神の御加護


□カウントダウン・メルトダウン(上)(下)│船橋洋一│文藝春秋│ISBN:9784163761503、ISBN:9784163761602│2013年01月27日│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
「民間事故調」でも語られなかった福島第一原発事故、真実の物語。「もうだめか」米軍横須賀基地から空母が離脱。首都に被害が及ぶことを想定、首相談話が準備された。「民間事故調」の調査を指揮した著者が被災地、官邸、米軍、ホワイトハウスと立体的な取材を継続 浮かびあがらせた「戦後最大の危機」の実相。

〈ノート〉
本書はわが国のトップジャーナリスト船橋洋一が3.11福島第一原発事故の一部始終を追ったものである。船橋は、政府が事故調査委員会を発足させることを知り、それだけでは“寂しいし、危ない”と仲間たちと“民間事故調”を立ち上げる。

原因究明とその背景の分析作業を進めるうち、危機にさらされ闘った人々の個々のストーリーに興味を抱くようになり、報告書の公表後、一記者に戻って取材したのが、本書である。

たとえば、トモダチ作戦。
――米海軍は、自衛隊の東日本での人道支援・災害救助活動を支援するため、22隻の艦船、132機の航空機、1万5000人以上の兵士を動員した。160回以上の偵察飛行と3200平方キロメートルの海上捜索を実施した。
NRC(アメリカ原子力規制委員会)の職員を官邸に常駐させたいというルース大使と「国家主権」をタテに拒否する枝野官房長官。情報なしに支援はできない。日本は支援される作法を知らないのではないか。とアメリカは不信を募らせる。

たとえば、最悪のシナリオ。
政府は、細野首相補佐官と原子力専門家による「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」という極秘の文書をつくる。全文15枚。本文はない。パワーポイント版だけである。作業で使った資料やデータはすべて破棄された。絶対に漏れてはならない。

NRC(アメリカ原子力規制委員会)も炉心溶解を前提に「最悪のシナリオ」を策定し、在日アメリカ人を避難させるシナリオを用意した。

そして自衛隊も、統合幕僚監部が中心となり、「最悪の事態」に備えた「作戦計画」
と「実施要領」の作成作業をおこなった。フェーズ4では、複数の原子炉や格納容器が完全な制御不能状態が起きたとき、コンクリートによるいわゆる「石棺作戦」を実施するというシナリオである。

たとえば、近くの福島第2原発もギリギリの状態にあった。福島第1の“情”の機械屋吉田所長、第2の“理”の電気屋増田所長を対比させつつ、第2原発の状況も描いていく。

以上の例示のように事故調の経験から扱う範囲がまことに広い。他書の追随を許さない。同時に、福島東電の動きや首相と経産相のこんな描写も……。

――政務の一人が菅にささやいた。
「東電の構図がようやくわかりました。すべて勝俣[会長]です、ここは。清水[社長]は、夢遊病者のようにウロウロしているだけです」


――菅は最初から、海江田は、
〈修羅場には向かない〉
と思っていたし、それが顔に出てしまう。
海江田の方は、菅は、
〈人の上には立てない>
と思っていた。


――福島第一原発危機は、究極のところ、日本の「国の形」と日本の「戦後の形」を問うたのである。
 と著者は言う。

――メルトダウンしたのは福島第一原発の原子炉だけではなかった。
東電の経営も、原子力安全・保安院の組織も、原発の安全規制体制も、原子力を推進してきた原子力行政も、それらの知的、ビジネス的、キャリア的結合体である原子カムラも、残余リスクを「想定外」として捨象してきた原子力の“安心・安全共同体”もみな等しくメルトダウンしていった。


〈読後の一言〉
特定の個人への思い入れがなく、冷静に客観的に、淡々と、しかし人々の熱き思いや行動をスリリングに記述した。第1級のノンフィクションである。数ある3.11フクシマ本のなかの最大の収穫。新刊にして、すでに古典、といっていい。

〈キーワード〉
原発事故 神の加護 トモダチ作戦 最悪のシナリオ

〈リンク〉
◎3.11の本=原発・地震・津波






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