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青山文平■つまをめとらば

20161212つまをめとらば


「一度は、爺二人でずっと暮らしていこうと思った未練だ。せっかく踏ん切ったのに、また、ず
るずると尾を引きそうな気がする」
「そうかもしれん」
「おまえはどうする」
「さあ、どうするかな」〔…〕
 齢を重ねるにつれて、分かったことが増えたが、分からないことも増えた。分かっていたことが、分からなくなったりもする。
 
でも、それがわるいとは思わないし、いやでもない。


――「つまをめとらば」


■つまをめとらば|青山文平|文藝春秋|2015年7月|ISBN: 9784163902920|◎=おすすめ

 表題作ほか6篇をおさめる時代小説短編集。当方、図書館でやっと手にとれたのが2016年12月。読まれているらしい。ぱらぱらとページを繰っているうちに魅入られた。文体、時代背景の取り入れ方、会話の言葉遣い、どれをとってもぴったりとくる。

 時代小説といえば、山本周五郎、藤沢周平。その藤沢以降、十数人の時代小説作家が直木賞を得たが、当方にはぴったりこなかった。が、この青山文平という作家、肌に合う。青山文平(1948~)は、2011年「白樫の樹の下で」で登場。67歳時に本書で直木賞受賞。生きている大衆魚、銀色の鯵を書きたいと語った。その後大腸がんを克服。

この短編集の面白いところ……。省略が、すごい。最近は、小説でもドラマでも細部までとことん書き込んで、想像する余地を残さない。
 登場人物が、意外な別の顔をもつのも特徴。下級武士でありながら、算学、俳諧、戯作、釣具、万年青など(だがまだ数冊だが、同じ副業。引出しは大丈夫か)。

 そして、なんといっても女がすごい。
「ひともうらやむ」では、医師の父を手伝う娘は優しく美しく女菩薩のようだが、ひともうらやむ美男美女のカップルが成立するものの、まもなく「飽きた」と離縁状をよこす女。
 もう一人は、どうにもひなびて見え、気だても樹陰に咲く小さな花のような田舎の武家育ちの女が、都へ出てきたとたん町人地の水に馴染んで、言葉づかいまで変わっり、亭主そっちのけで商売を主導する女。
 イントロとはなんの脈絡もなくストーリーが展開するのには戸惑ってしまう。この二人の女。二組の夫婦の対比を狙ったのかもしれないが、どう読んでも短編2作をくっつけた印象。

「つゆかせぎ」では、作女などの日用取をして2人の娘を喰わせているが、雨が続くとお足が入らず、春をひさぐ女。女は言う。「男親なんて誰だってかまいません。2人の娘も男親はちがいます。でも、わたしの子です。わたしの子であれば、それでいい。子は女のものです。4人だって、5人だって欲しい」

「つまをめとらば」では、省吾、貞次郎という幼なじみが久しぶりに出会うところから始まる。ふたりは56歳。ちょっと早いが隠居の身。そこに童女のような顔に、はち切れそうな体を持ち、「朝露が葉を転がる音があるとすればかくやと思える声」を持つ女が登場する。じつはこの女には二度の心中未遂の噂があり、そのうちの一人は貞次郎。

 どれも意外な結末は、女が引き受ける。男たちは女のたくましさに圧倒される。読者も……。深堀省吾、山脇貞次郎といったシニアの生き方もふっとんでしまう。だが当方としては、隠居小説を期待したい。

青山文平■鬼はもとより
青山文平■白樫の樹の下で


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