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2017. 01. 17  
2017.01.17ゴッドファーザー


 本当を言えば、ドンは庭の手入れをするのが大好きなのだった。早朝の庭の光景が大好きだったのだ。それは彼に、60年前のシシリーにおける彼の子ども時代――父親の死の恐怖も悲しみもない子ども時代を思い起こさせた。〔…〕

 少年は父親を呼びに、全速力で走り去った。マイケル・コルレオーネと、散歩道の門の所にいた何人かの男たちが庭へ駆けつけ、一握りの土をつかんでうつぶせに倒れているドンを見つけた。〔…〕

 もう一度息子を見ようと、ドンは非常な努力で目を開いた。

 強い心臓発作が、血色のよいその顔をほとんど白く変えていた。彼は死のきわにあった。光の黄色い幕のために目がかすみ、ドンは庭のにおいを吸いこんで、そしてささやいた。

「人生はこんなにも美しい」


 ドンは、女たちの涙を見ることなしに、彼女らが教会から帰る前に、救急車や医者も着かないうちに死におもむいた。男たちに囲まれ、彼がいちばん愛した息子の手を握りしめながら息を引き取った。


★ゴッドファーザー|マリオ・プーヅォ|一ノ瀬直二:訳|早川書房|1972年1月|評価=◎おすすめ

 2017年の正月三が日、BSで録画していた映画『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ監督。第1部1972年・第2部1974年・第3部1990年)を観た。とくに第1部は、当方にとってオールタイムベスト10上位に位置づける傑作である。

 マイケル・コルレオーネ役のアル・パチーノ、若き日のドン・ヴィトー・コルレオーネ役のロバート・デ・ニーロの若々しいことよ。ともに30代前半である(第3部のアル・パチーノは50歳)。当方、両者のファンで、同世代の名優二人へのオマージュとしてこんな俳句をつくったことがある。

 デ・ニーロへアル・パチーノのサングラス 
 
 マリオ・プーヅォの小説は、その訳によるのだろうが、映画の色調ほど格調は高くないが、細部もきちんと書かれ、おもしろく読める。上掲はドン・ヴィトー・コルレオーネが庭の手入れをしていて倒れる場面である。それにしてもマーロン・ブランドの心身の衰えを見せながらの存在感を屹立させる演技の見事さよ。

 おなじみのベッドに馬の生首がころがっている場面……。

 ――胴体から切断された、名馬カートゥムの黒い絹のような頭が、どろどろした血の海の中に突っ立っていた。白い葦のような腱(けん)が見える。鼻口部はあぶくにまみれ、かつては金色の光を放っていたりんごほどもある両の目は、擬固した血で腐った果物の表皮のようにまだらになっている。(本書)

 たとえば、コルレオーネ一家に麻薬ビジネスへの協力を持ちかけるバージル・ソロッツォと、“きれいな賄賂”しか受け取らないマール・マクルスキー警部を、イタリア人地区にあるレストランで、マイケル・コルレオーネが射殺する場面……。

 ――だがマイケルは、相手が言っていることを一言も理解できなかった。文字通り、わけがわからなかった。頭の中いっぱいに血液がどきどきと波打ち、相手の言葉が少しも意味をなさないのだった。テーブルの下で、彼の手はベルトに差しこんだ拳銃のほうへ動き、それを引き抜いた。ちょうどその時、給仕が注文を取りに来て、ソッロッツォは給仕のほうに顔を向けた。その瞬間、マイケルは左手でテーブルを払いのけ、拳銃を握った右手をまっすぐにソッロッツォの頭に突きつけていた。(本書)

 この場面の前に、マイケルがトイレで琺瑯引きの貯水槽の背後に手を伸ばし、テープでとめた銃身の短い拳銃を手に入れるのだが、これは当方の好きなフランス映画『ニキータ』(1990年・リュック・ベッソン監督)のニキータが逃亡するトイレの窓が壁で塞がれている場面を思いださせてくれた。

 さて、映画を見終わって、古い本を整理していたら本書(1976年第31版)が出てきた。奥付の横に、友人のサインと1978年5月という日付が記されている。その友人から借りて、そのままになっていたものである。返そうにも、友人はいない。亡くなってもう5年になる。以前、こう書いた。

 ――たしかロバート・R. マキャモン『少年時代』だったと思うが、“老人が一人死ぬということは、図書館が一つ消失することだ”というフレーズがあった。先日50年を超える交遊をもつ友人の突然の訃報が届いた。私は彼の記憶を多くもつが、彼のもつ私の記憶は永遠に失われてしまった。それが図書館を一つ消失することなのだと気づいた。

 その友人が亡くなったとき、こんな弔句をつくったが、当方、いまだに生きながらえている。

 汝ひとり新酒酌む世へ我も途上



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娑婆っ気たっぷりの言葉がならんでいる、
貴兄、まだまだこの世のお方だ!!!
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