谷川俊太郎編★辻征夫詩集  ☆気になるフレーズ=平成引用句辞典☆

20170514

2017.05.14辻征夫句集


熱燗や子の耳朶(みみたぶ)をちょとつまむ

(なに?

うん?

いま耳にさわったでしょ?

うん

なに?)


おでん煮ゆはてはんぺんは何処かな

――「耳朶」『俳諧辻詩集』



★辻征夫詩集|谷川俊太郎編|岩波文庫|2015年2月|ISBN:9784003119815 |○

 小沢信男『俳句世がたり』で辻征夫(つじゆきお)の俳句を知って、急に辻征夫の句集を読みたくなった。『貨物船句集』(2001)といっても貨物船が描かれているわけではない。貨物船は辻の俳号である。

 同句集に小沢信男の跋文がある。その一部を引用する。

《蝶来タレリ!》韃靼ノ兵ドヨメキヌ

 この一行で一篇の詩のわけだ。と同時に、やっぱり俳句なのですな。字余りながら五七五だし、「蝶」という春の季語もあるし、というだけではなくて。
 いうまでもなく右の一行は、かの安西冬衛の「春」と題した一行詩を前提とする。

 てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。

 颯爽たる昭和モダニズムの記念塔。現代詩の辺境をひらいた先達へ、ざっと70年をへだてて世紀末の平成から、はるかに送るエール。その挨拶のこころこそが、俳諧に通じるのではないか。
(「貨物船が往く――辻征矢よ」)
 
せりなずな地震はこべらほとけのざ
ははありき夢まぼろしの土筆摘み
土筆摘み神戸が起きる朝ぼらけ


 この3句は、1995.1.17の震災句らしい。第1句は春の七草、「地震」に「ごぎょう」が消えているが、「ごぎょう」は母子草、「地震」に「母と子」が隠れている。第2句の「土筆」の語源には「付く子」「突く子」「継く子」があり、いずれにしても「子」が隠れている。

 なお坪内稔典の次の句を思い起こす。

せりなずなごぎようはこべら母縮む
ほとけのざすずなすずしろ父ちびる
2017.05.14貨物船句集

 さて、辻征夫には『俳諧辻詩集』があり、詩の中に俳諧とは何?と『辻征夫詩集』を開いてみる。上掲の「耳朶」という詩は第1行と最終行が俳句である。

頭から齧らるる鮎夏は来ぬ

(友釣りってのは乱暴で
嫌いだから
おれなんかただ川を
見ているだけさ
竿はたしかに出しているけれど
(以下、略)

と始まる「夏の川」の最終行は、この句で終わる。

笹舟のなにのせてゆく夏の川

 辻征夫は、1939に生れ、晩年に脊髄小脳変性症という難病を患い2000年に60歳で死去する。『辻征夫詩集』には、自筆年譜が掲載されていて、たとえば、……。

1977年(昭和52年)38歳
2月、長女葉子誕生。4月、第3詩集『隅田川まで』(思潮社)を刊行。江戸川区春江町の団地の6階に転居。

1978年(昭和53年)39歳
冬の日の夕方、自宅6階の西側のベランダから、空に浮かぶ葉巻型の、白熱灯のように光る飛行物体を妻と2人で見る。15分くらいは見ていただろうか。翌日の新聞に幾つかの目撃談が出ていたが、私たちのように遮蔽物のない場所で消えるまで見ていたという談話はなかった。因みに、この日、長女葉子が初めて自力で歩いた。

1979年(昭和54年) 40歳
6月、船橋市のマンションに転居。10月、第四詩集『落日』(思潮社)刊行。12月、次女咲子誕生。


 光る飛行物体を見たのが生涯最大のエピソードだったのだろうか。なお貨物船という俳号の前は「蕪山村」後は「茫野」。いかにも茫洋とした詩人の生涯だ。






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