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2017. 05. 19  
2017.05.19阿久悠詞と人生



 なかにし礼は『歌謡曲から「昭和」を読む』にこう書いた。「歌謡曲の詩は日本文学の一ジャンルであるということを十分に意識しながら歌づくりに取り組んでいた作家は、おそらく世代的にも私や阿久悠あたりが最後だろう」と。

 なかにし礼は作詞作品を文学作品だといっている。しかし、一方の阿久悠は、作詞作品を商品だと考えていた。
 阿久悠自身は、『作詞入門 阿久式ヒット・ソングの技法』で、こう書いている。

 詞は文学ではない
 歌は、レコードという音を通して相手に伝えるものだということを忘れている人が多いのではないか。


詞は、文字で伝える詩とは決定的に違うのである。〔…〕

 阿久悠にとって「詩」と「詞」は明確に区別すべきものであり、本質的に異なる表現事象なのである。この引用部分の直前に「詞」は「商品」なのだといい、商品である以上何か相手の興味を引くものでなくてはならないとも書いている。


★阿久悠 詞と人生|吉田悦志|明治大学出版会|2017年3月|ISBN:9784906811205 |△

 阿久悠(1937~2007)は、明治大学出身。死後、遺族から、自筆原稿をはじめ約1万点の資料が同大学に寄贈され、2011年10月、阿久悠記念館が開設された。そのなかに27冊、のべ1万ページにおよぶ日記があり、その日記を読み解く研究会が1年半かけて開催されたという。

 本書の著者・吉田悦志国際日本学部教授をはじめ、井上一夫(元岩波書店)、冨澤成實(政治経済学部教授)、深田太郎(阿久悠氏子息)、三田完(作家)、村松玄太(明治大学史資料センター)の5人。その一部は三田完『不機嫌な作詞家――阿久悠日記を読む』にまとめられている。

 本書は、日記からの直接引用はなく、 阿久悠の著書『生きっぱなしの記』『愛すべき名歌たち――私的歌謡曲史』『無冠の父』などを元に 阿久悠論を展開する。とりわけ「小説『無冠の父』論」が秀逸。 

 『無冠の父』は死後の2011年に刊行されたもので、巻末に「本書刊行の経緯」が掲載されており、
「完成稿が編集者に渡されたが、改稿を求めた編集者に対して阿久悠は原稿を戻させ、以後、2007年8月に没するまでこの作品についていっさい語ることはなかった」とある。

 「父は24時間巡査で、風呂へ入っている時も制帽をかぶっているのではないか、と思えるほどであった」(『愛すべき名歌たち』)という父をモデルにした“自伝的小説”である。当方も一読、この傑作がなぜ埋もれていたのかといぶかった。

 1993年に執筆されたが、出版社の担当者から手直しを命ぜられ、原稿を手元に戻した。本書で深田太郎氏が語る。「僕の予想ですけど、おそらく出版社が原稿を手元に戻した時点で、自分の没後に開けられるというシナリオを自分でつくったのだろうな」と。そして著者は書く。

――「編集者の忠告を入れて改稿するなど、阿久悠のこの小説への矜持が許さなかった。『無冠の父』
は、阿久悠という人間の存在自体を問い訊ね思考した挙げ句に成立した作品である。だから、死後に発見されるという遠大なトリックをしかけたとしても不思議ではない。
(本書)

――丸ごとわが人生を見通した時、阿久悠は己の中にある父・深田友義という原点に思い至らざるを得なかった。その原点をこそ描くというのが、小説『無冠の父』の主題であった。だとすれば、一編集者から、改稿を求められたからといって、おいそれとは応じられるはずがない。それ故に、無傷の『無冠の父』という名作が、初稿のまま私どもの前に遺された。阿久悠にとっては不運ではあっても、私たちにとっては僥倖であった。(本書)

 同時代のなかなし礼と 阿久悠について当方は、先に三田完『不機嫌な作詞家――阿久悠日記を読む』のなかで言及した。付け加えることはない。

三田完★不機嫌な作詞家――阿久悠日記を読む |
阿久悠▼無冠の父
阿久悠■生きっぱなしの記





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