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高橋輝次★編集者の生きた空間――東京・神戸の文芸史探検 …………☆小寺正三の女弟子

20170618

編集者の生きた空間


「この文章を筐底に蔵して、私はあと幾許を生きることか。とても畏れがあり、他人には見せられない。ご遺族にも一入に恐懼で、今なお心が揺れ止まないのである」と。

 最後に、それでも「さすがに文字の老化は醜く、やはり活字にしておきたい。心を許せる友の二人か三人かには、密かに贈りたい。

今の私の齢にちなみ、八十五部の限定を、依頼しょうか。

その殆んどは残冊となり、いつの日か、市役所の燃えるごみ収集の車に積まれて、灰となるであろう
」と結んでいる。

 これを読んで、私は奥付表示がない理由が何となく分ったように思った。それでも加藤さんは師との交流を通して御自分が懸命に生きた証を活字に刻みつけて遺したかったのであろう。いわばこれも文学者の業のようなものではなかろうか。

――第2 1章 ある女性文学者の、師への類まれなる献身――小寺正三氏と加藤とみ子さんの深い交流


★編集者の生きた空間――東京・神戸の文芸史探検 |高橋輝次 |論創社 |2017年5月 |ISBN: 9784846015961 |〇

 古本との出逢いを通して、東京・神戸の編集者たちや無名に近い作家たちを甦らせる。
 著者高橋輝次は、1946年生まれの元編集者。『ぼくの古本探検記』など古書に関する多くの著作がある。

 第1部・編集部の豊穣なる空間では「第三次『三田文学』編集部の面々――山川方夫と四人の仲間たち」など、第2部・編集者の喜怒哀楽では「弥生書房、女性社長の自伝を読む――津曲篤子『夢よ消えないで』から」など、第3部・神戸文芸史探検では「戦後神戸の詩誌『航海表』の編集者とその同人たち」など、全22章。

 上掲の小寺正三(1914~1995)の名は記憶にある。多田道太郎『新選俳句歳時記』で「俳句と川柳の間の敷居をカルークまたいで渡った小寺さん」と紹介されていた。本書によれば、豊中で古書店閑古堂を営みつつ「大阪作家」、「俳句公論」等を発行し、自らの句集、小説集を持つ俳人である。

 小寺正三は平成7年に81歳で亡くなった。その2年後、小寺を敬愛する晩年の弟子加藤とみ子は、柚木ふみ子名義で『天のシナリオ』という回想記を自費出版する。小寺家を思いばかって人物は仮名に、著者名も別の筆名にしている。そのあとがきの一部が上掲で、読んでみたいが、入手は困難である。著者はブックオフの100円コーナーで手に取り、小寺がモデルだと気づく。

加藤とみ子(1911~2010)は、18歳で結婚、夫の出征、幼い息子の病死、商家の倒産、1978年夫の病死後、それまでの歌集、詩集に加え、同人誌で小説など発表、小寺の知遇を得る。実家の遺産分配で得た金を小寺の「俳句公論」に貢ぎはじめる。10冊近い自費出版の著書をもつ。

 ――子も孫もなく、「文学」の他に何の生きがいもない彼女は、「俳句公論」社をお社とみなし、毎月、そのお神体への貢ぎを始める。〔…〕

「総合文芸誌の経常は、一個人で賄えるしごとでは絶対ないのである。先生を底抜けの愚者とはいわないで戴きたい。それくらい純粋な大犠牲は、地方の私共無名作家をいか程満たし温めたことか。魂の贈りものは万金に換えられない。私にとっても、わが人生にこよなき宝を、いのちを恵んでいただいていた訳である」と。(本書)
 
 先生は「文学」の技の人でなく魂の人である、とするとみ子は小寺の文学碑を建てようと奔走したり、その善意の献身ぶりが、ときに小寺の重荷にもなる。

 「彼女の詩や書簡を読めば、その深層に恋に似た感情(プラトニック・ラヴ)が少しもなかったとは言い切れないだろう、などとつい想像してしまうのは私が俗物だからだろうか」と著者は遠慮がちに書く。

 この加藤とみ子という人は、40代のころ、関西歌壇の長老で「野崎小唄」の作詞者でもある今中楓渓に一目惚されたり……。新村出から18通の封書、127枚のはがきを貰ったり……。

 ――若い頃から中年期にかけて、年上の男性、とくに文学者や知識人を魅きつける容貌と雰囲気を備えた人だったようだ。むろん加えるに、その人間性と、文学や芸術への純粋な熱情や教護の深さが会話の端々にも表れていたからだろう。(本書)

 ついでに小寺正三の本書には掲載されていない句を10句ほど……。 

秋風に首吊りという既製服
上手より下手に俳味が根深汁
年の暮眼鏡はどこだ返事しろ
木の芽和有季定型然として
老い老いて足袋潔白に冴えにけり

野や枯色母枯色に死にゆけり
ひと去るやひとの匂ひは枯草に
ふるさとにただ親しきは茄子の紺
放蕩の夜のむなしさよ落花生
廓町いでゝ旧師に目礼す


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