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2017. 06. 21  
2017.06.21京都のおねだん


 実のところ、京都こそ水の都である。

 京都盆地の下には、琵琶湖の3分の2の水量を誇る地下水脈が存在している。それは、2百年前に比叡山に降った雨が長い年月をかけて地層をくぐつて濾過された名水であり、いわば名水の水瓶のうえに京都は成り立っている。

 京都の軟水だと、他の地域の硬水に比べて、出汁をとったときに1.5倍のうまみ成分が出るそうだ。

 水こそ京都の味を支える第一条件なのだ
〔…〕。

 いわれてみると、お茶といい生け花といい、京文化の粋は名水を条件としている。日本酒も水が命であるし、西陣織の仕上げにも大量の水が必要だ。


★京都のおねだん |大野裕之 |講談社現代新書|2017年3月|ISBN:9784062884198|○

 京都の料理の美味しさの理由は、京野菜など食材の良さ、懐石の本場の料理人の技、味わうほうの舌の肥え方の三つがあるが、しかしと著者はいう。「料理にとって、第一に重要なのはなんといっても水である」。

 その水を守るために、地下鉄工事では「鴨川の地下水脈」沿いに新しい井戸が多く掘られ、そのせいだけではないが、京都の地下鉄の建設費は大阪の2.6倍。すなわち水のおねだん、1キロ260億円。

 といった、京都のおねだん談義は、食のおねだん、季節のおねだん、絶滅危惧種のおねだん、舞妓・芸妓のおねだん、すなわち、京都のおねだん、と続く。本書のハイライトは、「花街で、自腹で遊んでみた!」。

お茶屋遊び歴20年のAさんと、5時30分から某花街でじつに6時間半のお茶屋遊び。舞妓さん、芸妓さん、地方さんの3人が来て、宴会がスタート。近くの料亭からの仕出しの京懐石。食後、舞妓さん、芸妓さんの舞の披露。続いて、三味線の音にあわて「こんぴらふねふね」などのお座敷遊び。盛り上がって杯が進み、お開きは真夜中の12時。

 さて、お花代、ご飲食代、宴会ご祝儀お立替、あわせて24万4836円。その詳細な謎解きは本書で。そして恐ろしい言葉が付け加えてある。

 ――おねだんには、決して定価があるのではない。店と客の、人と人との「関係」のおねだんであり、それは請求書を受け取った客が己の価値を知る数字である。(本書)

*
2016.01.06京都ぎらい

 ところで京都ものといえば、大ベストセラーになった井上章一『京都ぎらい』(2015)がある。同書には、僧侶の話題がしばしば登場し、僧侶があそばなくなれば京都の花街はついえさる、「わしらでもっているようなもんや」という一僧侶の発言もあった。
 ところが本書ではほとんど僧侶が登場せず、「京都には何でお金を稼いでいるのかわからない暇な人が多く」、「京都人がお茶屋に通うのは、そこが安いと感じるからだ」とある。
 
 井上章一『京都ぎらい』は、洛外人による洛中人への“格付け”の憎悪を綴ったもので(じつは東京に対する京都自慢でもある)、当方はあとがきの「七は『ひち』である」に大いに共感した。井上章一のユニークな作品『愛の空間』『パンツが見える。』『日本に古代はあったのか』『妄想かもしれない日本の歴史』『美人論』などかつて愛読した。 

 ところが「井上センセ、またも京都人を敵にまわす!?」というコピーのある『京女の嘘』(2017)は、そのほとんどが旧著『日本の女が好きである。』に短いエッセイを加えたもので、“詐欺”本である。あの井上センセも60を過ぎればこうなるのかと、京都人から蔑視されるでしょうね。

 それはさておき、『京都のおねだん』の著者大野裕之は、1974年大阪府生まれ。京都大学入学後、京都に居住。チャップリンの研究家で、映画・演劇プロデューサー。

 本書は、底抜けに明るい“京都自慢本”。したがって揶揄する気にもなれない。




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