藤井青銅★幸せな裏方  …………☆誰の人生にも、ヒントとコントが詰まっている。

20170701

2017.07.01幸せな裏方


「教科書には、載せられたくないですなあ」
 目の前の紳士は、にこやかにグラスを傾けた。見事な銀髪。端正な顔立ち。年齢のわりに背が高く、背筋がしゃんとしている。
 ショートショートの神様・星新一さんだ。〔…〕

 載せられたくない理由は、二つあった。その一つは、
「安いですからな」〔…〕

 掲載されたくないもう一つの理由を、星さんは語った。
「教科書に載っているものって、嫌いになるでしょう?」


 もちろん、教科書で出会って、その作家を好きになる……というパターンはある。一方で、教科書や試験問題で散々苦労させられたから、プライベートでは読みたくもない……というパターンもある、と言っているのだ。

 自分の作品がそんな風になってしまうのが嫌だ。人は、強制されると拒みたくなる。偉そうにされると反発したくなる。試験に出るからなんて理由ではなく、純粋に面白いと思って読んで欲しい、という意味だ。

――「載せられたくない」


★幸せな裏方 |藤井青銅 |新潮社|2017年3月|ISBN:9784103508816 |△

 上掲の「載せられたくない」は、落語も書く著者らしく、じつは“オチ”がある。それを紹介するのはルール違反の気もするが、ゴシップ・コレクションのために、あえて書く。

 著者の『誰もいそがない町』というショート・ショート集の一編がある高校の入試問題になったという。「作者が言いたいことは何か?」の4択を作者自ら答えられない。そこで……。

 ――そう言えば星さんの場合も、教科書での設問に、
「正解できません」
 とおっしゃってたなあ。……あ、ひょっとして、それが本当の理由?
 (本書)

 著者は放送作家。星新一ショートショート・コンテストに入賞したことから、活字デビュー。ラジオドラマの脚本、バラエティの台本、小説など、多彩な仕事ぶり。本書は、大瀧詠一、手塚治虫など仕事でかかわった著名人の「ぼくが実際に現場で見たこと」を綴ったもの。

 ――あの人のなにげない一言に、実は深い教えがあったり、なかったり……。誰の人生にも、ヒントとコントが詰まっている。(本書)

*
2017.07.01誰もいそがない町

 ところで『誰もいそがない町』(2005)は、ニッポン放送『イルカのミュージックハーモニー』用に書き下ろされた作品を集めたもの。同名の作品に、こんな一節が……。

 ――ところがこの町では、そんなふうにいそぐ人は誰もいないときている。欲しいものはゆっくり時間をかけて手に入れようとする。いや、ひょっとしたら、手に入らなくてもいいと思っているのかもしれない。
 なぜならば、何かを手に入れる時は、その途中の時間こそが一番楽しいということを、みんなが知っているのだから。
(「誰もいそがない町」)

 また、あとがきに「空や海や風の中、都会の公園やゴミゴミした雑踏の中に、ひっそりと潜んでいる小さな物語」とある。


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