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2017. 07. 07  
2017.07.07小林カツ代伝


 カツ代は生前、こんな言葉を残している。

「お金を払って食べるプロの料理は、最初の一口目から飛び切りおいしくなくてはならない。一方、家庭料理は違う。

家族全員で食事を終えたとき、ああ、おいしかった。この献立、今度はいつ食べられるかなって、家族に思ってもらえる必要がある。

 家庭料理のおいしさは、リピートなんです」

 何度も何度も家族にリクエストされて、そのレシピは、その家の味となって家族の舌に記憶されるというわけだ。



★私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝|中原一歩|文藝春秋|2017年l月|ISBN: 9784163903965 |○

 料理研究家小林カツ代(1937~ 2014)の評伝である。家庭料理の世界では、“カツ代前、カツ代後”という言葉があってもおかしくないほどの存在だったという。①おいしくて、早くて、安い、②特別な材料は使わない、③食卓にはユーモアがないといけない、の3つが小林カツ代の家庭料理。

プロの料理と家庭料理の違いを、カツ代は天ぷらを例に説明する。

 ――「家庭料理の場合、作り手も食べ手であるということです。だから、台所に立つ作り手も、食卓を囲む家族の一員として、熱々の揚げたての天ぷらを一緒に食べるにはどうすればよいかを考えなくてはならない」(本書)

 カツ代が考えたのは「少量の油で一気に揚げる」こと。これは「たっぷりの油で、少しずつ揚げる」という従来の常識とは逆。少ない湯でもみんながワーッと入ると水位は上がる、という“銭湯の理屈”。

 大阪の毎日放送(MBS)の「奥さん!二時です」へ「番組の中で料理を楽しく作ったらどうですか?」と投稿し、「じゃああなたがやってみませんか」と女性ディレクターに言われたのを契機に、のちのカリスマ料理研究家が誕生する。

 2005年6月、NHK「課外授業 ようこそ先輩」。大阪・堺市にある母校の小学校で「いのちを頂くつて何?」をテーマに授業をする準備をカツ代は進めていた。
 だが、堺市では1996年夏に学校給食から腸管出血性大腸菌O-157によって児童など約9000人が感染し、小学生3人が死亡する食中毒事件が発生したことがある。

 それがトラウマとなり、市も学校も多くの条件を付す。魚や肉を食材に使わないこと。「そうなると使えるのは野菜しかありません」。児童は手袋をつけること。「なんで野菜を素手で扱うことができないんですか。それでは実習の意味がない」

 このあとカツ代は「あこちゃん、頭が割れるように痛いの……」と内弟子・本田明子に告げ、倒れる。くも膜下出血。カツ代の授業が行われず、記録に残らなかったのはかえすがえすも残念。以後9年間という長い闘病生活の上、76歳で死去。

 著者は「創造と葛藤に満ちたカツ代さんの人生は、世代を超えて多くの人を勇気づける」と執筆の動機を語り、私生活の負の面や辛い闘病生活にはあまり触れず、“明るいカツ代伝”を貫いた。

「私が死んでもレシピは残る」

 たしかに厚さ4センチ『小林カツ代料理の辞典―おいしい家庭料理のつくり方2448レシピ』(2002)、過去の著書から復刻した代表作や初掲載レシピも合わせた『小林カツ代の永久不滅レシピ101―残したい、伝えたい、簡単おいしいレシピ決定版!』(2016)など、カツ代のレシピは今も売れ続けている。

(当方、ただいま原因不明の味覚障害に悩んでおり、文字だけで本書のレシピを味わうのも苦痛だった)



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