斎藤文彦★昭和プロレス正史 …………☆プロレス専門誌に記録されたものこそ“正史”

20170724

2017.07.24昭和プロレス正史


ハルク・ホーガンがIWGP(インタナショナル・レスリング・グランプリ)に初優勝!

 6月2日東京・蔵前国技館で行われたアントニオ猪木対ハルク・ホーガンの優勝戦は、ホーガンが猪木にアックスボンバーで21分27秒KO勝ち。猪木はそのまま東京・新宿の東京医大外科に救急車で運ばれ入院。九州から東北までの4週間28連戦は爆発的な人気と共に、最後はハプニングで幕を閉じた。

「猪木が試合中に倒れ病院に運ばれる」のテロップそう入のニュースが、2日午後11時のテレビ朝日で流れた。

映像にはリング下に落ちてもがく猪木と、リング上で両手を上げるホーガンの歓喜の場面がくっきりと対照的だった。


 驚いた視聴者も多かったろう。その頃、猪木は救急車で東京医大外科に運ばれ、精密検査を受けていた。

(鈴木庄一「IWGP決勝リーグ戦総括」『プロレス』1982年6月号緊急増刊)


★昭和プロレス正史(上・下)|斎藤文彦|イースト・プレス|2016年09月|ISBN:9784781614724/2017年3月ISBN:9784781615233 |〇

 本書は、力道山、馬場、猪木という3人のスーパースターによってつくられた昭和プロレスの歴史である。

 田鶴浜弘、鈴木庄一、櫻井康雄といったプロレス・ライター、評論家が、主として『プロレス』などベースボール・マガジン社発行のプロレス専門誌に書いた「活字によって語られた物語」をナラティブと称して原文のまま再録し、著者が比較検証し“事実”を浮かび上がらせたもの。

 著者斎藤文彦(1962~)はアメリカ留学中の1981年から『プロレス』の海外通信員となり、『週刊プロレス』には1983年の創刊時からスタッフとしてかかわってきた。

 上掲の鈴木庄一による「IWGP決勝リーグ戦総括」の続き……。

 ――14分過ぎ最初の1発を食って猪木はダウンしたが、きず〔原文ママ〕は浅かっだ。そして16分過ぎの2発目は体を低くしてかわす。20分近く、猪木がホーガンをあお向けに持ち上げ、そのまま両者はリング下に落ちる。猪木がリングに上がったところホーガンは2発目をロープ越しに――。猪木はコンクリートの床に後頭部をまともに打つ。その前にコーナーポストに頭をもろにぶつけられていた。猪木は動けない。

 高橋レフェリーはカウントをとらない。坂口らが猪木をリングに押し上げた。猪木の舌はもつれていた(坂口の話)。レフェリーがKOのカウント10をした。児玉満磨コミッション・ドクターが応急の処置をとる。
ホーガンは、しばしリングの上に立ち尽くす。こんな事態での勝利が信じられないのか。リング上は猪木の容態を憂りょする人で混乱する。〔…〕


 すばらしい進境のホーガンはとうとう猪木を下してIWGPの優勝を遂げた。一方、自らの夢とロマンを3年かけて実現したIWGPの優勝を、猪木は逸した。猪木の“世界制覇”は消えた。3日午前1時現在の医師の診断は「絶対安静。経過をみなくては全治何日とは断定出来ない」の発表。(本書)

 これまでのプロレス・ノンフィクションは、当時のスター選手たちにインタビューし、その周辺関係者に取材し、“事実”を作り上げたきた。だが、本書はリアルタイムで活字で記録されてきたものこそ“正史”である、と主張する。当時書かれたナラティブを羅列し、そこから時代の真実が浮かび上がってくる。

著者はこう綴る。

 ――猪木の失神KO―緊急入院事件・事故の詳細は、昭和の活字プロレスの永遠のテーマとして、その後、さまざまな角度から検証が加えられ、ありとあらゆる解釈と真相(らしきもの)が加工-再加工-再生産されてきた。ここで引用した庄一ナラティブは、“昭和58年6月2日の蔵前国技館大会”を現場で取材し、そのファーストハンド・インフォメーションをすぐに原稿にまとめ、活字になった情報を試合から数日のうちに全国に“流通”させた点でひじょうに価値が高いものと思われる。(本書)

 ちなみに35年後に書かれた柳澤健『1984年のUWF』には、同じ「第1回IWGP、猪木舌出し失神KO事件」については次のように書かれている。

 ――結局のところ、IWGPは力の衰えた猪木を世界最強のレスラーとして再び売り出すための装置であり、優勝決定戦では猪木がホーガンに勝利することが決まっていた。
 ところが、猪木は周囲すべての期待を裏切って、ホーガンのアックスボンバーに失神KO負けを喫する。
 舌を出したままピクリとも動かない猪木は、そのまま救急車で東京医科大学病院に搬送されたのだが、舌を出したまま失神するなど医学的にありえない。すべては猪木の演技だったのである。
「猪木IWGP優勝」では一般紙の記事にならない。猪木が失神KOされるからこそ記事になる。 猪木はそう考えて自作自演したのだ。
(柳澤健『1984年のUWF』2017年1月)

 どちらに“歴史の真実”を求めるかは、読者の好みだ。本書は、かつてテレビの力道山・馬場・猪木のプロレス中継に魅せられていたころの熱き思いを蘇らせてくれる活字による『昭和プロレス正史』である。



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