新郷由起★絶望老人…………☆単に年を重ねただけで誰もが“人生の達人”になれる訳ではない。

20170822

2017.08.22絶望老人


 客にはサバを読んでいるが、実際には「70(歳)を超えている」と内緒で打ち明けてくれた、このスナックのママがカラカラと笑いながら説く。〔…〕

「仕事人間だった男ほど、退職してからやることを見つけるのは難しいのよね。
だって、長い間ずっとそういう風に生きてきたんだもの。〔…〕

 仕事がなくなって、エロや色恋も抜け落ちた無趣味の連中は、途端に生気が抜けた廃人のようになっちゃって、街には“生ゴミ”のようにしてくすぶっているジイサンがごまんといるでしょう?〔…〕

金持ちでも貧乏人でも、年を取ったら自分でやること、やれることを見つけて、自分の中で筋を通していける人が一番幸せなんだと思うな。

カツコいいよ、そういう風に生きてる人はさ。


 でも少ないわね、そっちのほうが。
だから、ほとんどの人が、とりあえず毎日のウサを晴らすだけで1日を過ごしちゃう。何かはわからないけど、何かをごまかしてるんだろうなぁ……って気持ちはあって、モヤモヤした感じはあるんだけど、でも、どうしていいかわかんないし、どうしようもないの。だって、みんな年寄りだから!」

 アハハハ、と肩をすくめておどけるように笑った後で、実感を込めてこう言うのだった。
「老いていくってさあ、大変なことなのよぉ」


★絶望老人 |新郷由起 |宝島社|2017年3月|ISBN: 9784800249548|◎おすすめ

 孤独を癒すのは詐欺師の詐欺話、老後破産は“強欲血縁者”とともに、「生かされるだけ」の高級老人ホーム、居場所は激安居酒屋、最後はアル中、同居は地獄、施設は天国という現実、行き場なく「パチンコ依存」全財産破綻――。

 と本書のオビは、センセーショナルである。たしかにそういう事例が扱われているが、読者を煽る本ではない。だが、高齢男性には厳しい。上掲のスナックのママの言もそうだが、婚活市場では「三大“ない”」の男が多いとの話を記録する。曰く、「お金がない、気が利かない、会話もつまらない」だ。当方も思わず頷いてしまう。

 ――多くの勤め人にとって、老いて第一線を退いた後は一時的に心と体の行き場を失う。

 ――“モノ”が家の中を占拠している理由は三つで、①年を重ねた歴史の分だけ物品が増えていること、②無料で持ち帰ったものや新たに買い込んだ品をストックし続けていること。③それらを捨てずにいること、に尽きる。

 こういった著者の分析をはさみながら、詐欺被害に遭った高齢女性、居酒屋に集う高齢男性、元介護ヘルパーの経験談などインタビューにもとづくドキュメント、それにさまざまな情報を詰め込んだルポ、著者の考えを織り込んだコラムで構成される。

 たとえば、「終活」の落とし穴のこんな事例……。70代夫婦、「体が元気なうちに」と二人で生前整理を決意し、200冊ほどあったアルバムは「ベストセレクション」の1冊にまとめて他をすべて処分する。ところが、直後にご主人が病に倒れ、寝たきり状態、一緒に旅行に行けるどころか会話すらやっとの状態になる。

 ――「なぜ思い出の品をあんなに捨ててしまったのか。どうして写真をネガごと捨ててしまったのか。これからずっと家の中にいて二人で過ごすのに、思い出を懐かしむのに、あれはど大事なものはなかったのに。200冊のアルバムがあれば、それこそどんな本や映画よりも主人の慰めになった。これからどうやって二人の思い出を振り返ればいいのか」(本書)

 そして著者は言う。
 ――高齢者にとって、あまりにも行き過ぎた身辺整理は心の活力を失い、記憶の扉をも閉ざしかねない。
持ち物が減れば身軽にはなるが、物欲を欠くのは生きる意欲の枯渇にも通じる。
 人により、心を満たすものが“モノ”である限り、物を得るのが喜びであり、幸福感をもたらす以上は、その楽しみさえも奪って「余計なものを増やさずにおとなしく老い続けろ」と強いるのも甚だ酷な話である。
 どうあっても、モノは本人の死と同時に大量の不用品となるのだ。
(本書)

 以下、著者の見事な問題意識。  

――貧富の差にかかわらず、単に年を重ねただけで誰もが“人生の達人”になれる訳ではないのだ。

――人は、生きてきた通りに老いる。歩みのままにしか老いない。

――自立も自活も叶わずとも生き続けられる社会システムは、それまでの「何となく生きて、ほどほどで死ねる」時代から、「限界まで生きて、仕方なく死ぬ」時代をつくり出した。

――長寿とは、死までの道のりが長く、ゆっくりになったということ。急がずに済むようになった反面、ゴールも見当がつかなくなった。

 過去の栄光や成功談を鼻にかけた自慢話、「昔はよかった」で始まる回顧録、そして人へ何かを教えるふりをして、上から目線で語る説教。その「三大話」をループ(繰り返し)とワープ(本筋の内容から、本人の思考が繋がった話題へいきなり飛ぶ)を我慢しながら、いったん肯定し、頃合いを見て取材を掘り下げる。この根気のいるインタビューによって、本書は成立する。

 本書は傑作ノンフィクション。ノンフィクションの範囲を越えて、金、無縁、独居という高齢期の課題について、いかに生きるかのヒントを提示し、まだ間にあう“絶望”しないためのチェック本に見事に仕上げた。



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