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2017. 10. 12  
20171012裸足で逃げる


 彼女たちは、家族や恋人や男たちから暴力を受けて、生きのびるためにその場所から逃げようとします。

 オレンジ色の基地特有の光が照らす、米軍基地のフェンスによって分断された無数の街は、彼女たちが見た街です。

どこからも助けはやってこない。
彼女たちは裸足でそこから逃げるのです。



★裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち |上間陽子 |太田出版|2017年2月|ISBN:9784778315603 |◎=おすすめ

 著者は暴力の被害を受ける少女たちを支援する“当事者”であり、その少女たちが本書の“最初の読み手”であるという異色のノンフィクションである。

 著者の住む沖縄で、キャバクラなど風俗店で働く女の子が、家族や恋人や知らない男たちから暴力を受け、そこから逃げて、自分の“居場所”をつくりあげていくドキュメントである。

著者は、暴力を受けるということ、また被害者を支援することの意味を、つぎのように書く。

 ――私たちは生まれたときから、身体を清潔にされ、なでられ、いたわられることで成長する。だから身体は、そのひとの存在が祝福された記憶をとどめている。その身体が、おさえつけられ、なぐられ、懇願しても泣き叫んでもそれがやまぬ状況、それが、暴力が行使されるときだ。

 そのため暴力を受けるということは、そのひとが自分を大切に思う気持ちを徹底的に破壊してしまう。

 それでも多くのひとは、膝ががくがくと震えるような気持ちでそこから逃げ出したひとの気持ちがわからない。そして、そこからはじまる自分を否定する日々がわからない。だからこそ私たちは、暴力を受けたひとのそばに立たなくてはならない。
(本書)

 たとえば鈴乃の場合――。
 鈴乃は16歳で子どもを産む。相手は同級生。男は化粧を禁じ、髪型に干渉し、ケータイをチェックし、行動を制限し、やがて暴力を振るようになる。生まれた子は、914グラム、ただちに保育器にいれられ、新生児特定集中治療室(NICU)で治療を受ける。

 ――医師はのちに、暴行を受けるなどの強いストレスを受け続ける日々のなかで、子宮の収縮が起こり、子宮口が突然開いてしまったことが出産の原因だろうと話している。(本書)

 男の暴力はやまず、鈴乃は殺されると思い、何度も警察に駆け込むが、入籍していないカップルの暴行は保護の対象ではない、と追い返される。
 だが子どもの入院する病院の看護師たちは、何かあったら逃げておいでと励まし、「泣きたいときは、いっぱい泣いたらいいよ、鈴乃ちゃん。泣くとなんだか元気になれる」と手紙をくれる。鈴乃は重い脳性まひのある子を抱っこひもを使って胸に抱き、吸引器と吸入器を背負い、家を出る。鈴乃はシェルターに、子どもは別の病院に、別れて暮らす。

 こうして鈴乃は、また高校に戻り、そこを卒業して看護専門学校に通い、その間もずっと、生活のためにキャバクラで働き続けてきた。そして鈴乃は看護師になる。
 学校に通っているとき、鈴乃のカバンには夜にキャバクラで働くドレスが入っていた。いま鈴乃のカバンには、看護師の制服と子に会いにいくため洗濯したての子の服が入っている。

 本書は、著者がスーパーバイザーとしてかかわり、また直接の支援や介入を行った――鈴乃、春菜、優歌、翼、京香、亜矢たち多くのケースが紹介されている。

 著者は、聞き取りをICレコーダーで録音し、子どものころ、仕事、家族やパートナーとの関係など“生活史”を文字のデータにしトランスクリプトを作成する。その後ふたたび会って内容を確認し、さらに完成した原稿を彼女たちの前で音読し、その意見や感想をもとに、原稿を完成させる。

 こうした作業によって、悲惨な日々を振り返り、それが“懐かしく”感じられる状況になっているかを確認する。彼女たちは著者たちとかかわることで、救われ、癒され、自立心を喚起される。そしてこの“生活史”が、これからの生きる糧となる。……ということで、稀有のノンフィクションである。
 なお巻末に彼女たちの近況が短く報告されている。
 
 「私は言葉の力を信じています」という著者上間陽子は、1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学部研究科教授。

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