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2017. 10. 23  
20171023-21世紀の民俗学


 世界に満ち溢れる音のなかには、美しくて意味があるものと、清掃すべき不快で無意味なものがある――。「無音盆踊り」を眺めながらわたしは、美音と雑音・騒音の線引きの基準について考えていたのである。

 肝心の踊りのほうはなかなかの「見物(みもの)」だった。

 砂をこする草履の音、時間差で打たれる手拍子。お囃子が響かないことで、所作が露わになり、踊るからだが生み出す音だけが聞こえるのだ。

 惜しむらくは、「無音盆踊り」が20分ほどで終わってしまうところだろう。

 
 無音のまま夜を徹して踊れば、印象も変わるにちがいない

――『無音盆踊りの「風流」』


★21世紀の民俗学 |畑中章宏 |KADOKAWA|2017年7月|ISBN:9784044002053

 現在進行形の出来事、流行や風俗に関し、民俗学を切り口にして考察したもの。

 「ザシキワラシと自撮り棒」「景観認知症」「すべての場所は事故物件である」「河童に選挙権を!」など魅力的なタイトルが並んでいるが、当方は上掲の「無音盆踊りの『風流』」が“今日に起こった眼の前の事象”としていちばん興味深かった。

 愛知県東海市の太田川駅近くの盆踊りは、踊り手がFMラジオのイヤホンをつけ、発信される曲を聴きながら踊るという 「イヤホン盆踊り」「サイレント盆踊り」。盆踊り会場に音声が流れず、まわりの人は音のない踊りを見物する。

 読んだとたん、“サイコ集団”をイメージした。不気味というほかはない。全員が狐の面をつけたいたら、さらに怖い。

 盆踊りといえば、櫓の上での太鼓となんとか音頭、なんとか節の唄、手拍子と決まっている。当方の田舎でも地元の播州音頭よりも炭坑節が定番だったが、青年団の解散とともに盆踊りは消滅した。いまはそばの新興住宅地でおこなわれているが、音響迷惑のため夜9時で終わる。

 さてこの東海市の無音盆踊りは、「天然資源の節約や廃棄物の発生抑制など環境に配慮したまつり」とちょっと意味不明の趣旨で、2009年に始まったという(同時に“有音”盆踊りも開催されている)。

 著者は、昔から静かな盆踊りもあった、と柳田国男を引く。

 ――1920年(大正9年)に岩手県九戸郡の小子内浜で柳田がみた小さな盆踊りも、

  一つの楽器もなくとも踊りは眼の音楽である。四周が閑静なだけにすぐに揃って、そうしてしゅんで来る。(柳田国男「浜の月夜」)
 
と記されている。
 賑やかな音楽がなくても、盆踊りはじゆうぶんに成り立つし、この列島で古くから続いてきた盆踊りは、決して賑やかなものばかりではなかった。
 こうした霊との濃密でひそかな交じわりを、柳田は「しゅんでくる」と表現したのである。
(本書)

  「しゅんでくる」は柳田の故郷の播州弁「シュム=染むの訛音。墨や色がついてそまる。水が内部に沁み通る」のことだと思われる。

  「しゅんでくるまで踊り続けたとき、無音盆踊りも伝統になるだろう」と著者は書く。はたしてこの“不寛容”な現代に、夜を徹して遊ぶことが“霊と向き合う行為”として地域で許され、継続されるだろうか。

 とりあえず、民俗学が時代に切り込むとはどういうことか。巻末の「ありえなかったはずの未来-――『感情史』としての民俗学」を読んでみることにしよう。



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