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2017. 10. 31  
20171031-9.11の標的をつくった男


世界各国が貿易を通して友好関係を築き、平和な世界を創り出す。差別を体験したミノルはそんな希望も持っていただろうし、それがWTCの本来の目的であった。

 しかし同時に、美しいものを作りたいという建築家としての強いエゴも、ミノルの中には必ずあったはずだ。〔…〕

 アメリカ資本主義を体現したWTC[世界貿易センタービル]が、イスラム建築風であったことは、

反米的イスラム原理主義者たちにとっては、受け入れ難いことだっただろう。


 オサマをはじめWTCの存在を苦い思いで見ていた人々がいたとしても不思議ではないだろう。


★9・11の標的をつくった男――天才と差別-建築家ミノル・ヤマサキの生涯 |飯塚真紀子 |講談社|2010年8月|ISBN: 9784062134118|○

  9・11で崩壊した世界貿易センタービル(WTC)を創った日系人建築家ミノル・ヤマサキの評伝である。忘れ去られようとしていた建築家は、9・11によって皮肉にも蘇った。ミノル・ヤマサキは、シアトルへ移民として渡った山崎常次郎・ハナの長男として1912年に生まれた日系2世である。

 シアトルのスラム街で差別と偏見のなかで育ち、戦時中にはニューヨークで日系人の強制収容に反対する人権保護活動をイサム・ノグチたちと行う。WTC設計にあたっても「なぜ、日本人建築家を雇わなくてはならないんだ」との偏見もあった。

 そのWTCの設計は、並み居る建築家を差し置いてなぜ中堅のミノルが受注できたのか、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社(本書ではニューヨーク港湾局と表記)との設計完成までの、たとえば窓幅を狭くし柱の本数を多くするデザインをめぐるやりとりなど、WTC建設めぐる攻防はまことに興味深い。だが本書のハイライトでもあるので、ここでは記さない。

 1966年に始まった建設工事は、1973年に完成した。そして2001年9月11日、民間航空機2機をハイジャックしたイスラム系テロ組織アルカイダによってツインタワーは自爆攻撃を受け、約2800人の人命とともに消滅した。

 建築家の上西昇が語る。
「WTCは外に向けて爆発するのではなく、内に向けておじぎをするように崩れて行きました。それは不幸中の幸いでした。もし横に倒れていたとしたら、もっと大きな被害が出たでしょう。自滅して行くようなWTCの崩れ方を見ていたら、とても泣けて来ました」(本書)

 ところで神戸の東遊園地は、1.17の鎮魂の場である。その南に34階建ての高層マンションがあるが、かつてそこは神戸アメリカ領事館があった。1957年にできた東西に長い2階建ての領事館は、直線的でかつ優美さを感じさせる建物だった。この設計がミノル・ヤマサキである(日本建築学会賞受賞)。賑やかな周辺に比べ、この一角は静かだった。

 余談だが、東遊園地をはさんだ北側には同じ年に8階建ての神戸市役所ができた(1995.1.17で5階部分が壊滅)。丹下健三設計の旧東京都庁に似た建物で、当方は長い間、丹下が設計したものと勘違いしていたが、これは日建設計によるもので、優雅な巨船のようだった。

 さて、神戸領事館は、本書によれば、当時建設現場では米軍がジープで夜回りしていたが、浮浪者たちが鉄骨、真鍮など金になりそうな工事材料を盗んで行った、という時代だった。だがミノルは、夜はナイトクラブで踊りキャバレーで遊び、その翌日には女性たちが建設現場のミノルを訪ねて来たという。

 ミノルは四度結婚している。同じ日系二世のピアニスト平敷照子。つぎに「一度白人と結婚してみたかった」という理由から入院先で知り合ったペキー。料亭仲居のアツコ(すぐ離婚)。そして再度、照子と。

 生涯に250もの建物をつくったミノルだが、本人がもっとも愛していたのは滋賀県の山中にある神慈秀明会の教祖殿だという。〝カテナリー曲線〞という両端を持った一本の糸を上から垂らした時、張力だけで自然に成立する放物線状の曲線。屋根だけ吊るされたような建物だという。MIHOミュージアム(ミノルの設計ではないが建物もしだれ桜の導入道路もすばらしい)へ行ったとき、ついでに教祖殿をと思ったが徒歩で行ける距離ではなかった。

 ところでWTCに話を戻すが、ミノル設計のサウジの空港の絵がサウジの紙幣に印刷されているほど、ミノルはサウジの王室、政府と縁が深い。そこでWTCの噴水広場やツインタワーの配置が、アルハンブラ宮殿から発想されたとか、また、WTCのボトム部分のアーチがイスラム建築を彿彿させるとの説がある。9.11後に“後付け”されたものなのか。

ミノル・ヤマサキは1986年、73歳で死去。2001年WTC消滅を目にすることはなかった。
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