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2017. 11. 14  
だから居場所が欲しかった


その奥底に沈殿しているのはやはり、日本社会における生きづらさである。彼らを見ていて同時にこうも感じる。

 そもそも日本社会に順応する必要があるのか。
日本で生きていくことが苦しいのであれば、無理に留まる必要はない。
もっと言えば無理する時代ではなくなった。〔…〕

 在留邦人社会から時には冷ややかな視線を浴びせられるとはいえ、日常に一喜一憂しながら今をそれなりに生きていた。

 タイという国の持つ包容力というべきか、
〔…〕そこには豊かさを享受した日本にはない、忘れられた何かがある。

 それが何かと問われれば、私はこう答えることにしている。
「これでもいいんだ」と思える心の余裕である。


★だから、居場所が欲しかった。――バンコク、コールセンターで働く日本人|水谷竹秀|集英社|2017年9月|ISBN: 9784087816334|〇

 タイにある日系企業約4,500社、タイの在留邦人約67,000人。このうち“ゲンサイ”と呼ばれる現地採用で日本人が働くいくつかのコールセンターがある。

 そこでオペレーターとして働く日本人に対する在留邦人たちの視線は、蔑みに近く、冷たい。商社、製造業、フリーペーパーなどで働く“ゲンサイ”の給与は、タイの労働省が定める日本人の最低賃金月額5万バーツに対し、コールセンターの場合は3万バーツにとどまっている。それはタイ語、英語は不要で、日本語ができれば誰でも務まる、と考えられているためだ。

 著者が訪れた某コールセンターでは、日本人オペレーターが約80人。服装は自由。業務は日本時間に合わせ午前7時から始まる。電話を取る件数は1時間に平均5件で、1件につき約10分。8時間勤務だとすると、一日平均40件取ることになる。 

 ――「お電話ありがとうございます。○○社の△△でございます。ご注文ですか?」
 応答用のボタンをマウスでクリックすると同時にオペレーターはそう答える。客が伝える会員番号をキーボードで打ち込むと、氏名や住所などの顧客情報がモニター画面に瞬時に表示される仕組みだ。業務内容の中心は通信販売の受注で商品は健康食品、家電、衣料品、雑貨などと多岐にわたっており、クレーム処理への対応もある。
(本書)

 仕事にやりがいはないが、責任を感じなくても済むし、ノルマも残業もない。月収3万バーツは、タイの物価を考慮すると、日本での15~20万円に相当。

 本書はバンコクのコールセンターで働いている、また働いていた約40人の“生き方”を取材したもの。「心の優しい人間はうつ病になって当たり前」と語る一家で夜逃げ同然に来た人、「どこにいても私は私。環境や場所は関係ないんです」と言うゴーゴーボーイにはまり買春する女、ゲイやレズビアンのLGBTの人、ホームレス寸前の男など……。その生活の細部が描かれるが、それが本書の“読みどころ”なので、ここでは紹介しない。

 著者がコールセンターで働くオペレーターたちに親近感を覚えたのには理由がある。
 その一つは、大学生のとき旅行資金を稼ぐために東京でコールセンターでアルバイトをしたことがあり、朝から晩まで毎日12時間、ひたすら電話をかけ続ける日々を送った。
 もう一つは、バブル崩壊直後の就職氷河期で、「自分探し」という当時の流行語に踊らされ前向きな就活を行わず、ニートを経験したこと。

 ――30代に差しかかった頃にはもう、社会のメインストリームから外れていることを自覚していた。自分には日本的な正社員という道が残されていないことがほぼ確定的となったのだ。それはつまり、不安定と隣り合わせで生きていかなくてはならない人生である。(本書)

 著者自らいつ「転落するともしれぬ不安定な日々」を送った経験から、こう言う。

 ――海外行きを選ぶことが自らの選択だとするならば、就職活動をせずに非正規労働者になってしまったこともまた自己責任でなければならない。
 海外で困窮することは己の選択で責任もあるだろうが、日本で非正規労働者になってしまうのは社会の責任だとなぜ言えるのか。もちろん、日本社会にもその責任の一端があることは否定しない。〔…〕だが、私は全面的に同意しない。
(本書)

 当方は著者のこの非正規労働者に対する考えに同調しない。しかし著者は、自らフィリピンに住むに至った経緯から、バンコクで働くオペレーターたちには「隣人のような存在」であり、上掲のように「日本で生きていくことが苦しいのであれば、無理に留まる必要はない」と書く。著者のいう居場所とは、自分のことを認めてくれる環境であり、自分の存在意義を実感することができ、承認欲求を満たせる空間のことである。

 著者水谷竹秀は、1975年生まれのノンフィクションライター。現在フィリピンを拠点に活動。著者に『日本を捨てた男たち――フィリピンに生きる「困窮邦人」 』(2011)、『脱出老人――フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(2015)



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