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2018. 01. 22  
2018.01.22大人のための社会科


 日本国憲法では、その第27条1項に、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」ことが盛り込まれました。ちなみに、

いま現在主要先進国のなかで、「労働の義務」ではなく「勤労の義務」を定めた憲法をもつ国はありません。

それだけ日本人にとって勤労とは独特の価値をもつものだったのです。


 「勤労の義務」とは、まじめに労働にいそしむという「あるべき日本人の姿」を示しています。問題は、この考え方が、日本国憲法の第25条1項と結びついていた点です。

 ――第2章 勤労――生きづらさを加速させる自己責任の社会


◆大人のための社会科――未来を語るために|井手英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作|2017年9月|有斐閣|ISBN: 9784641149205|○

たまたま図書館で手に取った「中央公論」2018年1月号。作家の五木寛之(1932~)とそのご指名による慶大教授井手英策(1972~)との対談「85歳の作家が気鋭の財政学者に訊く 日本は本当に貧しくなったのか」があった。二人の世代の違いか、まったく話がかみ合わないが、消費税論など、その面白さに、井手英策に興味をもち、本書を手にした。以下、コメントを加えず、紹介のみ。

 本書は社会科学といっても財政学、政治学、経済学、歴史学と専門分野の違う4人によって書かれた「教科書」である。

 第1部ではGDP、勤労、時代という経済、第2部では多数決、運動、私という政治、第3部では公正、信頼、ニーズという社会、第4部では歴史認識、公、希望という未来を読みとくキーワードが用意される。

 上掲の「勤労」では、まず辞書に「賃金をもらって一定の仕事に従事すること」と同時に「心身を労して仕事に励むこと」と説明がある勤労の概念から始まる。現行憲法制定時にも「勤労の義務を果たさない者」には「国は生存権を保障する責任はない」という主張が公然と行われていたという。

「勤労国家は自己責任によって支えられ、これを家族や地域の助け合いが補完していた」という戦後の流れを概観する。

 ――袋だたきの対象のなかには、地方に住む人々、貧しい人々、高齢者や病気になった人など、多くの社会的な弱者が含まれていました。このように社会の優しさが失われた理由は何だったのでしょう。

 それは、中間層の生活水準が激しく劣化したことです。1990年代半ばをピークに、年収400万円から800万円くらいの所得階層の人たちが大きく所得を落としました。95年に34%だった年収400万円以下の世帯の割合は、47%に増えました。また、いまでは、非正規雇用の割合が全体の4割におよび、年収200万円以下の世帯割合も2割を超えています。
(本書)

 そしてこう結論づける。

 ――勤労国家という名の自己責任社会は、いまを生きる多くの大人たちに生きづらさを刻み込んでいます。 (本書)

 第4部では「人間と人間が価値を分かち合うときに、はじめて個の集合は社会に変転します。しかし、歴史認識問題に象徴されるように、過去の事実でさえ、価値の共有が難しいのかいまの状況です」とし、第10章「歴史認識――過去をひらき未来につなぐ」では、以下の記述が……。

 ――政治家は、歴史認識問題について「未来志向」という言葉を用いることがあります。これが、過去のことはきれいさっぱり忘れてしまおう、という意味ならば、それはむしろ問題を過去に押しやるだけで、そうして押しやられた過去は、いつか再び現代社会に噴出してきて、未来を作ることの妨げになってしまうでしょう。

 過去を、相互不信を生み出す源泉ではなく、認識の共有の場とすることは、人々が協力しあい、〈私たち〉として、未来を作っていくための必要条件なのです。
(本書)



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