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ロレッタ・ナポリオー二著/村井章子訳◆人質の経済学…………☆後藤健二と湯川遥菜は当初「助かる人質」だった。

20180129

2018.01.29人質の経済学


 湯川遥菜は2014年夏に、後藤健二は同年秋に誘拐され、当初は身代金と引き換えにするグループに分類されていた。

 安倍首相は、後藤が2014年11月に誘拐されたことを承知しており、後藤の妻によると、同月中にイスラム国から誘拐を通告するメールが届いたという。そして12月後半には20億円(およそ170万ユーロ) の身代金を要求するメールが届く。

 交渉はメディアに嘆ぎ付けられることなく極秘裏に進められたが、2015年1月の安倍首相の中東訪問ですべてが変わる。

 首相はカイロでの経済ミッションの会合で、イスラム国と戦う周辺各国に2億ドルの非軍事支援を約束したのである。

 安倍首相のこの約束は、イスラム国にしてみれば、有志連合を挑発し、日本に罰を加える願ってもないチャンスである。


〔…〕そこで湯川と後藤の解放交渉は突如として公にされ、ソーシャルメディアは大騒ぎになった。敵の弱点を突くべく、イスラム国はとうてい受け入れられないような条件を出してくる。


◆人質の経済学| ロレッタ・ナポリオー二著/村井章子訳|2016年12月|文藝春秋|ISBN: 9784163905808|○

 上掲にあるようにジャーナリスト後藤健二への身代金は20億円だったが、安倍首相が「イスラム国と戦う周辺各国に総額で2億ドル(200億円)程度の支援をお約束します」という発言したのち、後藤の身代金はその支援金と同額の2億ドルと10倍になった。こうして1月末に湯川と後藤は処刑され斬首の画像が全世界に発信された。

その10年前の2004年、日本人では劣化ウラン弾廃絶運動の一員18歳の今井、ホームレスの子ども支援の34歳の高遠、週刊誌取材のフォトジャーナリスト32歳の郡山の3名がイラク南部で武装集団に、またフリージャーナリスト30歳の安田純平と、市民団体に所属する元自衛官36歳の渡辺も誘拐された。

 かれらは、政府の渡航自粛勧告を無視して拉致されたのだから自業自得だと、政府やメディアから激しいバッシングを受けた。安田は2015年に再度拉致され、今も行方不明のままである。

 他方、同じ2004年に誘拐されたイタリア女性2人は、イラクへの先制攻撃を正当化する物語に仕立て上げられ、ヒロインのように扱われたという。

 すべては、2001年9月11日が発端だった。アメリカ同時多発テロ事件。
 第1に、その後、アメリカは報復として、対テロ戦争、イラク戦争を行い、これが大量の難民を生む根本原因となった。
 第2に、世界の麻薬取引の利益は大半がアメリカで洗浄され、クリーンな米ドルに替えられていたが、愛国者法(PATRIOT。正式名称は、テロリズムを阻止および防止するために必要な適切な手段を提供することによりアメリカを団結させ強化するための法律)によってドルのマネーロンダリングができなくなり、舞台はアフリカを経由しヨーロッパのユーロ決済ルートに移った。

 やがて犯罪組織や武装集団は誘拐によって資金調達をするようになる。当初誘拐の主たる対象は、紛争地に難民を救援するために赴いたNGOなど援助団体のメンバーや、紛争地の悲惨な状況を世界に伝えようと取材に入ったジャーナリストたちだった。

 ――誘拐の目的は三つあった。難民キャンプからNGOを追い払うこと。欧米に拘留されている仲間のジハーディストを解放させること。そしてもちろん、身代金をせしめることである。 (本書)

 アフリカに麻薬が持ち込まれ、それが誘拐ビジネスに発展した後、犯罪集団は人質から、難民の密入国斡旋という新しい“品目”を扱うようになる。

 ――2015年に中東で発生した大量の難民が雪崩を打ってヨーロッパをめざす難民危機が起きたとき、誘拐組織や密輸組織が密入国斡旋に手を拡げるのは造作もないことだった。彼らはすでに緻密な組織を持っていたし、人質の取引で得た潤沢な資金を新しい商売に投資することもできたからだ。 (本書)

 ヨーロッパに流入した難民の90%は、犯罪組織によって行われたという。東地中海ルート、すなわちシリアからトルコ、ギリシャを通り、バルカン諸国経由でドイツやスウェーデンをめざす。このほか、リビアからイタリアへ渡る中央地中海ルート、さらにモロッコからスペインへ渡る西地中海ルートである。密入国斡旋業者は、出航許可を得るために利益の半分をイスラム国に納めるという。

 こうして大量の難民の流入という圧力を受けて、英国のEU離脱などヨーロッパの内部崩壊が始まった。

 著者のロレッタ・ナポリオーニ(1955~)はローマ生まれ。『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』等の著書をもつマネーロンダリングとテロ組織のファイナンスに関する研究者だという。本書、誘拐ビジネスについて書いてはとヒントをくれたのは、日本の版元である文藝春秋の編集者だったという。

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