新海均◆いのちの旅人――評伝・灰谷健次郎 …………☆「学校の先生やめます。きょうから、ただのオッサンになります」

20180205

2018.02.05いのちの旅人

 
 長兄の自死以降、行き詰まりをみせていた灰谷は、1972年、17年間の教師生活にピリオドを打つ。〔…〕

 5月、38歳の灰谷は新学期早々に、全校生徒の前で「学校の先生やめます。きょうから、ただのオッサンになります」と発表。

受け持ちの子どもたちへの責任も放棄する。


 教師を辞めた灰谷は、二度目の結婚生活もほとんど破綻し、本土復帰直後の沖縄へ放浪の旅に出た。ささくれだった自分を癒やしたいという思い、死にたいという願望もあったという。


◆いのちの旅人 評伝・灰谷健次郎 |新海均 |2017年10月|河出書房新社|ISBN: 9784309026183|○

 当方は、編集者が書いた作家や出版社の回想録、“内幕もの”、評伝、エッセイ類が大好きである。以前この種の本をまとめて50冊ほど某古書店に引き取ってもらったとき、この方面のお仕事ですかと訊かれたことがあるが、もちろんそうではない。

 本書の著者新海均(1952~)は光文社の元編集者。すでに魅力的な著書がある。
深沢七郎外伝――淋しいって痛快なんだ』(2011)でララミー牧場時代の深沢の日常を描き、『司馬遼太郎と詩歌句を歩く』(2015)では司馬作品に引用された俳句、和歌、漢詩、謡、連歌から作品のもう一つの魅力を引き出し、『カッパ・ブックスの時代』(2013)で光文社の“私的社史”を、天才プロデューサー神吉晴夫の晩年も描いた。

 『いのちの旅人――評伝・灰谷健次郎』は、「宝石」編集者の新海が灰谷に連載対談を依頼し、灰谷のその強烈な個性にはまり、以後作家と編集者としての交遊が続く。そして灰谷の死後10年を経て本書を書くに至る。評伝とあるが、年譜も作品目録もない。著者自身も児童文学に思い入れがあるようには見えない。著者の興味は、灰谷の一歩はみだした生き方である。

 だが当方の関心は、もっぱら作家が作品を生むプロセスでの、編集者のかかわり方にある。新海が連載対談「われらいのちの旅人たり」を提案し、灰谷は「そのタイトル、ええね」と乗ってくる。落ちこぼれをテーマにしたいとも。

 1985年の1年間月刊「宝石」を飾った。対談相手は山田洋次、石倉三郎、白川和子、丸元淑生、水上勉、アグネス・チャン、宮崎学、高木護、樹木希林、住井すゑ、山西哲郎、山田太一。
 対談について、テーマの設定、会場の選択、対談の現場の模様、相手の発言の貴重な一言、終了後の言動などが綴られ、編集者の仕事とは何かが具体的に示される。

 児童文学作家灰谷健次郎(1934~2006)は、神戸で生まれ、夜間高校、夜間大学を卒業後、神戸市立の小学校に教師として17年勤め、その後沖縄、アジアを旅し、『兎の眼』(1974)がミリオンセラーとなる。

 当方は灰谷健次郎に興味をもったことが二度ある。

 一つは、1964年、畏敬する大先輩、当時の神戸市立図書館長に、足立巻一『詩のアルバム――きりんの仲間17年』を読むように薦めれたとき。竹中郁、足立巻一、坂本遼たちによる児童詩誌「きりん」の編集に若き灰谷もかかわっていた。子どもの自由で生命力あふれる詩の指導者。当時東灘小学校教諭だった。だが教委では“厄介者”扱いで敬遠されたいた。本書でその理由が初めて分かった。

 もう一つは、2017年。神戸で少年A事件が起こり、加害者Aの写真が新潮社の写真週刊誌「FOCUS」に掲載されたことに抗議し、新潮社から文庫19点、書籍6点の著作権を引揚げる。灰谷の著作の大半は新潮社だった。その突出した行動には賛否が分かれた。当方は、“ええかっこしい”の自縄自縛と思った。

 だがいま振り返ってみれば、自分が生まれ育った神戸、そこで教師をしていた自分自身を思い、加害者の中学生を生んだ地元に対する“自責”の念、贖罪の思いがあったのではないか。

 海を愛し、旅を重ね、住む地を替え、家庭を放棄し、友人と組み、書き、語り、奔放に生きた73年の生涯だった。

 本書には灰谷の30代の頃の作と思われる詩が掲載されている。

さけびつづけてわれひとり
さまよひつづけてわれひとり
なきつかれねむるらんかんに
はへがいっぴき
(「法隆寺五重塔・羅漢像」)



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