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角幡唯介□アグルーカの行方――129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極

20130729アグルーカの行方

約160年前の同じ季節、船から脱出したフランクリン隊の生き残りは、キングウイリアム島の海岸で仲間の死肉を食らって生きのびようとしていた。

そして彼らがカニバリズムに走ったのと同じ場所で、私たちは1頭の麝香牛の母親を殺害し、その肉を食った。自分たちが肉を食べるためだけに、群れから取り残された仔牛まで撃ち殺した。

私たちはあの時、残酷だったのだろうか。間違いなく残酷だったと思う。〔…〕

もし私が今度の旅で何か分かったことがひとつだけあったとすれば、それはあの時に感じた、ある種の生きることに対する罪悪感であった。

自分はあの時たしかに残酷であり、私は自分が残酷であることを知った。

他の誰も知らないことを私たちは知ったのだ。



□アグルーカの行方――129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極│角幡唯介│集英社│ISBN:9784087815061│2012年09月│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
地図なき世界と戦い帰らなかった人々を追う
極地探検史上最大の謎、19世紀に129人全員が行方を絶った英国のフランクリン探検隊。幻の北西航路発見を果たせず全滅したとされるが、アグルーカと呼ばれる生き残りがいた? 地図なき世界と戦い、還らなかった人々を追う、壮絶な1600キロ徒歩行。

〈ノート〉
著者と北極冒険家である荻田泰永とは、2011年3月、北緯74度40分のカナダ北極圏にいた。旅の目的は、1845~48年、イギリスのジョン・フランクリン率いる探検隊の足跡をたどるために。

2人は、フランクリン隊のルートと重なるように約1千キロの氷の海の上を歩き、フランクリン隊の最終目的地を目指し、北米大陸のツンドラ地帯へと渡る計画だ。

かれらの食糧は、1日3食で重さ1キログラム、5千キロカロリーを目安に用意。
朝は、即席麺、ぺミカンという肉や野菜に火を通して脂で固めた極地食50グラム。
昼は、一日分500グラムのカロリーメイト、ビスケット、ナッツ、ドライフルーツ、あめ玉など。それにサラダ油とゴマ、きな粉を加えた荻田特製のチョコレート。
夜は、アルファ米(水だけで調理できる米)やパスタをカレーやシチューで味付けしたもの。それにぺミカン、ソーセージ、乾物、バター、チーズなどを加えた。ひとり分で直径20センチ、深さ10センチほどの鍋がいっぱいになる。

やがてその食べきれない量の夕食を食べ終わった瞬間に、腹が減ったと感じるようになる。1日5000キロカロリーの食糧だが、徐々に痩せはじめる(なお一般的な成人の摂取カロリー1800~2200カロリー前後)。

――しかし疲労と空腹感は日毎に耐えがたいものになっていった。時折、乱氷が現れるガタガタとした氷の上を氷点下30度の寒さの中、26キロから30キロもの距離を、毎日毎日10時間も重い棒を引いていたら体は否応なく消耗する。(本書)

最悪の場合、北極熊を撃ち殺し、食おう、と思う。そして10数頭の麝香牛の群れを発見する。以下10ページを超える詳細な記述があるが、探検の一つのクライマックスなので、引用は以下のフレーズにとどめる。

――しかし一頭だけ、殺した母牛の仔牛だけは群れから置き去りにされ、丘の上に残っていた。ぬいぐるみのようなかわいらしい巻き毛で覆われた体を死んだ母牛のそばに横たえ、すやすやと居眠りをしていたのである。(本書)

タイトルのアグルーカとは、何か。
アグルーカとは、イヌイットの言葉で「大股で歩く男」を愚昧する。
背が高く、果断な性格の人物に付けられることが多かっだ。
かつて北極にやって来た探検家の何人かが、この名前で呼ばれた。
(本書)

本書も出版されほぼ1年近くなるが、講談社ノンフィクション賞にノミネートされていると知り、ようやく読み始めた。著者のノンフィクションに対するストイックな姿勢から、全員一致で受賞間違いなしと思われる。

なお記者時代の著書『川の吐息、海のため息――ルポ黒部川ダム排砂』(2006)があると知り、版元の桂書房に問い合わせたが、在庫も再販予定もないとのことだった。

〈読後の一言〉
『空白の五マイル』(2010)と同様の手法で、160年前の探検隊の行動と並行して今を記述する。それにしても角幡唯介の探検を読むには、活字での追体験ではあるが、恐ろしく体力が必要だ。

〈キーワード〉
北極 麝香牛 残酷 フランクリン探検隊 

〈リンク〉
角幡唯介◎空白の五マイル――チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡唯介◎雪男は向こうからやって来た
角幡唯介▼探検家、36歳の憂鬱


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