いとうせいこう◆「国境なき医師団」を見に行く…………☆「俺が飢え苦しみ、俺が戦いに巻き込まれ、俺が犯されていたのだった」

20180322

2018.03.22国境なき医師団


「移動の間に、あらゆる暴力があります。レイプがあります。強奪があります。病気や怪我にさいなまれます。それでも彼らは安住の地を求めて動き続けるしかありません」

 彼らの地獄のような歩行、航海を想像しながら、俺は黙ってメモをとったものだ。

「しかし彼らは自分たちが非合法だと思っているから、誰を非難することもない。訴えることも出来ない。ただただ耐え忍んでいます。そしてひたすら、自分たちを通してくれと言うだけです。しかし、人道に非合法か合法かなどという区別はありません」

 そうでしょう? とマリエッタさんは無言で俺たちに問うた。もちろん俺たちはうなずいた。 〔…〕

「生きるために紛争を逃れてきた身に、非合法なんてことはあり得ません」 〔…〕

「彼ら難民の方々には、他の誰とも同じように尊厳があります」

 この言葉は日本ではいかにも浮いて聞こえるようになってしまった。だが、少なくともMSFギリシャ事務局長マリエッタ・プロヴォポロウが言う「尊厳」は本来的な重みを持つ言葉だった。


◆「国境なき医師団」を見に行く|いとうせいこう|2017年11月|講談社|ISBN: 9784062208413|◎=おすすめ

 国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres=MSF)とは、紛争国や大災害地域で活動する若い使命感に燃えた医師たちの非営利団体だと思っていた。だが本書で、難民、貧困、性暴力頻発地域など多岐にわたり、医師だけでなく多様なスタッフで活躍していることを知った。

 MSFは世界各地に29事務局を設置。2016年は3万9000人以上の海外派遣スタッフ・現地スタッフが、約70の国と地域で活動。うちMSF日本からは107人を派遣し、34の国と地域で活動。経費はほぼすべて民間からの寄付。……とのこと。

「私たちは好んで危険な場所へ行くわけではないんです。きちんと安全を確保出来ると判断しなければ人員を送りません。貴重な人材の身を守ってこその弊団です」
 と語る広報の谷口博子さんともに、MSFの現場を見て、PRをしたいと著者は、ハイチ、ギリシャ、フィリッピン、ウガンダへ。

多くの現地スタッフが紹介されている。うち二人……。スタッフはあらゆる傷に絆創膏を貼る。絆創膏を貼るとは、事態の根本的な解決はその国にまかせ、緊急援助のみに集中する意味でつかわれている。

 フィリピン、マニラのスラム地区で活動する菊池寿加さん。

 ――自分で決める裁量も大きいし、プレッシャーを越えた達成感もあるし、わたしは迷いなく活動を続けると思います。ただし、MSFを聖人君子の集まりみたいに見ないで欲しいんです。こんな風にいつもビール飲んで、文句たらたら言って、悪態ついて、それでも働いてるんです。

 ギリシャで医療スタッフとして活動するシェリー(68歳)さん。

「家族もみんな独立して、ようやく私の番が来たから。ここに来る前はスワジランドに13カ月いたのよ。そして5ヵ月休んで孫の世話をたっぷりした。でもそろそろリタイヤしようと思ってます。
MSFだけが人生じゃないから。もうほどほどにして、他の生き方も楽しんでみなくちゃ」
 
 けれど、と著者は書く。
 ――彼女はやめられないのではないか、と俺は思った。世界に困難がある以上、彼女は力を尽くさずにいられないだろう、と。

 MSFには、文化的仲介者(カルチュアル・メディエーター)というスタッフがいる。

 ギリシャの地へシリア、イラク、エジプト、アフガニスタンから逃げてくる人々は英語を話せない。言葉を通訳し、それぞれの慣習を医師に説明する。さらに宗教的な都合を持っている。ケアを受ける側がまた抑圧だと感じてしまってはいけない。難民支援には文化的仲介者が不可欠なのだ。

 ウガンダについては、以下、状況を大胆に要約してみる。

 ウガンダは人口4,000万人、ここに隣国南スーダンなどから1年の間に100万人の難民が流入した(日本に250万人の難民が来たと思えばいい)。

  南スーダンといえば、日本の自衛隊が初めて武器携行をして出動をし、突然去ることになった国である。政府軍と反政府軍の紛争だ。稲田明美防衛大臣は「法的な意味における戦闘行為ではなく、衝突だ」と言った。防衛大臣はわずか7時間の滞在のあと「状況は落ち着いている」と語った。まさにその間、南スーダンの100万の人々は先祖伝来の畑と別れ、家族を亡くし、命からがら国境を越えていた。

 国境なき医師団(MSF)はウガンダ北部のビデイビデイほか4か所の難民居住区において、コレラ対策、基礎医療、妊産婦ケア、小児医療、外来診療、入院治療、救急医療、移動診療(アウトリーチ)、清潔な水の供給、衛生管理などなどを行っている。

 著者は書く。

 ――彼らが俺だと考えることであった。ずっとそう書いてきたのになぜ気づかなかったのだろうか。俺が出来る最善の行為がそれだった。

 彼らは水を待ち、食料を待ち、心理ケアを待ち、愛する者に会える日を待っている。
そして何より、「共感」を待っているのだった。自らの人生の状況に、解決よりまず先に「共感」して欲しいのだ。
〔…〕

 俺が飢え苦しみ、俺が戦いに巻き込まれ、俺が犯されていたのだった。俺がスラムに住み、神に祈り、沈んだ船から冷たい海に放り出され、屈辱を与えられ、未来への想像を奪われていたのだ。 (本書)

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