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2018. 04. 05  
2018.04.05記者襲撃


 私が度々取材した、戦前派右翼の畑時夫氏(故人)。

 中央公論社の嶋中事件でも右翼と中央公論社の仲介役として動いた老右翼が生前、にこやかに微笑みながら、達観したようにこう話していた。

「私は朝日新聞を信頼しているんですよ。戦前、平時は左翼を装っていたが、いざ国家の危急時には本来の姿を取り戻して愛国派の新聞になってくれた。

今は平和の時代。仮の姿なんだから、好きにやっていただいて構いませんよ」


 「歴史は繰り返される」という畑氏の朝日新聞に対する「予言」が当たらないことを、私は心から願っている。


◆記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実|樋田 毅|2018年2月|岩波書店|著者 9784000612487|◎=おすすめ

 ――1987年5月3日に兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局が散弾銃を持った目出し帽の男に襲われた。当時29歳の小尻知博記者が射殺され、当時42歳の犬飼兵衛記者が重傷を負った。この事件を含め、約3年4か月の問に計8件起きた「赤報隊」による襲撃・脅迫事件は、2003年3月にすべて公訴時効となった。(本書まえがき)

 「日本民族独立義勇軍 別働 赤報隊 一同」による「告 われわれは日本人である」から始まる最初の犯行声明文の一部。

 ――われわれは日本国内外にうごめく反日分子を処刑するために結成された実行部隊である。
一月二四日の朝日新聞社への行動はその一歩である。
これまで反日世論を育成してきたマスコミには厳罰を加えなければならない。
特に、朝日は悪質である。
彼らを助ける者も同罪である。
 〔…〕

 著者樋田毅(ひだつよし)は、1952年生まれ、元朝日新聞記者。当該事件の起こった阪神支局にも勤務していたことがあり、当初から取材チームの一員として“見えない赤報隊”を、記者人生を賭けた使命だと実に30年にわたり追い続ける。

 その取材は、「一般的な取材ではなく、犯人を追い求める取材」であった。
 警察庁が「赤報隊事件の犯人の可能性がある」とした全国各地の右翼活動家9人をはじめ、朝日襲撃グループと同様に「赤報隊」と名乗ってい右翼団体、銃の所持者、犯行で使用されたものと同型のワープロの所持者、爆発物製造の経験者らも含まれていた。
 さらに、当時、霊感商法や国家秘密法などの報道を巡って朝日と緊張関係にあり、大規模な合同結婚式などで世間を騒がせた教団キリスト教系の新興宗教団体及び関連政治団体についても取材を進めた。

 30年間にわたる取材経過をたどり、事件の意味を改めて問い直した渾身の一書である。

 この事件の取材の悩ましさは、朝日が被害の当事者であり、取材者であったこと。兵庫県警捜査本部への情報提供は、報道機関として「取材源の秘匿」を守らなければならない。しかし捜査の第一線を離れた警察庁では、ずさんな情報管理で、朝日の提供した取材報告書が他社の記者、雑誌記者にまで出回ってしまう。
 とくに、『週刊文春』が、「戦慄スクープ朝日銃撃「赤報隊事件」絞り込まれた9人の容疑者警察庁秘密報告書」は、その多くは朝日が作成した取材報告書からの引用だったという。

 朝日としては情報を提供し、捜査の結果を待つ、という手順を踏まざるを得ない。同時に専従取材チームでは担当デスクから「お前たちは記事は書くな。刑事のように動いて、犯人を見つけろ」と指示され、「書かざる記者、書くは報告書ばかりなり」のストレスにも悩まされる。記者としての最大の苦悩であろう。

 ところで本書では、「事件経過」のみフィクション仕立てとなって、分かりやすい記述となっている。が、著者はここに“推論”を潜ませている。それは通常右翼の世界では、事件を起こした後、その身を司直に委ねるか、その場で自決するのが「美学」とされている。しかしこの犯人たちは「捕まらない方針」を貫いている。それは何故かという謎である。“推論”は、確証がないゆえの“示唆”である。

 ――秘密裏に「上部団体」と連絡を取りながら、犯行を続けていたため、事件現場などで捕まる事態になれば、その上部団体の存在が明るみに出てしまう可能性がある。そうした事態を避けなければならなかったのではないか。〔…〕一連の事件の背後の「闇」は想像以上に深く、ある種、謀略めいた臭いまで立ち込めてくる。 (本書)

 それにしても、休日の人通りの少ない町の、人の出入りの少ない建物の、常駐する記者の少ない時間帯、を選んだとしても、それがなぜ阪神支局なのかの謎は解明されない。

 本書は、政治的テロによって殺された若き記者への鎮魂の書であり、時効で逃げ切った赤報隊へ真相を語れとの呼びかけの書であり、書き残すべきことをすべて書いたジャーナリズム魂の権化の書である。そして右翼の畑時夫の上掲の発言を、ジャーナリストたちは深刻に受け止めなければならない。

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