高井隆一◆認知症鉄道事故裁判――閉じ込めなければ、罪ですか?  …………☆JR東海の理不尽な言動の数々に、読者も怒りがこみ上げる

20180711

2018.07.11認知症鉄道事故


 話し合いもしないまま内容証明郵便が到着したこと、あり得ない異例な仮差押え、JR東海の認知症へのあまりの無理解、尋問時の代理人の高圧的な態度、そして、最後に90歳になった母への執拗な尋問請求です。

 しかし一番は、父が降りていったであろう線路に降りる階段が、裁判中も無施錠のまま放置されていたことでした。 〔…〕

 その場所で父が亡くなった事実を全く無視するかの如くの対応でした。

危険な線路ともわからずに扉を開けて降りて行った父の姿が何度も私の脳裏に浮かび、その無念さを思うとき、扉を無施錠のまま放置しているような会社を、和解ながら許すことに耐えられなくなっていたのです。


◆認知症鉄道事故裁判――閉じ込めなければ、罪ですか? |高井隆一 |2018年4月|ブックマン社|ISBN:9784893088970|○

 これはJR東海共和駅で発生した鉄道事故の裁判で被告となった著者高井隆一(1950~)の記録である。認知症患者の父親が線路に立入り走行してきた列車にはねられたことにより、JR東海から振替輸送費等の損害賠償を請求する訴訟を提起された。

 ところで当方が「呆け老人」という言葉を知ったのは、1972年、この年に出版された有吉佐和子『恍惚の人』によってであった。「呆け老人をかかえる家族の会」発足はその8年後の1980年。そして2004年12月に「痴呆症」が「認知症」に厚生省通知により名称変更された。

 以下、この事件の経緯をみる。

2007年12月7日 JR東海共和駅構内で父・高井良雄氏が快速電車にはねられ死亡。(JRでは「衝撃」というらしい)
2008年5月19日 JR東海からの配達記録付き「ご遺族様」宛封書(720万円の損害請求)。
2008年6月3日~ こちらの弁護士から返書、あわせて電話する。JRから「認知症というなら診断書を送ってくれ」との回答。「診断書」「死体検案書」を送付。
2008年12月25日 「ご通知」と題した配達証明付き内容証明郵便が到着。「何らかの連絡がないときは、訴訟提起等の法的手続きをとります」。
2009年8月 JR弁護士から同主旨の内容証明郵便。同9月、「話し合いのないまま」の請求には応じられない旨の返信。
2009年11月 名古屋地方裁判所から母名義の不動産に「仮差押え」の通知。
2010年2月8日 JR東海、名古屋地裁に訴訟を提起。

2013年8月9日 地裁判決。男性の妻が「まどろんだことが過矢。目を離さず見守ることを怠った」と責任を認定。長男も「事実上の監督者で適切な措置を取らなかった」として2人に請求通り720万円の賠償を命令した。

2014年4月24日 名古屋高裁判決。長男は「20年以上父親と別居しており、監督者に該当しない」と請求を棄却。妻の責任は1審に続き認定し、半額360万円の支払いを命じた。

2016年3月1日 最高裁判決。長男はもちろん妻についてもJR東海への損害賠償義務を否定した。妻が民法第714条1項にいう認知症患者(責任無能力者)に対する法定の監督義務者としての地位になかったと判断。

 以下、JR東海の理不尽な言動の数々に、読者も怒りがこみ上げる。

第1。内容証明郵便だけで、姿を現さないJR東海。
 ――父が亡くなった日から現時点まで10年近く、一度たりともJR東海と面談も話し合いもしていない。顔の見えない相手から、内容証明郵便が送りつけられるだけ。
「形だけでも線香でも持って挨拶に来てくれてさえいたなら」とJRの傲慢で高圧的、非常識ぶりに著者はあきれ返る。

第2。平気で嘘の会見をするJR東海社長。
 ――当社としてはまずは話し合いによって解決をする。繰り返し話し合いの申し出をしたが、残念ながら応じてもらえなかった。(最高裁判決の翌日の JR東海柘植康英社長会見発言)
 JR東海が内容証明郵便を送りつけたことをもって「話し合いの申し出をした」としているなら、そんな常識はあり得ない、と著者は憤る。

第3。話し合いさえしていないのに自宅を仮差押えしたJR東海。
 仮差押え手続きは、債権回収ができなくなるという緊急性のある場合の手続き。何十年も前から父母の自宅であり、嫌がらせ、脅かし、JR東海の傲慢な意図を感じた、と著者。

第4。事故を起こした線路に降りる扉を裁判中も無施錠のまま放置したJR東海。
 共和駅で降りたものの、そこから排尿のためにホーム先端のフェンス扉を開けてホーム下におりて事故が起こったと推認されている。しかし上掲にあるように、「その場所で父が亡くなった事実を全く無視するかの如くの対応」をした、と著者一番にあげる怒りである。「扉への施錠は私たちが何度指摘しても無視され、無施錠のまま放置される状態が続き、管理には全く問題はないとの主張が続いていました」。
 「父が『隆や。わしゃあ、なんか悪いことでもやったかやあ』と言っている気がしました。

 JR東海といえば、国鉄改革3人組の一人葛西敬之が30年にわたり君臨している会社である。これが恐るべき葛西イズムというべきか。

 そして本書によれば、2016年には1万5千人の認知症の人が行方不明に。また、認知症の高齢者は2025年には700万人になるとの厚生労働省の推計がある。

他人事ではないのである。


松本 創◆軌道――福知山線脱線事故JR西日本を変えた闘い 

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